ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第4話

 「君たち、僕らは盗賊じゃない。誤解だよ」
 子供相手に武力を使うわけにもいかず、何とか説得しようとするが、何か理由があるらしく聞きいれる様子はない。
 「もんどーむようっ」
 と、少年が銅の剣の柄に力を加えながら走りだそうとした、そのとき。
 「こ、これお前たち。ちょっと待たんかいっ」
 年配の女性の声が、少年たちの行動を制止する。おっかなびっくり振り返った少年たちは、近所のおばあちゃんにゲンコツを授かってしまった。
 「この早とちりめが、この方たちはどう見ても旅の方じゃろうが」
 星が数個ほどでたのか、ポルクと呼ばれたひのきの棒を持つ少年は泣きだしてしまい、マルクという名の持ち主は、頭を抱えてしまった。
 女性は顔を少々怒らせながら、
 「お前たち、ゼシカお嬢様から頼まれごとをしとったんじゃろう。まったくフラフラしよってからに」
 「あ、いけね。そうだった」
 「お嬢様からおしかりをもらう前に、さっさと行かんか」
 「ふぁーい」
 ほれほれ、とこの場を去るように促す村人。遊び盛りの少年たちは、村の奥へと走っていった。
 ひと息ついた仲裁者は、ゆっくりとした足どりで近づいてくる。
 「すみませんねぇ、旅の方。あの子たちも悪い子じゃないんだけど」
 「いえ。ところで、何かあったのですか」
 老婆は表情に目線を落とし、
 「最近村に不幸があってねぇ」
 「そうでしたか。すみません」
 いやいや、と気を取り直したようにふるまう地元人は、
 「この村いい村じゃよ。どうぞゆっくりしていってくだされ」
 「そうさせてもらうぜ」
 会釈をし、村人は少年たちが走った方角へ、のんびりと歩いていった。
 「タイミングが悪かったみたいだね」
 「でがすな。こりゃあドルマゲスが来たかどうかどころじゃねぇでげすよ」
 とはいえ手がかりがなく、日も暮れてはいないため聞きこみを開始した。
 わかったことは、サーベルトという名の人が何者かに殺されたらしく、彼はこの地を取り仕切るアルバート家の長男で、剣にも魔法にも秀でた人物だった、ということ。
 さらに、彼の母親と妹がふさぎこんでしまっている、という事実だった。
 案の定、ドルマゲスのドの字すらでてきはしない。
 しかも太陽が役目を終えてしまった今時分では、外にでるのも危険だろう。
 「明日アルバート家の屋敷に行ってみようか」
 「そうでげすな。やることもないでがすし」
 ひとまず宿屋に行き、朝を待つことにした。
 鳥のさえずりが気持ちの良い朝。ふたりは朝食をとりながら昨日に得た人物に関する情報を整理した。
 リーザス像に埋めこまれた宝石を狙った盗賊とスケベそうな顔をしているらしいアルバート家のフィアンセ。そして、ボンキュッボーンでナイスバディなゼシカというお嬢様がいる。
 ちなみに、全て村人からの提供である。
 「あとはこの土地を取り仕切るアルバート家の当主だね」
 「とりあえずでかい屋敷に行ってみやしょう」
 朝食を手早くすませ、ふたりは宿屋を後にする。向かって右側に伸びる緩やかな坂道を歩き、一番の権力者が住まう場所に入っていった。
 屋敷は大きいが、雰囲気は外と同様に暗く、小間使いたちも気落ちしてしまっている。悔しがっている者、残された肉親に同情している者など、さまざまだった。
 元兵士のエイトから見たらとても頼りない用心棒の脇をとおりぬけて2階へ。
 場違いな雰囲気をかもしだしている、おかっぱ頭で高貴そうな服を着た男がいた。
 「さる大国の子息にしてゼシカのフィ~アンセでもある、かの有名なラグサットとは僕のことさぁ」
 「はあ。こちらには何をしにこられたのですか」
 「兄さんを失ったゼシカをなぐさめにきたんだが」
 話しながら彼からみて真正面にある扉をみるラグサット。同じように目を動かすと、村の入口で会った子供たちが立っていた。
 「いつの日も恋路というのはキビシイものだねぇ。あの子達が通せんぼしていてね」
 思わぬ恋の障害だよ、と話す貴族。適当に話を合わせてその場を去ると、女性が奥にいることに気づく。身なりからおそらく当主だろう。エイトは旅人らしく、挨拶をした。
 「私はアローザ。旅の方、ようこそアルバート家へ」
 立ち上がり会釈をする当主。同じ動作をした旅人たちは、アローザの話を聞く。
 「村人から伺ったと思いますが、息子のサーベルトが亡くなったため喪に服しています。たいしたおもてなしができず申し訳ありません」
 「いえ、こちらこそ大変なときに訪ねてしまい」
 家主は表情を固くしたまま受け答えする。本来ならば娘も挨拶すべきなのですが、と口にすると、
 「ゼシカはふてくされてしまって部屋から出てきやしません」
 アローザいわく、アルバート家の家訓では喪中のときに家をでることは禁止されているそうで、言いつけてからは引きこもってしまったのだとか。
 「子供たちを見張りにつけたりして。まったくどういうつもりなのかしら」
 と、ため息をつく母親。確かに、閉じこもるだけなら見張りなど必要ないはず。エイトは何か引っかかり、彼女の部屋を見た。
 当主との話が終わると、ゼシカが気の毒に思い部屋に近づく。つのが生えたかぶとをかぶっている少年がこちらに気づくと、あっ、と小さな声をあげた。
 「お前。さっきは悪かったな」
 「いいんだよ。それよりゼシカお嬢様は大丈夫なの」
 「うーん、わかんない。誰にも会いたくないから部屋に入れるなって命令だし」
 ポルクたちはゼシカのことを慕っているようで、心の底から心配している様子。そっとしておいたほうが良いのかもしれないと考え、彼らに、早く元気になるといいね、と言葉をかける。階段より先にある部屋へと足先をむけ、ゆっくりと歩いていく。
 少年たちと話している途中、1人の小間使いがここに入ったのを目にしたのだ。
 階段を上がると、困った顔をしながら、周囲を見渡す使いの人間がいた。話しかけようとしたら、
 「あ、あなた気をつけて。この部屋は危険に満ちているわ」
 思わず身構えた2人だが、魔物がいる気配はない。何かあったのか聞いてみると、
 「ネ、ネズミがでるのよ、ここ。私だってネズミ嫌いなのにアミダで私が退治することになっちゃって」
 「何だ、ネズミか」
 ヤンガスはあきれてしまったよう。エイトは何となくトーポを手で隠し、どのあたりに出るのか聞いてみた。
 「この辺りとしか、あっ」
 部屋の反対側に灰色の小さな生き物がいた。女性と目があったので驚いたのか、彼女たちからみて左手の壁に逃げこんでしまう。
 「ね、今の見たでしょ。ど、どうしよう壁の向こうはゼシカお嬢様の部屋なのにぃ」
 今にも泣きだしそうな使用人。ふと思い当たり、エイトはネズミが消えた場所を調べてみる。
 思ったとおり穴が開いている。ネズミを好む女性はあまり聞かないが、どちらにしてもなんの反応もないことに違和感を覚えた。
 冒険者はスキを見て相棒のトーポをもぐりこませる。物心ついたときから一緒にすごしてきたネズミは、人間の言葉や飼い主の考えがわかるらしく、今まで助けられたことが多いのだ。
 しばらく小間使いとネズミ以外の話をして時間を稼いでいると、チチチという鳴き声がする。近くにあるタルで様子を見ると、1枚の紙をくわえていた。
 気づかれないように回収すると、見切りをつけて離れた。階段を降りたところで中身を確認すると、まずい状況に陥っているようだった。
 「気になるでがすね。兄貴、どうしやすか」
 「ポルクたちには伝えたほうがよさそうだね」
 「お任せするでげす。しかし、兄貴が飼ってるだけあってトーポはずいぶん賢いでげすね~」
 感心したようにトーポを見るヤンガス。トーポはどう感じたのか、ポケットの中に一度もぐり、再び顔をだした。
 部屋の前にいる子供たちにゼシカがいないことを伝えると、はあ、と語尾を上げ馬鹿にした口調で、
 「ふん、格好だけかと思ったらお前らってつくウソまでケチくさいのな」
 すぐ隣で頭から湯気をだしそうな雰囲気だったので、リーダーは小声で制する。様子を知ってか知らずか、ポルクは本当にいないのなら証拠をもってこい、と舌をだした。
 「これなら信じてくれるかな」
 エイトはトーポが手に入れた手紙を渡す。表情が年相応に変わると、目をとおした。
 「こ、これは確かにゼシカ姉ちゃんの字だ。でも待てよ、部屋の中にいるのにどうしてお前に手紙をわたせるんだよ」
 「外に落ちてたんだよ。何のことかわからなかったから持ってただけで」
 本当のことはさておき、ポルクは考えこむ。何か思いついたようでエイトを指差し、
 「わかったっ、今確かめてやる。そのかわり、もしゼシカ姉ちゃんがいたらお前はウソばっかいう奴だから、村を出ていってもらうからなっ」
 「わかった」
 「よし、じゃあそこで待ってろよ。逃げんなよな」
 ポルクは背中を見せながらそっと扉を開け、のぞいてみる。数秒後、マルクを扉でふっ飛ばしながら中へ駆けこんでいった。
 「ヤンガス、さっきは悪かったね」
 「いやいや。昔のアッシなら子供でも容赦しなかったでがす。兄貴がやめろっていうならやめるでげすよ。人間変わるモンでがす」
 ポルクが部屋で大声を上げると、勢いよく飛びだしてくる。
 「こうしちゃいられない、とにかくゼシカ姉ちゃんを東の塔から連れ戻さないとっ」
 やばいやばい、と口にしながらかなり動転してしまっているよう。落ち着かせるのは難しいそうだと思ったエイトは、
 「東の塔って、村から見えた塔のことかな」
 「そうだよ。お前もこうなった原因のひとつなんだから、中にいるゼシカ姉ちゃんを連れ戻してこいっ」
 「わかった。でも鍵はどうすればいいの、村人しか知らないんだよね。確か」
 「おいらが開けてやるよ。じゃ、マルク。ここはまかせた。奥さまに気づかれないようにな」
 「うん、がってん」
 子供同士の連帯感があるようだ。
 「よーし、それじゃ急いでしゅっぱーつっ」
 こぶしを天に掲げ、旅人たちの後ろにつく。
 「そうそう。魔物たちはお前らにまかせるからな」
 「うん。出遭ったら馬車があるから、そこに隠れてね」
 ふとアローザがいたテーブルに目をやると、姿がないことに安心したエイト。子供たちいわく、フィアンセと一緒に食事をしているらしい。
 早歩きで館を後にすると、武器屋に立ちよった。
 「お前、空気読めって。買い物なんかしてる場合じゃないだろっ」
 「急いでるからこそ準備しなきゃ。魔物がでるなら強い武器を持っていったほうが早く上れる」
 早く済すませるよ、といい、ポルクに待ってもらう一行。目先のことにとらわれていては最悪の場合、命を落としてしまう。姫と王、そして城の呪いを解くまでは死ぬわけにはいかないのだ。
 全体攻撃のできるブーメランと石の斧、うろこの盾を購入し、投げ武器をエイトが、他はヤンガスが装備した。
 「おまたせ、行こう」
 村ををでて、すぐに東の塔に足を動かす。トロデには道中で報告をしながら、目的地へ急いだ。
 ドルマゲス探しから遠のいているのでは、と心配するトロデを入口に残し、エイトとヤンガス、ポルクの3人は塔の入口に着く。ポルクは入口に近づくと、
 「ゼシカ姉ちゃんはこの中だぞ。じゃ扉を開けるからな」
 村人にしか開けられない扉らしいが、どう見ても普通のそれにしか見えない。2人は疑問に思いながらもついてきた少年を見守った。
 「それっ」
 気合とともに扉を持ちあげるポルク。何と、扉は上に開くようにできていたのだ。
 「おどろいたかっ。これがこの扉の秘密なんだ。こんな時だからお前たちの前で開けたけど」
 この秘密は絶対に誰にも言っちゃダメだからな、と指差しで命令される大人たち。苦笑いで返すと、自分が手伝えるのはここまでだ、と話した。
 「おいらは村に戻るから、ゼシカ姉ちゃんのことは頼んだぞ」
 「わかった。ひとりで大丈夫」
 「バ、バカにすんないっ」
 「そうじゃないって。君に何かあったらゼシカお嬢様が悲しむよ」
 話しながら、エイトは道具袋からキメラのつばさを渡す。村の一大事だが、子供に何かあっても同様だ。
 口をとがらせながらもポルクは受け取り、ゼシカ姉ちゃんを必ず連れ戻せよっ、と残して空に舞った。
 入口をくぐり、つるの生えた古びた塔を見上げる。
 「この塔を上るのはホネが折れそうでげす。こういうのは兄貴に任せたでげすよ」
 元山賊は、頭を使うのが苦手なようである。
 階段を歩いていき塔の中へ。片方には鍵がかかっており、遠回りしなければならないらしい。
 歩けるところを素直に歩いていき、やがて塔の外にでる。目の前に置かれていた宝箱には、塔の地図があり、進路を確認しながら進む。
 聞いていたとおり、道中には魔物がでてきた。武器を買いなおしたおかげで、あまり苦労せず上っていく。
 途中で鍵のかかった扉の鍵をはずし、近道を作る。入口が特殊だったためか、荒らされた形跡がほとんどない。
 さらに上っていくと、塔の仕掛けが待ち受けていた。石壁のある場所に円状の模様があり、青い宝石らしきものが2つ埋めこまれているのだ。
 地図を見ると通路がないので、このあたりを調べてみると、取っ手らしきものが見えたので、それを引っ張ってみる。
 すると床が回りだし、奥の部屋へ移動することができた。
 同じ要領で解決していき、頂上へとたどり着く。結局、ゼシカという女性を見つけることができなかった。
 「ここだけずいぶん雰囲気が違うでげすね」
 「そうだね、彼女はどこにいるんだろう」
 「奥のほうでがすかね。休憩してたりして」
 像があるほうに歩いていく2人。ダダをこねたらはったおしたくなるでがす、とヤンガス。きっと疲れがでたんだろうと、エイトは表情だけで返事をした。
 表情を戻した当人は、リーザス像が何故か悲しんでいるように感じ、見入ってしまう。像の両目には美しい宝石が光り輝いていて、きっとこの宝石を狙った盗賊にサーベルトは襲われたのだろう、と思った。
 そこに、聞きなれない音が耳に入ってくる。振り返ると、花束を持った女性が立っていた。

 

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