カヌス君が大怪我で離脱すると、私はカーラ君と明日香ちゃん、そしてプリムのチームに合流する。今までとくに変わったことはなく、話をしながら歩いていた。
「あ、あの、あの」
と、下のほうから声をかけられる。主は明日香ちゃんで、肩掛けポシェットを握りながら、えっと、えっと、と口にする。
何だか昔の自分を見ているみたいだわ。
「こ、これ。よかった、ら、使って、ください」
と、入れ物ごと差し出される。中で何かが動いているような気がするんだけど。
「主人(マスター)からのプレゼントよ。中身だけ受け取ってちょうだい」
そう話した元敵は、女の子が持つポシェットのふたをあけ、手には緑色の鎖で五重以上に巻かれている何かがいた。どうやら、怨霊のようだけど。
「あ、あの。楓、さん、力が不安、定みたいだから。その」
ああ、そういうことね。
「ありがとう、明日香ちゃん。でももらっていいの? 明日香ちゃんは使わない」
「だ、大丈夫、です。クゥちゃん、助けてくれたし」
私の力じゃあないんだけど。おそらく、カーラ君たちが何かを話したのだろう。
彼女の気持ちも汲みたいので、感謝と共に受け取ることに。
「それ、主人(マスター)が一人で倒したのよ。すごいでしょっ」
「ウソッ。強めだよね、コイツ」
「ホ、ン、ト。加阿羅(カーラ)ちゃんなんて腰抜かしてたもの」
「抜かしていない。いい加減なことを言わないでくれ」
驚きはしたが、と本人。この人をからかって遊ぶなんて、プリムはすごい人である。
「合わせてくれたっていいじゃないの、もう」
いや~、いじけても、ねえ。
そんなこんなの状況の中、再び歩き出そうとすると、足元にクナイが飛んでくる。私がよく使うジュツではなく、本物の刃物である。
「能力者の人たちでしょ。手合わせしてよ~っ」
と、二人のジャージ姿が瞬間移動で登場する。同じ学校のものだが、会ったことはない。
「あれ。藜御(あかざみ)さんって誰だろ」
「見た目的に銀髪の人だろ」
ポカンとしてる女の子としっかりしていそうな男の子。彼女たちはバスケイベントの服装のまま参戦したらしい。
「あっ。あの人、春夏冬(あきなし)先輩かも。超ラッキー、うわさどおりの超イケメンッ」
「出た追っかけ精神」
「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」
な、何しに来たんですか。あんたらは。
ちなみにすぐ後ろからは、うっとうしそうなため息が聞こえた。
「というコトだから、藜御(あかざみ)先輩。一緒に来てもらえませんか」
「どういう意味なのかわかんないけど。お断り」
「ええっ、そんなぁ。女同士イケメンの話をしまじょ」
脳天を直撃された後輩は床に顔面ダイブをする。拳からユゲを出している男子生徒は、コホン、と咳払いをした。
「このバカは放っておいて。あるお方が君と話したがってるんだ。だから来てほしいんだけど」
「そっちからくるように言ってもらえますか」
「それが立場上できないんだよね。俺も一方的だとは思うんだけど、さ」
このままだとラチがあかないわね。どうするか。おそらく、相手も頭をかいている辺り、同じように考えているのかもしれない。
「じゃあこうしよう。二対二で対決して勝ったほうの言うことを聞くってのは」
「中々いいアイデアだ」
そう言いながら前に出たカーラ君。私に視線を配ると、すぐに前に戻した。
「男女のペアでいいだろう」
「もち。むしろ助かるよ。ほら、いつまで寝てるんだって」
「うう、あんたがやったんじゃん」
患部をさすりながら立ち上がる女子生徒。手が動いており、既に戦闘が始まっていることを示した。
「んじゃ、遠慮しないよおっ」
レイリョクを解放したと同時に現れた銃。既に構えられており、こんな至近距離でぶっ放し始めたではないか。
じょじょじょ、冗談じゃないわよっ。
思わず頭を抱えてうずくまる私。しかし、銃撃音が鳴り響いただけで、こちらには何の被害もない。
いや、正確に言えば、カーラ君がいつの間にか緑色の壁を出しており、こちらへの被弾を防いでいたのだ。
「わぁお。不意をついたのに」
「霊力を弾に換えて、か。面白い発想だ」
壁のところどころが、ぶるっと動く。
「どのぐらいの威力なのか、確かめてみよう」
この言葉が合図だったのか、先ほど身震いしたモノは、相手に向かって飛んでいく。おそらく、撃たれた弾なのだろう。
「うげっ、そんなのアリッ」
「まあ、何でもアリな世界だからなあ」
そう話した男子生徒は、負けじと前に出て両手を上下に構える。すると大きな盾のようなものが現れ、弾をはじいた。
彼の口元は、ニヤリ、と歪ませる。
「初めて見たよ。こいつの攻撃防いだ奴」
「まさかこれで終わりじゃないだろう。あまりにも単純すぎる」
「ちゃんと正攻法もあるって。でもなあ、あんた相手じゃ面倒そうだし」
「藜御(あかざみ)先輩、いいなあ~。イケメンに守ってもらえて」
「俺じゃ不服だってのか」
「あ、ゴメンゴメン。そういう意味じゃないんだ」
失言失言、と女子生徒。どうやら軽口のようである。
一方彼らの会話に、カーラ君は首をひねる。
「場所が悪いなら変えようか。別に構わないが」
「いや、今回は引くよ。ちゃんと準備してくるからそんときにお願い」
何よそれ。ちゃんと準備してからうろつきなさいって。
「それならそれで構わない。そのときは返り討ちになるだけだよ」
「うっわー、言ってくれるじゃん。絶対に負けないんだからっ」
ビシィッ、と人差し指で指される私たち。その後姿を消した二人は、微妙な空気を残していった。
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