十二月(じゅうにげつ)の女の子、明日香ちゃんが無事に助け出され、彼女はクサナギとともにカーラ君たちの家に住むことになった。本来なら現実世界の家がよかったのだが、すぐに用意するのは難しかったためだ。
まあ、クサナギがいるのだから問題ないだろう。
他の人間たちは、カヌス君に私が通う学校まで送ってもらった。時はすぎて、すでに放課後になっている。
「それにしても涼ちんが一人暮らしだったなんて思わなかったよ」
「だろうな。普通なら親と一緒に住んでるし」
住んでませんけどね、私も。んま、ユキは早起きするのがイヤだからこっちに来てるんだけど。
ちなみに、ユキと如月君の姿は、他の人からは、学校を出るまでウチの学校の制服を着ている様に見えるよう細工されている。実に便利である。
「去年の文化祭以来だなあ。オレ、もう一回、散策してから帰ろうかな」
「何言ってんの、早く帰んの。先生に見つかったらどうすんのよ」
「ごまかすっ」
「アホかっ」
笑顔でぬかしてるんじゃないっ。
「お、お前ら、本当に仲がいいんだな」
何で笑ってるんですか、そこ。
「俺は一人っ子だから、羨ましいよ」
「へえ、そうなんだ。てっきり下にいるかと思ってたわ」
「よく言われる」
「しっかりしてるもんね、涼ちんは」
ねーちゃんは危なっかしくって、と弟。悪かったわね、猪突猛進で。
「とにかく、早く出たほうがいいだろ。行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
私は慌てて机の上にある荷物をまとめる。支度ができると、一緒に学校を出る。
「そうだ、如月君」
「何だ」
「ありがとね、協力してくれて」
「あ、ああ」
何故かクエスチョンマークが浮かんだらしい同級生は、きょとんとしてしまったようだ。
「ねーちゃん、オレには」
「もちろん感謝してるわよ。アイス買ったげる」
「やったあ」
本当に昔から面白いぐらい素直だわ。
「じゃあ、また。何かわかったらLINEするね」
「わかった」
そう言うと、私たちはそれぞれの自宅へと帰って行く。
そしてしばらくの間、どういうわけか、ユキは彼のほうを見ていた。
翌日。私は大変なことに気づく。
学校を、サボってしまったのだ。
「カエデ、どうしたんだ。頭かかえて」
「うう。学校サボっちゃった」
「そんなに大変なコトか」
「当然じゃない。ああ、どうしよう」
先生にめちゃくちゃ怒られるし。新学期早々、何やってんだか。
「おはよー」
あれ、珍しい。やっぱり何かが起こる前兆に違いないわ。
「ユキ、あんたヤバいわよ」
「えー、なにが」
「学校っ、学校抜けてきちゃったのよっ」
「オレ、昨日やすみだった」
あ、そうだ。体調不良を理由に養生してたんだっけ。
「なに、あわててんの」
「私、午後から館に行ってたから、学校の授業に出なかったのよ。絶対怒られるよ」
「んー、カラちゃんが、どーにかするっていってなかったっけ」
ダメだ、寝ぼけてて話にならない。とりあえず味噌汁を飲ませよう。
「あ~、おいしっ。で、どうしたのさ」
本当に不思議な体質の弟である。
ため息をつきながら頭を抱えると、
「学校サボっちゃったから憂鬱なのよ」
「あ、そのこと。それってカラちゃんが記憶を操作するって言ってたでしょ」
って、ねーちゃんその場にいなかったっけ、とユキ。あれ、そうなんだ。
「カヌちゃん、伝え忘れたんじゃないの」
可能性大だわ。たぶん、カシスちゃんも忘れてたっぽい。そ、それならまだいい、かな。
「死ぬわけじゃないんだ、別に気にするコト、ないんじゃないのか」
「だね。なかったことになるんだからさ。真面目すぎなんだよ」
そ、そうかな。私、頭が固いのかな。
「ま、行けるときに行っておいたほうがいいのは、間違いないな」
ほら弁当、と鳴兄。何事もなかったかのように登校すればいいうよね、うん。
姉弟揃って家を出ると、いつも通り入口にカーラ君とカヌス君がいた。
「うおっ。ユキが一緒たあ、槍が降ってくるんじゃねえか」
「ひっでぇ。オレだってたまには起きるよ」
毎朝起きなさいよ。ったく。
「カーラ君、明日香ちゃんは」
「クサナギと一緒に休んでるよ~。しばらくしたら、雪祥(ゆきひろ)君と同じ学校に行かせようと思う~」
「へっ」
私とユキの声がハモる。弟と同じ学校、っていうことは、中学生ということだ。
「小学生じゃなかったのっ」
「今年度から中一みたいだよ~」
「ウッソ。こんなに小さかったじゃん」
152センチのユキの手が、自身の首の付け根をさす。
「しょうがねえだろ。ちゃんと食えてなかったんだからよ」
そう言えば、カグナさんが数日間食べていない、みたいなことを言っていた。あれ、本当のことだったんだ。
なら、戦ったときに感じた力の無さと腕の細さの理由になる。そして、そうなった経緯も想像できた。
「彼女のことはひとまず置いておいて~。バスケ、今日だったよね~」
集中したほうがいいんじゃないの~、とカーラ君。彼の横では、カヌス君が弟同士で話していた。
確かに、私がどうこうできる問題ではないだろう。
歩き出した長男は、
「自分にできることをやればいいよ~。彼女はおれたちに任せて、さ~」
と、にっこり笑いながら話す彼。
私たちはそれぞれの学校に登校し、再び日々を過ごすのであった。
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