コンビニに寄って戦闘食を手に入れると登校する私たち。まあ、正体はお菓子だけど。
朝から体操着に着替えると、全校生徒は体育館に集合し、コウチョーセンセーの話をあくびしながら聞いたあとは、張り出されているトーナメント戦の紙を確認。
当然男女別になるので、校庭と体育館の二ヶ所、合計四つのコートで試合をすることになっている。
で。私のクラスの初戦は、どういうわけか男女とも同じ体育館で、時間帯もひとつだけしかずれていない。つまり、隣にいる状況なのだ。
ま、まあ、有事の際には助かるんだけど。ここまで来るとどのように反応してよいのかわからなくなるわ。
ふと見ると、翔(しょう)君が壁に寄りかかりながら試合を見ている。目が戦っているときと同じように、鋭かった。
「どうしたの。何かいた」
集中力が途切れてしまったらしい彼は、いつもののほほんとした笑顔に戻る。
「別にいないよ~。どういう風に動いているのか見てただけ~」
「どうって。どういうこと」
「ん~。敵の動きを分析してるって感じかな~」
表情と言葉がかみ合ってませんけど。
「君もやってみるといいよ~。いい訓練になるからね~」
「連中と戦うときってことよね。バスケと全然関係ないんじゃないの」
「動きを見るってところは共通してるよ~」
う、うーん。イマイチよくわからないんだけど。そのうちわかるようになるのかな。
話しているうちに、女子のほうが試合時間になったようだ。
「相手に体当たりしないようにね~」
思いっきり足を踏みつけた後、私はみんなと合流した。
「藜御(あかざみ)さん、翔(しょう)君となに話してたの」
「別に何も。相手を見てたんだって」
「へえ~。あそこは確か、男子が勝ち上がったときの対戦相手だよね」
そ、そうなんだ。さすがバスケ部マネージャーの宮田さん。そこまで気が回らなかった。
「ま、テキトーにやろやろ」
あんまし力が入っていない私たちだが、コートの中でスタンバイする。ピーッと笛がなった瞬間、何者かの視線を感じた。
試合が終わり、三対一で私のクラスが勝利。ノリ的に喜ぶ女子たちは、水分を求めて各自の荷物をあさる。スポーツドリンクを飲んでいると、瞬(しゅん)君が姿を見せた。
「あれ、楓。メガネはどうしたんだ」
「危ないから取ったのよ。ぶつかって割れたら大変だし」
「あー、なるほどな」
「ところで今までどこにいたのよ」
「ヒマだから寝てた」
どこでだ、どこで。
「翔(しょう)に呼ばれたからよ、もうそろそろ試合なんだろ」
フケると殺されっからよ、と次男。そんなにやる気があるんだ、長男は。
「そうだ。これを機会にコンタクトにすりゃいいじゃねえか」
「え~。だって管理が大変だって聞いたし、目に異物入れるの怖いし」
「そうか? 翔(しょう)のほうがおっかなくねえ」
「それとこれは違いますー」
「そんなモンかよ。せっかく美人なのに、もったいねえじゃん」
ぶほっ。
「何やってんだよ」
「あんたがヘンなコト言うからでしょっ」
慌ててティッシュで床を拭く私。いかんいかん、ベトベトになってしまう。
「別に何も変なコト言ってねえだろ。本当のことじゃねえか」
「いいから、早く試合に行きなさいってっ」
マジで恥ずかしい。周りに見られてること気づいてないのかコイツは。
背中を押しながら、私は瞬(しゅん)君をコートへ押しやり、ちょうど翔(しょう)君も来ていたので、彼に託した。
はあ~。褒めてくれるのは嬉しいけど、ね。目つきが凶悪だってオプションつきだけど。
心臓の鼓動が落ち着きを取り戻していく最中、男子は十五対一で圧勝。宮田さんいわく、一番背の高い翔(しょう)君が警戒されたらしいが、その分、他のメンバーが動きやすかったらしい。
もしかして、それを見越してたのかな。のほほん顔の割には策士っぽいし。
そして、彼らの試合中でも私は視線を感じた。シキを放って校内を調べるも、全然収穫がない。
どうも邪魔されているみたいなのよね。私の使いかたが下手なのもあるだろうけど。
男子たちに飲み物を渡すと、次の試合まで時間があるため、私は体育館の外に出た。少し冷たい空気が体を冷やしてくれる。
いや~、それにしても遠くが見えない。眼鏡がないと本当に不便だわ。
ま、戦うわけじゃないからいいんだけどね。
肺いっぱいに新鮮な空気を送り込むと、背後に何かを感じた。慌てて振り返るが誰もいない。
よくよく感じてみると、上から誰かがこちらを覗いているようだ。体育館の二階は、上から閲覧できるように、今日は解禁されている。
相手は目が合ったと思ったのか、カーテンでさえぎる。シキを使おうにも、あの子は今お調べ中だ。
「何なのよ、一体」
一応報告しておこうと思い、戻ろうとすると、男子生徒がこちらにやってくる。
その姿は、とても見覚えのあるものだった。
私は思わず固まってしまい放心していると、男はにやっと笑い、片手を挙げる。
「よお、紅葉」
「ちょ、ちょっと。何であんたがここにいんのよっ」
夜の、しかも人がいない場所でしか会ったことのない奴が、目の前に立っていた。
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