東京異界録 第3章 第12録

 まずは自分のために戦えよ。
 その言葉が何故か頭から離れず、ずっと背後霊みたいについて来ている。いや、背後霊は失礼ね。せめて守護霊にしておこう。
 って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。目の前からは、人外たちが多数押し寄せてきているのだから。
 しばらく怨鬼(おんき)たちとの戦っては休みを繰り返している。カヌス君いわく、兄から聞いていた数より多いらしい。
 「ザコはともかく、妖怪クラスも結構入ってきてやがる」
 元は数体だったようで、しかも彼らは妖怪兄妹たちと比較的話がわかる人たちらしい。だが、あくまで物の怪たちの比較的であるので、人間に味方をしているわけではないという。何だかややこしいが、命を取られることはない、と解釈してよいようだ。
 「誰かが故意に突っ込んだってことよね」
 「だな。ま、正体はわかってるし、その人も敵じゃねえんだけど」
 何考えてるかわんねえんだよな、と次男坊。ややこしいを通り越してわけがわからない状態になって来たような気がするけど。
 「命に関わることはないんだよね。ゲームなんだし」
 「油断しなきゃな。いつも通りだぜ」
 どこがゲームなのよ。全然違うじゃないの、ったく。
 「命がチップのゲームだ、面白いだろ」
 「面白くないっ」
 アホかあんたはっ。
 「んな目くじら立てなくてもいいじゃねえか。スリルがあるほうが盛り上がんのに」
 「平和に生きたいのでそう思いません」
 そんなモンか、と不思議そうな顔をするカヌス君。まあ、性別と性格の違いなのだろうから、あまり強く言うつもりはないけどね。
 「まあそう言わずに楽しもうって」
 人生短いんだしさ、と聞き慣れた声。振りかえってみると、肉親のものではなく、見ず知らずの男が立っていた。
 幻聴か、隣から舌打ちが聞こえたような気がするけど。
 「お邪魔だったかな」
 「だな。すっげえ邪魔」
 「うわ、少しは遠慮ってモンを知ってよ」
 自分で言ったんでしょうが。
 そうツッコみたかったが雰囲気が許してくれない。声を変えた男は、既に槍を持ちながらこちらに向かって来ているからだ。
 私たちは左右に別れて突撃を無効化させる。しかし相手は切り返しが速く、すぐさまカヌス君に対して横なぎを放つ。
 とはいえお見通しだったらしく、彼の姿は半透明になり、槍先を通過させる。直後、男の背後にくっきりとした体のラインを見せ、ジュツを食らわす。
 前方に吹っ飛んだ相手は、何事もなかったかのように再び得物を構えた。
 刹那の後、私の後ろから何らかの気配を感じ前方に飛ぶ。次男坊の隣に立つ形になり、ふたり相手に向かい合うようになる。もう一人、敵が出て来たのである。
 ちなみに私がいた場所は、もうもうと埃が舞っており、五百ミリのペットボトルが横倒しに入りそうなぐらいの穴があいていた。
 「お宅相手に独りでなんて、自殺行為でしょ」
 「たかが二匹だろーが。なめんじゃねえよ」
 「どうかな。ほら、そこの人間を守らなきゃあいけないのなら、話は別だよね」
 視線で刺される私。同時に正面からの攻撃をされ、今度は人間に対して集中攻撃をする。
 二人の攻撃がスローモーションに見えている中、頭の中で何かがなった、気がした。
 なめられたモンだ。
 顔は黒いヴェールに覆われて見えないが、廊下を壊した相手の武器は鞭状のもの。向かってきた先端を掴むと、レイリョクを注入し相手をしびれさせて行動不能に。
 ドサッと倒れると、もうひとりへと視線を移す。睨んだつもりはなかったが、相手をびびらせてしまったようだ。
 顔に一筋の汗を流した相手は、
 「ば、馬鹿な。一撃で、だって」
 「馬鹿はてめえだ。こいつを誰だと思ってやがる」
 おそらくいつもの勝気な表情で話しているのだろうカヌス君。私はと言うと、異常なほど冷静に敵方の状況を見れたのだが。
 どういうわけか体が動かしたくて仕方がない。まるで肉体だけが戦いを望んでいるかのよう。
 そう、内からあふれてくる赤い何かを抑えるのに、精一杯なのである。
 突然目の前が暗くなると、目の辺りから冷たい感覚が流れてきた。まるでミスト状の冷たい水をかけられているかのようだった。
 「これでしばらく治まるだろ」
 相方の声がしたと思うと、襲ってきた奴の姿がなくなっていた。彼いわく、逃げたとのこと。
 「カ、カヌス君。何なの、これ」
 思わず自身を抱きしめてしまう私。正体不明の強い何かに、震えてしまう。私が私じゃなくなっていくような、そんな感じがした。
 「強いて言うなら、衝動、だろうな。具体名はねえんだけど」
 妖怪は話す。彼ら物の怪にはよくある話で、己が力に溺れ暴走してしまうのだそうだ。先ほどの私も、それに近い症状だったという。
 「お前のような人間も、まれ~にいるんだ。霊力が強くて狂っちまう奴がよ」
 「く、狂うって」
 「心配すんな。その為にチーム分けしたし、オレらもついてんだ」
 ちゃんと考えてんだぜ、と、イタズラっぽく笑うカヌス君。普段ならムッとしてしまうことがあるが、不思議と今は安心してしまう。
 「ちょうどいい機会でもあるんじゃねえか。涼太のようにガチで生きてみろよ」
 何かが見えるかもしれないぜ、と人生の先輩。子供っぽいところがあるが、何分私の二百倍以上は長生きしている。間違いなく聞き入れるべきだろう。
 私自身を拒絶してる、か。一体どういうことなんだろう。さっきのと関係があるのかな。
 うっとうしい怨鬼(おんき)たちを振り払いながら、しばらく考えていた。

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