あの練習の後、一部だけ教室に戻り男女別にチーム分けを行い、男子はすんなりと決まって体育館へ戻った。だが、女子は経験者が少ないため、練習してから決めることに。
今は行事の中心人物の四人と一緒だ。
「ってかさ、女子用の商品もほしいよね」
「それ言える。あ~あ、イイ人と一日デートとかさ」
「藜御さんはいいよねー、イケメン兄弟が近くにいて」
超、目の保養じゃん、とギャル系の宮田さん。バッチリメイクはもはや次元が違う感じがする。でも、中身はいたって普通の子なんだけどね。しかも彼女はバスケ部マネージャーなのだ。
「幼馴染なんでしょ、どっちが好きなの」
「そ、そういう仲じゃないから」
「えーっ、そうなの。マジもったいないっ」
「あたしは翔君だな、なんか王子様って感じ」
「えー、瞬でしょ。やんちゃ坊主っぽくてかわいいじゃん」
あ~、どうしよう。こーゆーの苦手なんだよなあ、もう。とりあえず苦笑いでもしながら話題を変えよう。
「そ、それより練習どうする」
「練習っていっても数週間だしね。私が見て判断するよ」
「あいちゃん、よろしくぅっ。っつっても面子変わんないしね」
「まー、怪我しないのが一番だよ」
と、ちょっと間延びした木下さん。彼女は中学時代にバスケをやっていた人だ。
「もうこうなったら、春夏冬兄弟に手取り足取り教えてもらおうよ」
ちょ、ちょっと宮田さん、何でそうなるの。
「宮田ちゃんは話したいだけでしょ」
「いいじゃん、あんなイケメン兄弟めったにいないし」
「あー、わかるわかる。ダンクかっこよかったー」
だ~か~ら、何で話がそっちにいくっ。
頭を抱えていると、教室の引き戸が勢いよく開かれる。
「ったく、何でオレが試合に出なきゃならねえんだって」
「お腹すいた~」
「聞いてんのかてめえ、お前のせいだぞっ」
なんてタイミングだ、噂の人物たちが登場しちゃったよ。しかも瞬君、不機嫌マックス状態だし。
「ん、何してんだお前ら」
「チーム決め。女子は経験者が少ないから」
「瞬君、私たちにバスケ教えてよ」
「はあ? オレ、バスケなんて知らねえよ」
「そうなのっ。それでダンクできるんだ」
「だって、両手でボールつかんでジャンプして入れるだけじゃん。届けば入るって~」
と、翔君。ニコニコしているのは、これからお昼だからだろう、こちらはご機嫌なようだ。瞬君のバスケに対する突っ込みもスルーしているし。
時計を見ると、もうチャイムがなる直前だ。
「どうしよう。今度にする、それとも食事しながらにする」
「ど、どーせなら皆で一緒に食べようよっ」
何故か拳を作って立ち上がる木下さん。う~ん、人のことをどうこういえる顔じゃないけど、確かにイケメンかな。きっと憧れの的なんだろうね。
「別に構わねえけど。翔、どうする」
「おれも別にいいよ~。とりあえず移動しようよ~」
ということで、お昼をいただくことになった。
一部に上品な雰囲気が漂いつつもピンク色な空気の中で休み時間が過ぎ、五、六時間目が終わる。後は自由行動となり、チーム決めは明日以降に持ち越しに。経験者の宮田さんと相田さんが部活だからだ。
私は教室に残り、今日出た宿題をやっている。今やっておかないと、夜以降はくたびれて何もできないからだ。
「お~、相変わらずクソ真面目だなあ」
「うわ、びび、びっくりした」
いつの間に室内にいたのか、瞬君に声をかけられる。
「ところでお前、気づいたか」
「もしかして、食堂のこと」
ビンゴ、と左手の親指を立てながら話す彼。実は、お昼を食べているとき、妙な気配を感じたのだ。
もちろん、アッチ側のことである。
「それに翔君のいっていたことも気になるし」
「アイツはアイツで動くから気にしないでいいぜ。それより、目の前のことに集中しな」
わかった、と返事をする。彼のいうとおり、今できることに集中して力をつけたほうがよいだろう。
そのほうが役に立てるしね。
それに、物の怪の気配は日に日にわかるようになってきているし、居場所もなんとなく特定できてきた。
でも、今回の相手は隠れるのが上手みたい。確かに食堂にはいたんだけど、どの辺りかまではわからなかったから。
場所は特定できたか、と聞かれたが、私は首を横の振るしかできなかった。
彼はいつもどおりの口調で、
「もし広すぎて見つからなかったり、隠れるのがうまかったら、式を使え。そうすればお前の代わりに動いてくれるぜ」
「シキってそういう風に使うんだ」
「まあな。後は使い手次第だな」
試しにやってみな、と次男坊。瞬君は、シキにした怨鬼は、主の言うことしか聞かないので、おかしなマネはしないという。
よくわからないが、物は試し、ということで、この前お菓子をあげた怨鬼を使ってみることに。
怨鬼を呼ぶにはレイリョクを使うらしく、やりかたもジュツをとなえるときと同じ要領だという。
前回だした雷と同様に意識をシキに集中させる。すると、タレ目が特徴の怨鬼がでてきた。
『どうしたの』
「調べてほしいことがあるの。学校の食堂に、物の怪の気配があったから探ってきて」
『うん、いいよ』
フラフラ、と、フダから離れていった小さな怨鬼は、そのまま壁を突っきっていき、食堂へと向かう。
「ま、そんな感じだ。回数をこなしていけばもっと得られる情報も増えてくる」
「うん、わかった。ちょうどいいから瞬君も宿題やったら」
「ヤなこった。メンドくせえ」
学生の性分なのです、やりなさい。
「いてててて、耳を引っ張んなって」
まったく、どーしてそうサボるかな。
このとき、カヌス君の視線が食堂とは違う方向に向いていた。
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