「あの子が、十二月(じゅうにげつ)なのっ」
隣にいる同い年の如月君がそうなのも驚いたが、もっと幼い先程の女の子も同列の立場だという。
確か、十二月(じゅうにげつ)というのは、悪しきモノから天皇を守るための位置づけだったわよね。
しかし、厄介なのは他の人たちも動き始めた、ということらしい。私にはちんぷんかんぷんなのだけど。
近づいてきたカシスちゃんに聞こうとすると、
「他の連中が動いたところで、別にどうと言うことはないんじゃないのか」
「そうでもないわ。あたしたちの敵が増えた可能性があるってことなのよ」
「え、十二月(じゅうにげつ)って味方じゃないの」
「今となっては誰の味方でも敵でもねえよ。目的次第でどっちでもなる」
「訳がわからん。ちゃんと説明してくれ」
腕を組みながら質問する内の一人。あれ、どうして彼がわからないのかしら。
いつの間にか着替えていたカシスちゃんは、
「それは構わないわ。でも、まず雪祥君を安静にさせたいんだけど、いいかしら」
「そうだな」
頭の上に渦巻きが出てきているが、弟の体のほうが大事なのぐらいはわかる。お願いして家に連れてきてもらおうと思ったが。
「あたしたちの家にしましょう。ゆっくり休めるし、結界の中だから襲われることもないから」
「わかった。とにかくユキをお願いしてもいい」
「もちろんよ。ごめんね」
「カシスちゃんのせいじゃないわよ」
力のない笑みで、ありがとう、という彼女。おそらく、責任を感じてしまっているのかもしれない。
「とにかく移動するぞ。加阿羅(カーラ)、いいな」
「ああ、頼む」
妹と同じく姿と服をいつもの和服にした長兄も同意し、私たちはカヌス君が振り上げた左手が生んだ光の柱に包まれる。
すべてが真っ白になったと思ったら、すぐに目の機能が戻った。しかし、風景は今まで見たことも無い、昔ながらの広い日本の家屋。部屋の角には、誰が敷いたのか布団がある。
「歩けるかい」
「う、うん、何とか。ってか、クツ」
「後でいいから。先に横になって」
ユキの言葉に、私と如月君も慌てて靴を脱ぐ。畳が砂だらけになってしまったが、住人たちは気にしていないようだ。ほっ。
しかも、いつの間にかみんな脱いでるし。いつ靴下になったのよホント。
「さて、どこから話そうか」
弟を寝かしつけてくれたカーラ君。とりあえず、囲炉裏の周りに座ると同時に、私たちの傷も回復することに。
「ところで、何が知りたい」
「全般的だな。まず十二月(じゅうにげつ)のことが知りたい」
「あれ、何で如月君が」
「俺が知ってるのは軽い歴史と自分が十二月(じゅうにげつ)だってことだけだ。他は知らない」
まゆをひそませたカーラ君だが、ああ、と口にすると、
「そうだったね。あの歳なら仕方がないか」
今度は、同級生が同じ表情になる。
「何故知ってる」
「霊子を読めばどんな過去も調べられる。君のことも調査済みだよ」
もちろん、楓ちゃんたちもね、と彼。よくわからないが、彼ら妖怪の力なのだろう。それにしても、レイシって言葉、どこかで聞いたような気がするわね。
「十二月(じゅうにげつ)のことっつっても、今はバラバラになってるしな。わかってる奴らの動きでいいか」
「ああ。疑問があったら質問する」
「よし。んじゃ、話してやる」
なぜかカヌス君が答弁することになり、話は続く。
今わかっているのは、彼らのうち、五人のことだという。ここにいる如月君を除き、先程の女の子が神無月、今まで起こった狼襲撃事件と大男事件は、睦月と弥生の仕業だという。
「睦月と弥生の正体はまだわからねえ。察しはついてんだが、何かのチカラが邪魔をして、オレたちじゃ調べられねえんだよ」
「もうひとりは」
「水無月なんだがよ。十数年前から行方不明だ」
「え、ヤバくない。それ」
「それは大丈夫。奴の居場所と顔を出さない理由は何となくわかる」
そうは言っても。それにしてもどうしてカーラ君、怒り顔なのかしら。
「ま、そいつは味方だ。敵に回ろうモンなら、おっちゃんが始末するだろ」
「おっちゃんって?」
「そのうち姿を現すから気にしないでいい」
と、長男。だから、どうしてそう不機嫌そうなのよ。
だが、ワケがわかるらしい弟と妹は、同時にため息をついた。
「ともかく、オレたちが自力で調べられたのはここまでだ」
「自力? 加具那(カグナ)や他の要たちは協力してくれないのか」
「ジジは放置プレイね。あたしたちで対処しろって言われてるし、修行になるからやれって」
けっこースパルタなのね、妖怪たちって。
ふと、頭を動かした要のひとりは、
「そうだ。この機会だから十二月(じゅうにげつ)の前に、要のことを話したほうがいいか」
そうじゃないと混乱してしまうだろうし、と続ける長兄。何か背景があるのだろうその言葉は、何となく重さを感じる。
「加阿羅(カーラ)、大丈夫なの」
「おれの事はいい。それに、お前が思っている事とは関係ないだろう」
「ならいいんだけど」
心配そうに見るカシスちゃん。ときどき人が変わったようになるのは、やはり理由があるのだろう。
「退屈な話になるが、それは我慢して欲しい」
そういうと、ゆっくりと、内容につい話し出した。
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