同じチームになった雪祥(ゆきひろ)と涼太、そして伽糸粋(カシス)は、一番最後に保健室を後にする。また、ゲームについての詳細は、彼女から事前に聞かされていたため、楓のように驚くこともなかった。
「そっかあ、そりゃ一緒のほうがいいよね」
「悪いな付き合わせて」
「別にいいって。万が一のことがあっても困るし」
と雪祥(ゆきひろ)。涼太は、かけられている呪いのせいで、動けなくなってしまうことがあるらしい。激痛を伴う呪縛は、彼の体力をもってしてもはね返せるものではないようだ。
「伽糸粋(カシス)もいるし、大丈夫だろうがな」
「それに、あまり分散されてもあたしたちの目が届かなくなっちゃうから」
「ってコトはさ、それだけ厄介なヤツも紛れこんでくるってこと」
「ええ。他の能力者もいるから、そこまで強い妖怪はいないはずだけど」
何が起こるかわからないのよね、と長女。結界の中に閉じ込めてあるとはいえ、外部からの侵入もなきにしもあらず、と話した。
「はあ。そんな奴に出会ったら即逃げないとな」
「涼ちん、なに弱気なこといってんの」
「馬鹿言え、この結界は加具那(カグナ)が創ったんだぞ。それを打ち破る奴なんかに敵うわけないだろ」
「い、いわれてみれば」
「冷静で助かるわ。それに破らないまでも手引きはできるかもしれないから、本当に気をつけてね」
「わかった」
「はーいっ」
と、元気よく左腕を上げる雪祥(ゆきひろ)。遠足気分だな、と、涼太は思わず口にした。
「ところで涼太君、加阿羅(カーラ)から、何だったかしら」
「ハルバートか」
「そうそう。使い勝手はどう」
「手にはしっくりくる。まだ慣れてないが」
「ええーっ。涼ちん、新しい武器もらったの」
「というより、こいつに封じ込められてたらしい」
と、涼太はポケットから黄金色に輝くひとつの棒らしきものを取り出す。彼が握っている手の両端から、精巧に作られた三角型の飾りが飛び出している。
涼太が敵と戦うときに握っている武器で、独鈷杵(とっこしょ)に似ていた。
「それって仏像がにぎってるヤツだよね」
「似せて作ったらしい。詳しくは知らん」
「えっと。確か、霊力を集中させる姿が祈りに似ているから、だったと思うわ」
伽糸粋(カシス)いわく、その中には守るための大きな盾と敵をほふるための戦斧(せんぷ)が同時に仕込まれていて、主が命令すると出てくる、と説明。
また、堅守の如月と呼ばれるゆえんはここにあり、有事の際、天皇を守る最後の砦としての役目でもあった。
持ち主が知らなかったのは、前任が伝えずにこの世を去ったからである。
「父さんと母さんは俺が小さいとき亡くなった。そのときに譲り受けたんだ」
「そ、そっか」
「この際だから話すが、両親はある妖怪に殺された。目の前でな」
「マ、マジで」
「ああ。だから仇も探してる」
雪祥(ゆきひろ)はとっさに、彼の呪いもそのときに受けたのでは、と推測する。が、本人に聞くことはなかった。
「検討はついてるの」
「いやまったく。そのときの記憶も飛んでるし」
「そうよね。あの年頃では仕方ないわね」
「カシスちゃん、知ってたんだ」
「ええ。あたしたちぐらいになると、過去を調べるのも簡単なの。念のためにね」
「館で加阿羅(カーラ)も言ってたな」
すまない、暗くなってしまったな、と涼太。本人にそのつもりはなく、流れ的に仕方がないことを察する二人は、笑顔で対応した。
「明日香ちゃんも大変な想いをしたみたいだし。オレたち姉弟は運がよかったんだね」
そうかもね、と返した伽糸粋(カシス)だが、雪祥(ゆきひろ)が歩き出すと、とたん表情を曇らせる。だが、すぐに戻して周囲を警戒。
しかし、涼太はその瞬間を見逃さなかった。
しばらく無言のまま廊下を歩いていると、耐え切れなくなったのだろうか、雪祥(ゆきひろ)は、
「うーん。能力者いないね。怨鬼(おんき)や怨霊ばっかり」
「そのうち遭うだろ。そこまで広いわけじゃないし」
「まぁねぇ。東京ドームとかだったらウンザ」
ドオンッ、と、彼らの後ろから聞こえた爆発音。同行している妖怪が壁に向かって炎を放ったのだ。
「もう限界。いい加減にして」
『あれ、バレてたんだ』
「周囲を警戒してしゃべらずに歩いてたもの」
一部違うところはあるが、プライベートの話が終わってからは足音しか響かせずに歩いてきたので、おそらくその辺りから尾行していたのだろう。
「ストーカーはよくないでしょ、お兄さん」
「失敬な。私は女だ」
胸がなくて悪かったな、とパンツスーツ姿の女性。男物の背広を着ていたため、雪祥(ゆきひろ)は勘違いしてしまったのだ。
「そんな紛らわしいカッコしてるからでしょっ」
「隣のを持ってきてしまったんだ」
「何をどう間違えればそうなるんですか」
「間違えないか、普通」
「間違わない」
そうなのか、と三人のツッコミをサラリと流すショートカットの女性。一瞬少年にも見えなくはない顔立ちだが、構えは戦い慣れしていた。
「忍者のようね。気をつけて」
「雪祥(ゆきひろ)、文句言うなよ」
「わかってますよーだ」
んべー、と舌を出しながら脇差を抜き、涼太は拳に武器を握り戦闘体勢に。
そして、伽糸粋(カシス)は戦鎚(せんつい)を呼び出し、水平に構えた。
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