球数の割には大したダメージじゃなかったけれど、跳ねまくるボールのせいで役目がはたせない状態になった廊下。その先では、カヌス君と有田という同い年の男子生徒と切り結んでいる。
「この野郎。オレ様相手に随分なことぬかしやがったな」
と、軽く青筋を立てながら攻撃スピードを上げる彼。
はあ、回り込んであちら側に行こうにも、私の後ろでは同じような状態になってしまっているし。
つまり、閉じ込められてしまったのである。
さて、どうしますかね。
私はジュツを唱えるために集中し始め稲妻を集める。そして、二人がいる方角へと投げつけた。
しかし予想に反してボールは帯電してしまったらしく、動きにプラスして静電気を放つようになってしまった。
あっちゃあ、あれじゃ余計に触れないし。どうしよう。
「イヤだなあ、下手に動かないで大人しくしててよ」
誰が正体不明のあんたなんかの言うことをきくかっての。
返事の代わりに鋭い視線を送った私は、他にどんな手を使えばよいのか思案する。早く合流したいからだ。
「睨まなくったっていいじゃーん。美人台無し」
「気が中途半端に強えからな。しょうがねえだろ」
キイン、と金属音の合唱には、気持ちがこもっていないように感じられる。お互い出方を伺っているのだろうか。
つーかあんた、どっちの味方よ。ったく。
それにしてもあいつ、ナイフだけでカヌス君の剣を受けてるし。ずいぶん使い慣れてるのね。
「けっ、遠近両方できるみてえだな」
「そおいう君はよく分からないねえ。困ったなあ」
ホントかよ、と突っ込みたくなる口調だが。今は気にしている場合でもない。
仕方がない。少し傷を負う覚悟でやるしかないわね。
負傷を軽減するために爪の属性を木(もく)に変えボールに攻撃。だが、これだけの数があるにも関わらず、何度振ってもまったく当たらなかった。
いくら何でも一個ぐらい弾いてもいいと思うんだけど。何でかな。
『ボールの動きを、よ~く見てご覧』
えっ。だ、誰。
『ああ、怪しい者じゃないよ。私は可愛い子の味方だからね』
めちゃくちゃ妖しいわよ。満載よ。
私の考えがわかったのか、低く妙に色気がある声は、くすくすと笑う。
『目に見えるだけが全てじゃない。霊力をボールに集中させてご覧』
アドバイスをくれる理由が知りたいが、今は次男坊と合流するほうが先だと判断し、言われた通りにしてみる。
すると、高速で動いていた跳ねる物体の動きがスローモーションになっていくではないか。
そして、何十個もあると思っていたボールは、そうではなく、実は五、六個ぐらいだったことが判明。高速で動いていたためか、分裂して見えていたのだ。
『これなら弾きやすいだろう。そうそう、見ての通り、このボールは勢いをつけると面倒だから気をつけて』
「あ、はい。わかりました。ありがとうございます」
「んん、誰と話してるのかなあ」
しまった、つい声に出してしまった。
慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。しゃべってしまったものはどうしようもない。
しかし、有田のような反応をしなかったカヌス君は、注意がそれた相手を押し返し、壁に叩きつけた。
「ナメられたモンだな。その程度の実力でこのオレ様を仕留められると思ってんのかよ」
「ってて。なあにこの人、変な人だなあ」
お前が言うな。
そう思った矢先、パートナーと目が合う。すぐに有田に戻されたが、自力で何とかしろって言いたいのだろう。
もちろん、自分にできることは何でもする。
意識を目の前の罠に戻し、もう一度軌道を見てみる。やはりゆっくり見えるスーパーボールは、まるで動画を早送りされているように動いているだけだったらしい。
私は腰を落とし右足に力をこめる。そして、タイミングを見計らい右下から斜め向こうに腕を振る。爪が獲物を捕らえると、パァン、と破裂した風船の音がゆっくりと響き渡った。
「なっ、ウソでしょ」
「他に技があるなら今のうちだぜ」
破損したボールのくずを振り払う次男坊。同じ動作をしながら、私も有田に詰め寄っていく。
開き直った相手は、両手をバンザイすると、
「おれはただ、連れてくるように頼まれただけなんだよねえ~」
と、カーラ君の声で話す。姿もいつの間にか長男になっており、ニコニコとしていた。
「カ、カーラ君、いつの間に」
「何言ってんだ、お前」
「へえ~。君、こいつのことが好きなんだ」
急に煙がカーラ君の身を包む。すると、姿が有田のものになっていた。
「りょおかい。そおいうことねえ」
「え、あ、あれ。有田っ」
相手は怪しい笑みを浮かべながら、
「ってえコトは、君は加濡洲(カヌス)だね」
「だったらどうした」
「ええ、もちろん逃げるっ」
敵わないもおん、と、声だけ残し、姿を消す。周囲をうかがうが、何の気配もない。
「あいつ、自分の姿形を変えられるタイプだな。戦闘能力はあまりねえけど」
スパイ系だぜ、と彼。どうやら、私を捕まえようとしたらしい。
それにしても有田の奴、ヘンなコト言ってたわね。誰が誰を、何だ、って。
「どうしたんだ、顔真っ赤だぞ」
「えええっ。なな、何でもないわよっ」
そうは見えねえけど、と彼。
何でもない、何でもないから放っておいて。うわうわうわ。
何だかよくわからない状態になってしまい、しばらく頭を抱えてしまったのだった。
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