「な、何っ」
視角が光に包まれた瞬間、私の体は軽くなり、前から来た大きな光弾が放った主へと返っていく。
自らのジュツでダメージを負ったクサナギは、壁に激突し咳き込んでしまっている。
「い、今のは完全な反流(はんる)。こんな高度な術を放てるなんて」
な、何を言ってんの。ハンルなんて言葉、聞いたこともないし。
中身はともかく、高度な技術が必要とするなら、使えるのはあの人たちしかいない。それにしても、いつとなえたのかしら。
「やはり一筋縄ではいきませんか。彼らがあなたを守る限り」
このままでは、と、クサナギ。そうか、だから一気に畳みかけに来なかったのね。
つまり、私には妖怪兄妹たちの守護がある。理由はともかく、彼はそれを知っているから、本気を出さなかったのだろう。とはいえ、もちろん矛盾もある。
守られるワケとちぐはぐなのは気になるが、今はそれどころではない。
「クサナギ、私を信じられなくても、カヌス君はできるでしょ」
「どういう意味です」
「まんまだよ。私を殺すことが難しいなら、あの子の身が危ないんじゃない」
視線を横にそらす彼。やっぱり。
「私だって死にたくない。でも、助けてあげたいとは思ってる」
「偽善、で物を言っているようではないみたいですね」
安心しました、と彼。よかった、ようやく話してくれる気になったみたい。
しかし、次に待っていたのは、腹部への衝撃だった。
「術が駄目なら接近戦に持ち込めばいい」
至近距離なら反応しようがありませんからね、と、続く。
どうなったのかわからない。ただ、意識が真っ暗になった。
目が覚めると、闇の中にいた。首を回してみるも、何も見えない。
手を伸ばして辺りを探ろうとすると、指を固い何かに突き刺したよう。うう、けっこう痛い。
「誰、そこにいるのは」
女の子の声がする。もしかして、十二月(じゅうにげつ)の子なのかな。
「また誰か来たの」
「最近多いわね。いなくなる人も多いけど」
あれ、複数の女性の声だ。しかも、音を耳にする限り、私と同じぐらいかそれ以下だろう。
それにしても、どうして明かりのない部屋に複数の人を閉じ込めているのかしら。
「あの、電気つけないんですか」
「つけられねえんだよ。ったく、もっとマトモなところに連れて来いってんだ」
うわ、口の悪い人がいる。ヤンキーですか。人のこと言えないかもだけど。
あれ、ちょっと待って。この感じって、ま、まさか。
どうしよう。確かめたいけど、どこにいるのかわからないし、他の人もいるし。
そんな中、ガチャ、という音がどこかでする。ドアノブをひねったらしく、部屋の中に長方形に伸びた、照明からもれた黄色が差し込んできた。
「ようこそ、お嬢さん方。お会いできて嬉しいですよ」
逆光になっているため顔は見えない。だが、シルエットから男だということと、トーンでクサナギでないことはわかる。
ってか、超ワザとらしく感じるんだけど。
「さあ、主人がお待ちです。今回は全員で向かいましょう」
ざわつく周囲。セリフからうかがうに、今までは少人数だったのかもしれない。
それにしても、あの女の子。どうして年頃の同性を集めているのかしら。友達作りだったりして。
それはないか。それなら命を狙う必要はないもの。
しかし、まったなあ。戦って逃げるにしても、一般人を巻き込むわけにいかないし。
今ここで暴れても無意味なので、大人しくついていくことに。そして、目が役目を果たし出すと、案の定、妖怪兄妹の次男坊がいた。いや今は、長女、って言えばいいのかしらね。カシスちゃんが次女で。
そう、女性に化けているのである。女装ではないのであしからず。
「見惚れてる場合かよ。早く行くぜ」
誰かこいつを殴ってくんないかしら。
心強さと呆れが入り混じり、思わずため息がもれた。
迎えに来た執事のおじさんが、私たちを含めて四人の女性をどこかに連れて行く。くの一の文字を書く性別しかいないってことは、エロオヤジのところに連れて行かれるのかしらね、ったく。
だが予想は違い、広い会議室のような場所にやってくる。長い机が並べられている先には、初老のじいさんが座っていた。
「主人、お連れしました」
「宜しい。下がれ」
はっ、と、静かにドアを閉める執事。異様に重苦しい空気になると、じいさんはおもむろに立ち上がる。
「よく来てくれた。さあ一人ずつ、よく顔を見せておくれ」
そう口にしながら近づいてくる、見た目は紳士のじいさんだけど。
いかに人生を長く歩いてきたからといって、こんなに息苦しい雰囲気をかもし出せるなんて。
「そこのお嬢さん、名を何と申す」
げ、いきなり指名ですか。
「む、村井です」
「ほう、そうか。そちらは」
「川上、です」
「そちらは」
「春夏冬(あきなし)」
ふてぶてしく、腰に手を置きながら答えるカヌス君。思い切りガン飛ばすのやめたほうがいいんじゃないかな。
「で、最後の方は」
「あ、あかざ、み、です」
「あかざ、み? あかざみ、か」
どのように書くのかな、とじいさん。確かに珍しい苗字だから、わからないわよね。
目の前に紙とペンを置かれ書くように言われると、お望みどおりに記入する。
とたん、私の体は動かなくなった。
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