東京異界録 第3章 第14録

 右腕から繰り出された雷撃は、ひとつは狙い通りに当たったが、もうひとつはよけられてしまい、後続の同類に激突する。ちょっと気の毒であるが。
 残る二匹は速度を上げ、更に腕を高くあげて威嚇しながらやってくるが、その間左手に溜めたレイリョクを解放し目の前に無色の壁のようなものを発現させる。
 ダメージを与えるまでにいかなくとも、敵の動きを封じることができれば次の手が打ちやすいからだ。
 ハエと人の中間のような姿をしている敵は四体。おそらく能力は同じで鎌に変えた手で引き裂くタイプ、だろう。
 数秒で自分なりに分析し、どのように動けばよいのか判断しようとする。いや、反応、と言ったほうがよい。
 ちなみに、カヌス君は呼び主を抑えてくれていた。敵の女は、死神の鎌のような武器を用い、彼の剣と交戦中である。
 私と彼の間に存在する障害物は消さなければ。
 壁を出したと同時にまたレイリョクを集中させた私は、今度はヤリ状に変形させ壁から放ち、一同を串刺しにしようとする。
 だが、敵が障壁を突破しこちらに斬りかかってきた。ジュツに集中していた私は気づくのが遅れ反射的に反時計回りに体を回転させたが、利き腕を負傷してしまう。
 しかし、おかげでジュツの発動時間を稼げた。想像よりも威力が低かったが、先に傷を負わせた二匹が消え、もう半分は壁に激突させて昏倒させた模様。
 肩で息をするほどの消耗だが、早く目の前の敵を倒さなければならない。
 一歩踏み出すと、途端左腕を後ろに持っていかれた。見ると、険しい表情をしているカヌス君がいる。
 「じゃあなっ」
 彼は言葉と同時に私のとは比べ物にならない大きさのジュツを放った。建物の縦側を破壊しながら女に向かっていく水弾は、光と共に私の視界から消え去る。
 元に戻ったときは、まだ通っていない西校舎の通路だった。驚いたことに、カーラ君たちがいるではないか。
 「ビックリしたわあ。急に出てくるんだもの」
 「え、あ」
 プリムの声もそうだし、何故ここにいるのかわからない。キョロキョロとしている私とは裏腹に、明日香ちゃんは何かに気づいたようだ。
 「あ、あの。大丈夫、ですか」
 カヌス君に近づいた明日香ちゃん。目で追うと、連れ出した相方が右肩を抑えてうずくまっているではないか。
 「あらま。随分派手にヤラれたわね」
 口調は軽いが、声質は重い。彼女の言葉にハッとすると、慌てて駆け寄る。
 「な、ちょ、み、右腕が」
 「落ち着いて。人間のように死にはしないから」
 額に脂汗をかいている次男坊。いかに妖怪とはいえ、痛いものは痛いはずだ。
 ハンカチで顔を拭くと、彼はうっすらと目を開ける。顔の右半分には緑色の光が当たって顔色は変わらなく見えており、イタズラっぽくウィンクしてみせた。
 「何があった」
 「あの女の、側近らしき女がいた」
 鼻が曲がるかと思ったぜ、と大怪我人。香水はつけていなかったと思うけど。
 だが、兄には弟の意味がわかったらしく、眉間にしわを寄せる。
 「あの人は。一体どういうつもりなんだ」
 「お前、何も聞いてねえのかよ」
 「知っていたら全員で行動している。おれたちはともかく、人間達には危険すぎる」
 「かといって出られねえじゃねえか。どうすんだ」
 徐々にカヌス君の腕が形を帯びていく中、周囲には怨鬼(おんき)や力の強い怨霊まで集まってきていた。おそらく、血のにおいにつられてきたのだろう。実際に液体が流れているわけではないが、その辺りは視覚化されないだけであるらしい。
 一瞬構えた女性組だが、カーラ君が左手を

掲げると私たちを中心にした緑色の光円が形成される。すぐに放たれた光の刃は、周囲を一瞬で沈黙させてしまった。

 「ここでは反流(はんる)が一番有効だ。伽糸粋(カシス)たちはそのままでいいとして」
 まだ腕が透けているが、ひと通りの治療は終わったよう。カヌス君は一度保健室に戻り、力を補充することに。
 「加濡洲(カヌス)、お前はクサナギに今のことを伝えて加具那(カグナ)に繋いでもらってくれ」
 「わかった。いったん引かせてもらう」
 チラ、と目が合う。
 「楓ちゃんはおれたちと一緒に回ってもらうから」
 「あ、そう」
 りょーかい、と、どういうわけかふてくされてしまう。カーラ君は顔にクエスチョンマークを浮かべ、プリムは含み笑いをする。
 「大変ねえ、楓嬢」
 「へっ。わ、私」
 「そうよお。ちなみに私、親しい女性には嬢をつけるクセがあるのよね」
 は、はあ。さいですか。
 「とにかく、今はその女が一番手強いようだ。他にもいないか探そう」
 カヌス君を送った彼いわく、今回のゲームは強い物の怪を倒して力を高める意味もあるという。そんなこと頭になかったわ。今までやってきたことなのに。
 どうもひとつのことに集中すると、他のことが飛んじゃうみたいね。はあ。
 「まあ焦らずに。君の傷も治さないと」
 と、傷の上に右手を添えるカーラ君。うわ、気持ちに気づいちゃったから、何か恥ずかしいんだけど。
 すぐに治ると、あらあ、と妙な音が。
 「随分早いのねえ。力が馴染んでるのかしら」
 「属性が同じだからだろう。それに、反流(はんる)も使っている」
 「そうだ、ハンルって何」
 思い立ったように聞くと、彼は、レイシの流れを読み取ること、と教えてくれる。しかし、それは広義での意味らしい。
 ちなみにレイシは、レイリョクを構成している小さな力の塊なのだとか。
 「反流(はんる)は色々なことに使えるんだよ」
 と、笑顔で話すカーラ君。悲しいかな、上手く飲み込めない。
 妖怪世界の奥深さに、私はまだまだついていけていないと思った。

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