白昼堂々と、学校で襲撃してきたクサナギ。私は運悪く妖怪兄弟と離れてしまい、一対一を強いられてしまう。
「どうしました。かかってこないのですか」
勝てる気がしないんで。無駄に戦いたくないのもあるけど。
とは思いつつも、口には出さないが。
「き、聞きたいことがあるんだけど」
「時間稼ぎですか。見苦しいですよ」
「そうじゃないわよ、あの女の子のことよ」
「女の子? 主人の事ですか」
そう、と返事をする。時間稼ぎは頭になかったのだが、そう思われても仕方がないだろう。こんな不利な状況じゃあ、ね。
「あなたに話すことなんてありません」
「なら、私を殺そうとした理由ぐらい教えてくれてもいいんじゃないの」
目を見開く相手。信じられない、といった表情は、疑問を深めるのに十分だった。
「成程、彼ららしい。創造主から聞いていないのですね」
「何度聞いてもかわされるのよ」
「でしょうね。秘密主義なのは昔からですし」
私よりもはるかに彼らの性格がわかっているらしいクサナギ。彼ら、と複数形になっているということは、兄と妹の存在も知っているのだろう。
昨日の段階ではそのふたりだと気づかなかったみたいだけど。
いや、そんなことはどうでもよいわね。
「個人的には話して差し上げてもいいのですが。あえて知る必要もないと思いますよ」
「あんたも同じことを言うのね」
「それはそうでしょう、子の様なものですから」
ヒュン、と、剣をならすクサナギ。任務を遂行しようとしているのが、動きでわかる。
まずいわね、正面から来られたら。考えなきゃ、どうすればこの危機を脱出できるのかを。
「あ、あの子の首筋に、アザがあったわね。それと関係してるとか」
彼のまゆが、ほんの少し動いた、ような気がする。
「わ、私に何か、できることってない」
「何を突然。何を企んでいるのですか」
「企んでなんかない。ただ、あの子が心配なだけよ」
「会ったばかりなのにですか」
「似てるのよ」
「え」
「昔見た、ある子に似てるのよ」
誰とは言わないし、言えない。たが、幼い頃から一緒にいる人間なんて限られてくるだろう。
いや、もはや特定しているようなもの。違いといえば、奥底にちゃんとした親の心があった、ということだ。
とはいえ、赤の他人の子はわからない。なら、聞くしかないのだ。
「興味本位じゃない。ただ、辛い想いをしてるなら、助けてあげたい」
クサナギは黙り込んでしまう。
「優しい方ですね。なら、主人を助けるためにその命、この場で貰い受けましょう」
なっ、冗談じゃないっ。
「冥途の土産に覚えておいて下さい。力なき想いなど所詮はうわ言なのだ、と」
彼の姿が消える。次に姿を現したときは、目の前で剣を振りかざしているところだった。
私は考えるよりも先に体を動かし、何とかかわす。だが向こうの構えが早く、とても追いつけない。
嫌な音がよぎると右腕を切られていることに気づく。大丈夫、浅いから止血すれば問題ない。
「どういう意味よ。まさかあの子を人質にされてるんじゃ」
「答える必要はありません」
あーっとにもう、ホントに頑固な男ね。こうなりゃ目には目を、よ。仕方ないわね。
私は意を決して、相手と対峙。本人がああ言ったのだから問題ないだろう。
とはいえ、クサナギは格上。どうやって倒せばいいのかな。
動きも早くて近づけないのなら、アッチからきてもらうのがよいか。そうと決まれば。
徐々に後退して行く私。背中を見せないようにすれば、死角がなくなるからだ。
「あまり戦慣れしていない割には考えますね」
「そりゃどうも。死にたくないんで」
「でしょうね。それが普通です」
その言葉を聞いたとき、カヌス君の言葉が浮かぶ。彼の実力は、人間たちをはるかに凌駕する、と。
一体、何を考えてるの。まるで私を試してるみたいじゃない。
ちょっと待って。試す、か。
それにもし、あの子が人質になってるとして、よ。生みの親が言っていたとおりの力があるのなら、どうしてこう先延ばしにするのかな。
怖い現実だし、聞きたくもない。でも、彼の不可解な行動にはきっと意味があるはず。何としても聞き出さなきゃ。もしかして、本心は戦いたくないのかもしれないし。
攻撃をかわしつつ、どうにかして反撃するもこちらのはかすりもしない。かといって、ジュツをとなえようにも相手がそれを許してくれなかった。
言葉にできない攻防戦が続く中、活路を見出そうとする。しかし、時間だけがすぎて、解決策が浮かばない。
こんなとき、カーラ君たちならどうするのかな。彼らなら、どう考え、どう動くのかな。
命の危機と普段とは違う頭の使いかたに、だんだんと気力と体力がなくなっていく。また、伴って集中力もなくなってきている。
「これまでですね。そろそろケリをつけましょう」
私よりも数十倍のスピードでジュツをとなえるクサナギ。身を守ろうとしたものの体勢すら間に合わない。
無慈悲な大きな光は、個人の思考を奪い、見知らぬ闇へと連れ去ろうとしていた。
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