東京異界録 第3章 第18録

 「まさかあんたに苦手なものがあるなんてな」
 「あらそう。たくさんあるわよ」
 「ぶっちゃけ意外だよ。三人とも何でもできると思ってた」
 ないない、と困ったように笑う伽糸粋(カシス)。ここだけ見たら、目前に敵がいることなど誰も思わないだろう。
 しかし、一見子供の姿をした相手は、のけ者にされたことに頭にきたらしく、無数の蜂で作られた人形をこちらに突撃させる。対してこちら側の応戦は伽糸粋(カシス)のみ。今度は薙刀を炎で精製すると、ひとなぎで上下を分断させた。
 だが攻撃したのはあくまで蜂でかたどられた人形。すぐにくっつき何事もなかったかのように再度子供の隣に並ぶ。
 「イタズラがすぎるから、おしりペンペンしてやる」
 と軽口を叩きながら戦闘体勢に入る雪祥(ゆきひろ)。一方、涼太はため息をつきながら構えた。
 そんな彼らを鼻で笑い、
 「人間ごときにボクを倒せるワケないじゃんっ」
 伽糸粋(カシス)がパーティーに能力強化の術をかける。一瞬だけ炎で包まれた雪祥(ゆきひろ)たちの体は軽くなり、二人がかりで突進していく。
 先手を取ったのは雪祥(ゆきひろ)だった。彼は左手に持った脇差で相手の左腕を使い物にならなくさせようとする。
 が、数センチの動きでかわされ不発に終わった。続けざまに涼太が上からの打撃を加えるが、空しく地面に穴をあける。
 彼らの連携は失敗したかのように見られたが、そうではなかった。涼太が放った一撃からできた穴に、鋭い土の剣が発生したのである。
 さすがの子供もよけきれなかったらしく、自然の得物がおさまる傷が体中に作られた。
 「へえ、なかなかやるじゃん。人間にしては能力たかいんだね」
 まるでおいしいご馳走でも見つけたかのようにペロッと舌を出す子供。その体には、既に傷跡がなくなっていた。
 「こいつ、驚異的な回復力を持ってるな」
 「どーすんの。連続攻撃でいく?」
 「そうだな。すばしっこいが、術よりは直接のほうが効くかもしれない」
 だね、と雪祥(ゆきひろ)。あくまで予想になるが、大人に比べると子供は頑丈ではないためだ。
 うなづきあった二人は、視線だけで作戦を練り上げ、再び妖怪に向かっていく。今度は涼太の拳が先に唸りを上げた。
 ほぼ同時に伸びるように脇差を高速で移動させる雪祥(ゆきひろ)の姿を見せ、子供は上下からの同時攻撃を受けることに。
 ところが思わぬ邪魔が連携を阻止する。突然地面から伸びてきたツルが子供を守ったのだ。
 「っぶなー。ありがとねっ」
 相手は緑に覆われて姿が見えない。姿を隠した元凶は、敵を縛り上げ、宙に体を浮かばせる。
 子供妖怪の安全が確保されると、ツタは役目を終え、一部だけを残して土に戻った。
 「他にもいたなんて。くっそー」
 「くっ」
 涼太は術で何とかしようとするが、相手は木(もく)属性。土(ど)属性である彼は苦手としている相性だった。組み合わせが悪いと、主に術攻撃の効果が最低でも半減してしまうのである。
 ちなみに、相手の属性は見た目や使っている術などで判別可能だ。
 「さぁて。どっちから死にたいのっ」
 「どっちでちょう~ね~」
 声高に言った雪祥(ゆきひろ)の腕が細かく動いている。子供が首をひねると、いきなりツルが緩み自由の身となる。
 相手が信じられないといった表情をしている最中、雪祥(ゆきひろ)は涼太を縛っているツルの下部にナイフを投げ足場にすると、脇差で彼を解放する。
 上手く着地できた双方は、勝負を振り出しへと戻した。
 「どこにナイフなんて仕込んでたんだ」
 「カヌちゃんからもらった道具入れの中だよ。人間には見えないんだって」
 よくわかんないけど、と雪祥(ゆきひろ)。学校にそんなものを持ち込んでは大騒ぎになるための配慮だろう。
 タイミングを計ったかのように、少し離れたところから炎が巻き起こる。パラパラとこげ落ちている何かは、伽糸粋(カシス)の足元周辺を黒く染め上げていた。
 正体は人型を模した蜂だが、それにしても数が多すぎるようである。証拠に、彼女の顔に苛立ちが見え隠れしていた。
 「涼ちん、どうする。あの黒いハチって無限にでてくんじゃない」
 「かもな。だったら早く親玉を倒せばいいだけのことだ」
 「といっても、ねえ。あのツタがやっかいじゃん」
 確かにな、と回答者。炎が得意な仲間は今、手下の蜂を引きつけてくれている状態。あまり負担をかけさせるわけにもいかない。かといって、物理的にも炎を出せるものなど持ち合わせていないのが事実。
 このままでは、こちらの体力のほうが尽きてしまうだろう。
 「別ればなしはおわった? じゃあいくよっ」
 再び蜂を呼び寄せた子供は、今度は何も形成せずにそのまま体当たりさせる。軍団に囲まれる前に、彼らは必死で距離をとろうとする。
 「こんなに刺されたら命ないってっ」
 「空を飛んでるからな。追い払うにも限度が」
 いつの間にか校舎から離れ、伽糸粋(カシス)とも距離があいていた。そんな中、涼太はハルバートを呼び出し横振りの一撃を加える。
 だが、小さいものにはほとんど当たらず、陣形を崩された相手はすぐさま元に戻ってしまう。
 その間、雪祥(ゆきひろ)の目には、希望の光が差し込まれていた。
 「涼ちん、オレいいこと思いついちゃったっ」
 にぱっ、とやんちゃ坊主のような笑顔で離す下級生。この状況で笑っていられる根性を、上級生は、素直に感心したのだった。

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