赤土と勝負しにやってきたハズが、なぜか竜間とその取り巻きと喧嘩するハメになったアタシたち。前者に関しては事前に取り付けられていたからともかく、後者は完全な邪魔者で、アタシたちのことが鼻につくらしい。
奴はいつも隙を狙っては失敗するを繰り返し、今に至っているのだが。
「とうとうアタマ切れちゃったかな」
「アイツは元々イっちまってるじゃん。手段を選らばねえセコい奴だし」
「ただの目立ちたがり屋だろ、俺のところにも奇襲しに来る」
三者三様だが、面倒な人間だと思っているのは共通しているよう。とりあえず、取り巻きをシメたら、本人を料理するか。
アタシは突きだしてくるナイフをかわし、肘鉄を相手のみぞおちにお見舞い。ひざを折らせた後、右側にいた奴のあごを下から攻撃。
着地と同時に右足に力を入れ、左足に体重を移した瞬間に蹴りを繰りだす。
よし、これで二人減らせた。
ユキも同じようにカウンターで相手に地べたをなめさせているし、赤土も豪腕を生かして投げ飛ばすなどをしている。
徐々に減っていった竜間の舎弟は、残り五人になったところで逃げだしてしまった。
まあ、頭に人望がないとこうなるよな。
ちなみにアタシたち三人はアウトローなので、徒党を組んでいるわけじゃない。ユキとアタシは姉弟だから一緒に行動していることが多いだけだ。
赤土は服をはたいたあと、指をボキボキならす。
「竜間、ちょうどいい。お前にも借りがあるからな。まとめてやってやる」
「くっくっくっ」
顔を下にしながら笑う竜間。こいつは悪知恵こそ働くが、喧嘩が強いわけじゃない。一般人よりは強いと思うが。
それはともかく、どうも様子が変だ。いつもなら、こういう状況になると一目散に逃げるのに。それに、なんだか妙な感じがする。
様子を伺っていると、竜間は見たこともない速さで赤土を鉄パイプで殴り倒す。普段では考えられない力だ。
「っててて。何だ、いきな」
跳躍した竜間が、赤土の頭を狙って獲物を振り下ろす。間一髪転がってよけたが。
恐ろしいことに、鉄パイプが触れた地面が、まるで爆弾でも仕掛けてあったかのように破裂しちまったのだ。もはや人間の力じゃない。まさか、あいつ。
「ねーちゃん、マズいんじゃないの。竜間の奴、とりつかれてるんじゃ」
「たぶんな。でも、赤土がいるから力は使えねえし」
ナイショだもんね、とユキ。彼も動きで気づいたのだろう。
「とりあえず竜間を気絶させるか。このままじゃ赤土がやべえ」
了解っ、と通称、雪見。アタシたちは彼のほうへと走り、弟が赤間の隣に、アタシは竜間の背後にたつ。
「コラ竜間、用があんのはアタシのほうだろ」
体をゆらしながら、こちらを向く奴。
「ば、馬鹿よせ紅葉。そいつは今正常じゃ」
「そう思うなら協力してよ、とりあえずオネンネさせなきゃ」
わ、わかったと赤土。どうやら考えが伝わったらしい。
アタシは構えて、相手の出方を待つ。普段と動きが違うからな。
まるでゾンビのような動作をしていた奴が、武器を構えたとたん訓練を受けた人間のような動きに変わる。
だが、こちらもビシバシ受けてる身。難なくかわし、通り過ぎた方角へと体を向ける。
どうやら、攻撃する以外の動きは鈍いらしいな。しかし振り向いた奴の目は、昼間に見た狼と同じく血走っているし、あんな一撃を食らったら命がねえ。
だからといってよけてばかりじゃ解決にもならない。とにかく、気を失わせて赤土には帰ってもらい、それから怨鬼を取りださなきゃな。
何度か単調な攻撃を回避し、パターンを覚えこむ。カーラ君との組み合いに比べれば何てこともない。
体力が続かなくなってきたのだろうか、竜間は息を切らし始める。
よし、今がチャンスだ。
アタシが体の中央を狙おうとしたとき、赤土が竜間を羽交い絞めにする。もはや合図も言葉もいらない。
アタシは力をこめて問題児の腹を殴った。いい場所に入った感触があり、相手の手から力が抜ける。
ふう、ようやくひと息つけるな。
「姉貴、危ないっ」
ユキの声がしたと思ったら、アタシの体は宙に浮いていた。首をつかまれ呼吸ができない。
元凶の腕をたどってみると、その先には赤土が立っていた。
『ククク、あの兄弟に手解きを受けている割には、ずいぶん甘いのだな』
げ、どうなってやがる。
足を上げて反撃しようにも、体に力が入らない。
なぜかアタシのつま先が地についたとき、弟が前に立っており、相手は倒れこんでいた。
「大丈夫」
「げほげほ。あ、ありがとう。そうだっ」
急いで赤土を見ると、竜間と同じような動きで立ち上がり、近くにある鉄パイプを手にする。
「ユキ、赤土にとり憑いたみたいだ」
「うげっ。竜間とは別モノ、それとも同じ」
「わかんねえけど。でも、これで力を使っても問題なさそーだ」
うなづきあい、アタシは手甲を装備し、ユキは刀を装備する。
「アタシが怨鬼を引き離すから、おとり頼んだぜ」
「お任せーっ」
第9録へ 長編小説TOPへ 第11録へ
Podcastチャンネルへ(動画版)
東京異界録公式ページへ(公式サイトに移動します・別窓表示)
<メルマガ>
最新作速達便
新作品をいち早くお届けします。
<Line@をはじめました!>
望月の創作課程や日常(!?)を配信していきます。
https://line.me/R/ti/p/%40bur6298k
または「@bur6298k」を検索してください。