話し手がカーラ君に代わると、自身の立場である要(かなめ)について説明し始める。
「以前も言ったと思うけど、要は妖怪界と人間界を隔てる結界を守る位置にいる、のだけど」
歯切れが悪い理由は、とある妖怪が原因で起こったことだからだとか。
というのも、妖怪世界というのは実はできてから歴史が浅く、つい千年前の出来事らしい。元々同じ空間で生活していた双方の種族は、彼の同族たちが強制的に人ならざる者たちを隔離させたという。
そして、二度と怨鬼(おんき)、怨霊を含めた全ての物の怪たちによる事件を起こさせないためにしたのだ、と。
「つまり、本来は要(かなめ)なんていう地位はなかったんだ。結界も勝手に作り上げたに過ぎない」
ただし、妖怪界では、別の意味を指す要があり、それを創造者のひとりが先程の要(かなめ)と融合させたと話す。こちらの意味は、単純に勢力関係になるとか。
また、本来の要の人数は五人で、五行説と同じ数であり、カグナさんは同じ立場らしい。
「もうひとりはそのうち姿を現すからいいとして。問題は他の三人だ」
人間の政治と同じように、こちらにも派閥が存在しており、名前をつけるなら穏健派と保守派になるよう、なんですけどね。
あの~。政治のことはよくわからないんだけど。
「ごめんごめん、突発的過ぎたね。つまるところ、もうひとりの要(かなめ)と加具那(カグナ)と他の三人と対立しているんだ」
「今の状態に賛成してるのがジジたちで、反対してるのがその三人なの」
「ということは、そいつらが裏で糸を引いてるって事なのか」
「そういうこったな。ま、この辺りは予想だけどよ、今までの流れからしてそうだろうな」
ってことは、以前にもぶつかったことがあるってことなのね。長い時間を生きているから、きっと幾度となく戦ったのだろう。
「あれ、カーラ君が入ってないじゃない」
「おれは本来の要(かなめ)じゃない。人間界と隔離して出来た、妖怪世界の要(かなめ)なんだよ」
そして彼は、この五人の一人ひとりが驚異的な戦闘能力をもつと言う。
カグナさん、そんなに強い人だったんだ。いつも料理してるからそういう風には全然見えないんだけどね。
「じゃあ、あの女の子をけしかけさせたのも、その人たちのせいだって言うの」
「あくまで可能性だけど。率は高いだろう」
「んま、クサナギたちに関してはちゃんと式は放ってあっからよ」
そっちは任せとけ、とカヌス君。確かに、生みの親なら色々と有利だものね。
「かなりざっくりだけど、まあいいだろう。十二月(じゅうにげつ)の話に移ろう」
これから戦うだろう要の三人。いったいどんな妖怪たちなのかな。いや、今は十二月(じゅうにげつ)の話になるのだったわね。
「涼太君は全般的っていってたけど、何が知りたいのかしら」
「そうだな」
これから遭遇する連中の戦闘スタイルや対策法が知りたい、という彼。
一方、ふうん、とほおづえをついて、なぜか笑うカーラ君。
「良かったね、楓ちゃん」
「へ、何が」
「ん~、こっちの話」
何よそれ。ニヤける理由がわからないんだけど。確かにこの人の言うとおり、頼りになるわよ、彼は。
「んーと、進めていいかしら」
「ああ、ごめん。どうぞ」
ホントに何を考えているのかわからない人である。
まずは神無月について。
彼女は無機質なものに命を吹き込み、意のままに操ることができるジュツ者だという。プリムが良い例で、人形だけでなく、その辺に転がっている石でも可能だとか。
「操れる時間は霊力によるのか」
「そうね。あとは動かせる数も変わってくるわ」
「面倒なのはクサナギがいることだな。奴本人も戦えるし、神無月と似たような力を持ってる」
さらに付け加えると、彼女自身の実力はわかりかねるが、神無月自体も、昔からよく剣を使っていたらしい。
主に直接攻撃が得意な傾向があるようだ。
「難敵だな。遠距離ができる奴を連れていたら大変なことになる」
「野郎がいらん知恵を入れるからな。ガキでも油断しねえほうがいい」
あの様子じゃすぐにやってくるだろうしな、と如月君。
そうね。あの子、すごい剣幕だったもの。プリムのことも大切にしていたみたいだし。
「楓、迷わないで。少なくとも神無月はあなたを殺せるのよ」
「本当に、望んでるのかな」
「え」
「あ、ごめん。ちょっと気になって、その」
「どうした、言えばいい」
何と口にしたらよいのか言葉を選んでいると、隣にいる如月君の雰囲気が変化しているよう。どうもイライラしているというか。
「あの子、本当に戦い、望んでるのかなって」
「お前、いいかげ」
「涼太君。楓ちゃん、どうしてそう思う」
前かがみになった同級生を言葉で制したカーラ君は、私にちゃんと考えていることを口にするように伝える。
「あ、あの子の首筋、アザがあったでしょ」
「ンなトコ見てねえよ」
「俺も知らん」
私が小さい頃、何度も何度も似たようなものを見たことがある。それは場所を変えて、常に体のどこかにあった。
あの女の子の雰囲気は、そのときのと似ていたの。私はいつも、さすってあげたのを覚えている。
でも、少し違う。性別が違うってことではなく、もっと根本的な何かが異なっているように思えて。
「うまく言えないけど、事情があるような気がするのよ」
それが精一杯の答えだった。
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