東京異界録 第2章 第14録

 「怪我は問題ないのか」
 「大丈夫、カーラ君が治してくれたから」
 「わかった。男のほうは俺に任せろ」
 うなずいた私と如月君は、再度構える。相手の二人はこちらを怪訝そうにうかがうと、同じく戦闘体制に入った。
 動き出そうとした瞬間、私たちの体はオレンジ色の炎に包まれた。熱さは感じず、体にまとうと、スーッ、と中にしみこんでいく。
 「伽糸粋(カシス)の術だ。俺たちの能力が上がっただけだから心配するな」
 「うん、体が軽く感じる」
 お礼を言い、二人一緒にそれぞれの相手へと仕掛けていく。
 「ターゲットが先程と気迫が違いますね。気をつけてください」
 「はぁい」
 敵もそれぞれ動き出し、同じ性別で戦いを開始。
 それにしても彼女の動きが先ほどよりもゆっくり見える。きっと燈ちゃんのおかげだろう。
 とはいえこのままでは体力が無駄に消耗されるだけ。どうすれば退散させることができるのだろうか。
 たまたま近くに来た如月君に、背中を合わせ、何かよい考えがないかを聞く。
 「同時に攻撃すればいいだろうがな」
 「邪魔されるよね。私が狙われてるみたいだから、オトリになろうか」
 「無茶を言うな。二人分の攻撃に耐えられるのか」
 う。じ、自信がない。
 「囮なら俺がやる。どっちに集中する気だ」
 「女のほうがいい、かな。体力も低いだろうし」
 「そうだな。お前はでかい一撃を放てるようにしとけ」
 了解、と返事をする。同い年とはいえ、私よりも回数が、しかも独りで戦っていた彼の考えはとても頼りになる。適切なアドバイスは、迷っているときに道を教えてくれるのだ。
 彼は手に何かを持ち、二人の間に突撃していく。その間、私は言われた通り、ジュツ攻撃ができるように力を溜めることに専念。ここ何日かの戦闘で、直接攻撃より効果があることがわかったからだ。
 如月君が交戦し始めると同時に、私の周りに炎が発生する。ビル二階を覆うほど高い円形状になっており、あちらからは姿が見えないだろう。
 自分ができることに集中し始めると、レイリョクの流れが両手のひらに集まってくるのがわかる。
 私のレイリョクが高まり放つ準備ができたと同時に炎が雲散。数十メートル先には如月君が立っており、相手に攻撃したのだろう後だった。
 こちらの様子に気づいた彼は、横に大きく飛び相手と距離を空ける。すかさず狙いたい人物を見定め地をはう稲妻を放つ。
 同じタイミングで側面から大地の隆起が発生するとプリムに向かっていく。男を遠くに吹っ飛ばしておいたようで、彼のフォローは間に合わず直撃。
 だが、耐えきった彼女は、服をボロボロにしながらも練りこんでいたジュツを私に放った。完全に無防備になっていた私は、かわしきれず服以外同じ状況になってしまう。
 そこに、男の剣が襲いかかってきた。距離を縮めていたのだろう相手はもう目の前に迫っている。
 くっ、体が動かない。これじゃあかわしきれないっ。
 「ぐっ、一体どこから」
 見ると男の胸の布地がこげている。どうやら炎が当たったようだが。
 発言から、張本人がどこにいるのかわからないようだ。
 とまどっている敵に対し、背後から打撃を仕掛ける十二月(じゅうにげつ)。かろうじて回避した男がいたところに、今度はパートナーのジュツが放たれる。
 しかし、予測していたのか彼は、腕を体の前でクロスして弾き飛ばしてしまった。
 もちろん私も反応し、プリムに向け同じ要領で攻撃。男によって防がれてしまったが、逆にスキを作らせることに成功。
 作戦通りにことが進み、如月君が女に対し強烈な一撃を加えたのだ。さすがにひとたまりもなかった彼女は、大きく後退し吐血。
 ちなみに彼の手は、淡い黄色で包まれていた。
 私は、すかさず大きな雷撃をおみまい。何度かジュツをとなえていたせいか、より短時間でレイリョクを高めることができるようになったのだ。
 フラフラになっていた相手は当然よけることができず、
 「マ、マスター。マスタァァァッ」
 と、悲鳴とごう音ともに女の姿は無くなる。足に力をこめた男は、彼女の名を呼びながら今は何もいなくなった場所へかけていくと、片ひざをついた。
 「何ということだ。主人(マスター)に何といえば」
 「その必要はない」
 と、如月君。私が全身で息をしている間、相手に接近したらしい。
 「お前も同じところに送ってやる」
 「生憎、そういうわけにはいきませんので」
 持っていた剣を下から上へと踊らせる。だが、こともあろうに腕で金属を止めると、右腕を振りかざした。
 しかし、振り下ろされた瞬間、如月君のほうがダメージを受ける。数秒後ぐらいにすぐ両足を着けたところから、ちょっと飛ばされただけで大したことはなさそうだけど。
 しかも、邪魔をしたのは意外な人物。
 「加濡洲(カヌス)、どういうつもりだ」
 「悪ぃな。ちょいとワケありでよ」
 いつもどおりの、意地の悪い笑みをした次男坊。左手を人間の同級生に向けながら、和服姿をした彼は、私たちと敵の間に立っていたのだった。

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