東京異界録 第3章 第26録

 「ご、ごめんなさい。わ、わたし」
 「明日香ちゃんのせいじゃないから、ね」
 と、泣いている最年少をなぐさめる、ひと足先に保健室にいた雪祥(ゆきひろ)。彼女とプリムは楓が闇の底に落ちてしまったと同時に、伽糸粋(カシス)の術により回収されたのだ。
 なお、一緒にいた生徒と教師は、同じ力で安全なところに飛ばしたという。
 だが、まったくの他人であるためか、誰も安否の確認しなかった。おそらく、それどころではないからだろう。
 「加阿羅(カーラ)も捕まったんだろ。これからどうする」
 「彼はいいとして、問題は楓さんのほうです」
 旧知の力を知っているためか、クサナギは加阿羅(カーラ)の無事を確信しているよう。しかし、質問者と同じ人間たちに関しては言葉通りだった。
 「加濡洲(カヌス)が負傷していますからね。私も行けない所ですし」
 「行けないって、あの世に行くってことでしょ。それって、さ」
 「心配すんな。オレと加阿羅(カーラ)は行き来できるようになってんだよ」
 あいつの場合また特殊な例だけどよ、と次男坊。人間組の表情からを見るに、雪祥(ゆきひろ)への回答になっているようで、なっていない様子だった。
 「こうなったら加阿羅(カーラ)に賭けるしかねえよ。んま、言われなくても探してるはずだ」
 「加濡洲(カヌス)、お前が行けないのは怪我のせいなのか」
 「おう。大量に霊力が奪われる場所でよ。今の状態じゃ短時間しかいられねえだろうな」
 質問した涼太は、伽糸粋(カシス)に視線を送る。しかし、長女は首を振った。
 彼女が言うに、属性が合わないために単独で行くのは無理なのだそうだ。
 また、冥道はあまりにも広大であり、一人の人間を探す行為は、地球上で水滴を探すのと同じぐらいの労力になるとのこと。つまり、今の加濡洲(カヌス)の状態では自殺行為に近いのである。
 ベッドに座っている主人を心配するクサナギは、視線だけを送り、側にはプリムを座らせていた。加阿羅(カーラ)ですら把握していない事態が起こったことに、保護者は少女を帰そうかと考える。
 なお、楓については、明日香たちがやって来てからすぐに加具那(カグナ)に連絡したが、長男に任せておけとの一点張り。何らかの方法で学校を包んでいる結界を使えないかと思ったのだが、それもふいに終わってしまっている。
 沈黙が、保健室を侵食していった。
 「あ、あのさ。カラちゃん、大丈夫なんだよね」
 「心配ねえよ。それに」
 いや待てよ、と口を閉じた加濡洲(カヌス)。何を思ったのか、保健室を出ようとする。
 「ちょっと、どこに行くのよ」
 「ジジがダメならおっちゃんに掛け合うしかねえだろ。手詰まりなんだからよ」
 「加具那(カグナ)よりも難しいのでは」
 「この状況はどうにもならねえが、加阿羅(カーラ)を引っ張り出すことは出来るだろ」
 「それ、どういう意味かしら」
 と、プリム。珍しく真面目な顔をしながら、次男坊を問い詰めた。
 「お前、聞いたんじゃねえのかよ」
 「私が知ってるのは楓嬢とその周辺の事情についてよ」
 「ふうん。オレらの能力と関係のことは」
 「知ってはいるけど」
 ともに行動するようになってからまだ数日。まだ読めないところがあるのは仕方がないか、とクサナギは思った。会話を聞くに、意図がかみ合っていないのは間違いない、と。
 お互いをよく知っているクサナギだからこそ気づいたことでもあった。
 「プリム。どこまで伺ったかは知りませんが、加阿羅(カーラ)はきっと何か考えがあるのですよ」
 「じゃあワザと冥道に堕ちたってこと」
 「でしょうね。加濡洲(カヌス)に重傷を負わせる程の妖怪です、簡単にはいきませんから」
 「カラちゃんには作戦があるってことだよね。だから無事だって」
 コクン、と、うなずく解説者。しかし、何も事情を知らない雪祥(ゆきひろ)と涼太には、目を合わせるぐらいしかできなかった。
 「加阿羅(カーラ)の作戦と藜御(あかざみ)の安否との関連は」
 「ひとつに繋がるということですよ。敵を倒すことが今の状況を打破する、とね」
 「加濡洲(カヌス)、ちょっといいかしら」
 「何だ」
 「出入り口は、その女が単独の力であけたの」
 一瞬つまる兄。姿が普段通りの妹からの問いに何かが引っかかったようだ。
 同時に、クサナギの表情も変わる。
 「この部屋にきてから学校を見たけど、あけられるのは一人だけだったわ」
 「ならそいつが冥道への道を明けて藜御(あかざみ)を堕としたってことだろ」
 「そうね。いったい何を考えてるのかしら」
 心ここにあらず、といった口調の伽糸粋(カシス)。彼女の態度は、何も知らない者たちの不安を増大させる。
 軽くため息をついたクサナギは、
 「疑問に思うことは色々あるでしょうが、今は状況を脱するほうが先です」
 「たしかに。なんか方法は」
 雪祥(ゆきひろ)が身を乗り出そうとした瞬間、地鳴りが響いた。一同が窓辺に近づくと、建物の隙間から黒い稲妻が校庭をはっている風景を目の当たりにする。
 稲妻は何かの怒りに触れたのか地面を覆い尽くしていき、やがて穴が開いたようになっていく。
 「来ましたか。どうやら間に合わなかったようですね」
 「とりあえずここに隠れてようぜ。時間を稼げるかはわからねえが」
 兄の言葉を受けた伽糸粋(カシス)は、無言で外を睨む。
 「ちょっと、なにあれ」
 「あれが冥道の出入り口なの。おそらく楓も一緒にいるはずよ」
 外見は同級生に説明されて目を見開く雪祥(ゆきひろ)は、再び非現実に顔を向けた。

 

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