ある声で目が覚めた私。どうやら眠っていたようだ。
「ねーちゃんってば。ご飯できたよ」
「ん、今いく」
昼間から戦ったせいで疲れたのかもしれない。まあ、顔を洗えば意識がはっきりするだろう。
「レオンにお供えしといたからね」
「ありがと。顔洗ったらリビングに行くわ」
そういって私は部屋を後にした。
エビチリが主役の今日のご飯は、中華料理中心に展開されていた。相変わらず料理が上手だわ、鳴兄は。
「そういやあさ、今度おっちゃんから誘われたんだってね」
「オレが料理長にってヤツのことか。うん、どうしようかなって」
「いいじゃん、鳴ちゃんの料理おいしいし」
「うーん、ジブンの店、持ちたいんだよ」
「親父に相談したら。協力してくれんじゃないかしら」
「どうだろうね」
と、あやふやな鳴兄。何かに悩んでいるのはわかるけど。突っこんじゃ悪いような気もするわね。
「何か力になれることがあったら言ってよ。私たち、鳴兄にはお世話になりっきりだし」
「そんなコトないさ。オレは姉さんに拾われたから生きてるんだし」
むしろオレが感謝してるほうだ、と彼。やっぱり大人の対応だ。
「それよりも、あんまりヨウがないなら出歩くなよ。最近あぶないし」
「うん。でも今日は用があるから出かけるわ」
「オレも一緒に行くから安心してよ、鳴ちゃん」
にぱっ、と笑うユキ。いや、いろんな意味で説得力ないわよ、あんた。
鳴兄は案の上の表情をし、無茶はするなよ、とだけ口にした。
食後ののんびりタイムをソファーに座りながらリビングでくつろいでいると、ユキが、
「ねーちゃん、九時半に例の場所だよ。覚えてる」
「わかってるわよ。とっとと終わらせて寝ようと思ってる」
「オレもオレも。いやぁ、寝不足はビヨーの大敵だしねっ」
何が美容だ、っとにもう。本当にふざけるのが好きなんだから。誰かさんに似たのかしらね。
冗談はともかく、これから学校行事もあるし、問題はとっとと解決するに限る。といっても、今回のは吹っかけられたものなんだけど。
さて、っと。時間だし、準備をして行ってきますかね。
私は部屋にはいり、持っていく物を確認。レオンにお留守番を頼み、帽子をかぶって部屋をでる。既に支度を終えていた弟と共に夜の町へと出かける。といっても、まだ八時半ぐらいだから、遅くはないと私は思っているんだけどね。
やってきたのは町のはずれにあるとある廃墟ビル。なぜこのビルがこうなったのかは、今や誰も知る由はない。
ましてや人目のつかないところである。つまり、
「待ってたぞ、紅葉」
今日という今日は決着つけようじゃないか、と、両手をパシッと合わせる今風の特攻服を着てる男。頭はオールバックの赤毛で、まあ、いわゆるソッチ系の奴なわけだ。
うすうす感づかれているだろうが、アタシもそう。キッカケは、まあ、機会があったら話してやるさ。
「うっとうしいんだよ、何度も仕掛けてきやがって」
「そう言うな。強い奴に挑むのって楽しいだろ」
と話しながら、でかい体を武器に殴りかかってくる相手。ひょいっと横にかわし、距離をとる。
「姉貴にもそうだけど、オレにも負けてること忘れてんじゃない」
生意気な口を利きながら、足をだして転げさせるユキ。彼も姿を変えており、金髪と青色の瞳、他校の学ランを身に着けている。そういうアタシも怨鬼(おんき)たちと戦う姿で、服だけは現代のファッションだ。
「悪いねぇ、赤土(あかつち)。オレ、足長いからさ」
「こ、このクソガキ」
アッパーを繰りだすが、すばしっこい弟には効果がない。身長差を生かして懐に入り込み、得意の蹴り技を放つ。
腹を抱えている赤土と呼ばれた男は、痛みを抑えながら咳き込む。
「いー加減に諦めたら。しつこい男は嫌われるよ」
「お前に用はない。邪魔だ、すっこんでろ」
「そう言われてもねぇ。ちゃんとオレを通してもらわないと」
どこぞの親父かよ、あんたは。それに、通してってどういう意味なんだ。
しかも二人でおっぱじめちまった。アタシが来た意味なくないか。これ。
だが、心配無用、ということじゃないが別の問題が発生する。どこから聞きつけたのか、別の連中がやってきたのである。
「よお、紅葉。赤土とやり合ってる聞いてよ」
「あっそ。それで」
「つれねぇな。こんなイイ女ほったらかしにして、赤土の奴は何やってんだか」
「ゴタクはどーでもいい。何の用だ、竜間(たつま)」
背後に回していた腕を振りかざす野郎。鉄パイプか何かを隠し持っていたことは薄々わかっていたため、後ろに飛んでかわす。正々堂々と挑んでくる赤土とは裏腹に、勝つためには手段を選ばない奴だからな。
「ちっ、相変わらず勘が働くな」
「てめえのセコさはわかってるからな」
「ふん、まあいい」
竜間は左手を上げると、連れてきた舎弟に周りを囲ませる。ざっと十数人はいそうだ。
周囲の雰囲気が変わったことにいづいたユキたちは、喧嘩をやめアタシの元に。
「竜間、俺が先だ。邪魔するな」
「うるせえ。お前ら全員気にいらねえんだ、やっちまえっ」
ったくもう。何でこうもややこしくなるかなっ。
アタシとユキ、赤土は互いに背中を合わせて円陣を組む。
外からは拳やらナイフやらがやってきていた。
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