じいさんが取り出したのは、ペンダントだった。赤い水晶のようなものがついており、かわいらしい見た目である。
「これがどうなっても良いのか」
「や、やめて下さい。言うこと、聞きますから」
「ならば早くしろ。娘たちの四肢を斬り落とすのだ」
あんのジジイ、子供の何てことやらせんのよっ。
頭に血が上ったせいか、私の体力はなぜか回復した模様。それはともかく、これで原因がはっきりした。あのペンダントは女の子の大切なもので、それを守るために無理やり戦わされているということが。おそらく、クサナギもそうなのだろう。
きちんとした体勢をとると、後ろから物音がする。首を回してみると、ふたりが倒れているではないか。
「足手まといだから眠らせた。結界も張ってあっから、思い切りいけるぜ」
「もう少し穏便にしてあげてよ」
「贅沢言うなって。あのジジイをぶちのめすんだろ、早くしようぜ」
さすがは幼馴染み、わかっていただけてうれしいわ。
「オレはガキんちょを抑える。お前はジジイをやりな」
「了解っ」
怪我させないかは心配だが、たぶん大丈夫だろう。私はフダを取り出し、ジジイに向かって行く。
同時にカヌス君も走り出し、創り出した脇差で女の子と斬り結んでいた。
彼女の横を通りすぎ、ジジイに一発かますべくジュツをとなえる。しかし、相手は老人とは思えない動きで後ろに飛ぶと、持っていた帽子から拳銃を出現させる。
「わしをなめるなっ」
反射的に左側に転げると、女の子の悲鳴が響き渡った。私を狙ったはずの玉が、女の子の左肩に命中してしまったのだ。
「何をしておる。とっとと斬らぬか」
「は、はい」
何てこと、何てことをするのよっ。
「ちょっとあんた、あんな小さい子に何やらせてんのよっ」
「今のはお嬢さんがよけたのがいけないのだろう。わしは火の粉を払ったまでじゃよ」
「元凶はあんたでしょ。何が目的なんだか知らないけど、人を斬らせるなんて」
「ふん。子をどう扱おうと親の勝手。お嬢さんには関係ない」
そもそもお嬢さん方がわしの物になれば良いのだ、とジジイ。もう意味がわからない、まともな会話ができないようだ。
「楓、そのジジイは自分の事しか考えねえ奴だ。何言ってもムダだぜ」
「みたいね、よくわかった」
尊敬できない奴だわ。ああいう身勝手なオトナになりたくないわね。
ジュツをとなえるために再び集中しようとすると、ジジイと私の間に、女の子が立つ。何となく距離をとると、カヌス君の右腕に斬り傷があった。厳密に言えば、服が斬られていたのだ。
「カヌス君、大丈夫」
「誰に物を言ってやがる」
「ごめんごめん。あのクソジジイからペンダントを取り返したいんだけど」
「ったく、お前って奴は」
どんだけ甘いんだ、と彼。そうこうしているうちに、女の子は複数の剣を呼び出し、こちらに飛ばしてくる。
対してこちら側は体を左右にそれぞれ動かしてかわす。もしかしたら私より戦い慣れしている女の子は、再度、同じジュツを放った。
だが、今度は彼女も一緒に剣を構えてやって来た。本当に小学生なのか疑問に思いながら何とか小手で剣を防ぐが、想像したより力がなく、弱々しい腕をしている。
しかし、その瞳はそれ以上に衰弱しているようだ。まるで人形のようで。
右側にレイリョクを飛ばして女の子の気を引き、後ろに飛ぶ。一方は、
「このクソジジイ、手間かけさせんじゃねえよっ」
「口の悪い娘御だの」
ジジイに向かっていったカヌス君は、左手にレイリョクをまといながら相手に殴りかかる。しかし、それは何らかの壁の防がれ弾き返されてしまう。
まさか、要候補の攻撃を無効化するなんて。
「ほお。人間ではなかったのか。これはこれは」
「ちっ。やっぱ、ちっとは力出さねえとダメか」
こうなることを予測していたのか、次男坊は一度距離をとり隣に並ぶと、立ったまま目を閉じる。長く感じたが、おそらく数秒後に開かれた瞳は、今まで感じたこともない殺気に溢れていた。
彼は思いきり足で床を踏みつけると、ダンッという音をとともに前に出る。その姿は、私の背中に嫌な汗が流れるのに十分だった。
やはり、カーラ君と同じく、人外なのだ。
しかし、彼の気迫に飲まれるわけにもいかない。このままだと、女の子も危ないかもしれない。もちろん、ちゃんと根拠があってのことだ。
ともかく、あのジジイをぶちのめしてネックレスを奪おう。
「てめえ、覚悟しろよ」
洗いざらい吐いてもらうからな、とカヌス君。普段の戦いよりも力を出しているせいか、いつもより怖い雰囲気になっており、単にガラの悪い兄ちゃん類ではない。平気で人を殺せそうな感じだ。
しかも、気のせいか髪の色が違うようにも見える。
当然、私とて何もしないつもりはない。彼の足を引っ張らないようにしつつ、女の子を助けるつもりだ。
しかし、カヌス君が力を出さなければいけない程の相手。いったいどのように攻略すればいいのかな。
「プリムのカタキ、ここでうたせてもらうわ」
本心で口にしているのかしていないのかわからない力で言う女の子。
向かってくる彼女を受け止めながら、何かよい方法を模索していた。
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