東京異界録 第3章 第16録

 立場上、校内で一番偉い立場の者が使う部屋に、一人の少年が現れる。ジャージ姿でけだるそうに歩いている彼は、遠慮なしに来賓用のソファーに座った。
 「これは坊ちゃま、お久しぶりでございます」
 「オレに対してその態度はしなくていいんじゃねぇの」
 「はっはっは、そうかもしれませんが。個人的には、ね」
 用意されていた来客用のカップにコーヒーを注ぐ初老の男性。ひょろっとした体形からは、今までのような戦闘員には見られない雰囲気である。
 どうも、と口で伝えながら少年は、ゆっくりと飲むと、
 「情報は集まってんのか」
 「はい。彼らのおかげで、少しずつ解析できております」
 「そりゃよかったぜ。あんたは諜報のプロだし、信頼してる。期待してるからな」
 「ありがたいお言葉、痛み入りまする」
 向かい側に座った男性が頭を下げる。本来なら年齢では逆のはずなのだが、本人たちには普通のようだ。
 とはいえ、ガラの悪そうな少年はほおをかいているが。
 「しかし坊ちゃま。坊ちゃまが校内を歩かれるのは危険かと」
 「ま、勘のイイ奴が何人かいるからな。指定の時間になるまでにこの近くまで移動してたんだよ」
 「成程。それでは誰ともぶつかっていないわけですな」
 少年のまゆが、ピクリ、と動く。ひざに両腕をついて手にあごをのせると、
 「引っかかる言いかただな。何かあったのか」
 コンコン、とノックオンが響く。校長は、失礼、と言いながら席を立ち、客人を迎えた。まるで来るのを知っていたかのような動きであった。
 扉の先には、背が高くスラリと伸びた手足に、表情は穏やかだが油断のならない笑みをしている青年がいた。おそらく、二十代前半だろうか。
 モデルでもやっていそうな青年は、やあ、と親しい友人にするように挨拶をする。口元をへの字の逆側に変えた少年は、フン、と笑った。
 「あんたか。まさかあんたも関わってるなんてなあ」
 「いやいや、実は割り込んだだけなのだよ」
 「割り込んだ? そりゃ一体どういうこったよ」
 紅茶を出された青年は、出し主にお礼を言い、渇いた口を潤す。
 「全てあの子達に任せてはいるのだがね。ツメが甘かったから刺激を与えたのだよ」
 プッと笑う少年。出入り口に一番近い席に座った初老の男性は、やれやれ、といった表情だった。
 「成程、それでこんなに引っ掻き回されているということですか。いやはや、おっしゃって頂いて助かりましたわい」
 「すまないね。本来なら伝えておいたほうが良かったのだが、気づかれてしまうかもしれないからね」
 だから伺ったのだよ、と青年。まったく悪びれた様子がない彼は、軽い冗談でも口にしているかのよう。
 といっても、既知の仲らしい彼らは、そういう性格だということを理解しているようだ。
 「ま、いいんじゃねぇの。単純で終わるより楽しめるだろうよ」
 「ふふ、ご名答。それに、君らや彼らが力をつけられるチャンスでもあるだろう」
 「オレらはついでじゃねぇか」
 「おやおや、耳が痛い。そう言わずに、皆に伝えてあげたまえ」
 「それでは、事の詳細をお教え頂けますかな」
 もちろん、と、青年。
 内容は、現状に関することと加わった要素。結果内にいる勢力は三つで、藜御(あかざみ)楓を中心とする勢力、少年のもの、そして、青年がちょっかいを出したそれだという。
 「怨鬼(おんき)や怨霊だけ入れても仕方がないからね。奴らの勢力を一部、拝借したのだよ」
 「借りパクだろ、どうせ」
 「まさか。存在して帰れるならそうするつもりだよ」
 ははは、と笑う青年。聞いている二人の背筋が、氷の刃でなぞられたように感じた。要するに楓たちの力にするための生贄にしようとしているらしい。
 思わずあごの下を甲で拭いた少年は、
 「恐ろしい人だぜ。敵じゃなくて安心する」
 「おやおや、私は誰の敵でもないよ。強いて言うなら可愛いあの子のだけの味方さ」
 と、ウィンクしながら口にする青年。不思議と気障な言動が板についている。
 「積もる話はたくさんしたいのだが。君の仕事を邪魔するわけにもいくまい」
 「いえいえ、私の仕事など。若い衆のほうが大変ですから」
 「ふふ、ご謙遜を。まとめるにも骨が折れるだろうに」
 ご馳走様、と言いながら立ち上がる青年。在校生に対し、一番見晴らしの良い場所はどこかを伺う。
 「屋上だな。今からオレも行こうと思ってよ」
 「なら是非一緒に。お茶菓子も用意しよう」
 「何が悲しくて野郎と茶ぁしなきゃならねぇんだか」
 「まあまあ、そんなつれないこと言わず。お互い傍観者のほうがいいだろう」
 確かにな、と少年。
 「ならこちらをお持ちください。妻特製のクッキーでございます」
 「おや、すまないね。今度ご夫人の好きなハーブティーをお届けしよう」
 「ありがとうございます。妻も喜びます」
 校長は腰を九十度に曲げて退室者たちを見送る。念の為に周囲を見渡した後、青年は術をとなえた。
 すぐさま発動すると、あっという間に遠くが見える場所へと降り立つ。
 「さてっと」
 誰も来ないように結界を張った青年は、ところどころを映像化できるようにセッティングをする。
 少年はというと、
 「紅葉、雪見(ゆきみ)、赤土(あかつち)。お前らがどう出るか、手並みを拝見させてもらうぜ」
 と、空に向かってつぶやいた。

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