ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第8話

 賑やかになったパーティーは、道端に華を咲かせながらゆっくりと目的地にむかっている。
 「マイエラ修道院は、巡礼やら旅の神父やらが集うちょっとした名所でげす」
 「そうなんだ。それならドルマゲスを見かけた人がいるかもしれないね」
 心なしか疲れ気味のヤンガス。モンスターが面倒な特技を使うからという意味だけではないようだ。
 目的地と思われる建物の上側が見えはじめたとき、ゼシカが、
 「ねえエイト、約束してくれる。ドルマゲスを見つけたら私ひとりで戦わせてくれるって」
 「え」
 リーダーはまっすぐな彼女の目を直視できなかった。ゆっくりと、目を閉じ、息をはきだす。
 再び、ゼシカを瞳にいれ、
 「わかった。でも無茶はダメだよ」
 「ありがとう。優しいね、エイトは」
 あ、でも私がピンチの時はちゃーんと助けに来てね。これも約束っ、とウィンクしながらもちゃっかりした乙女のお願いが。エイトは、わかった、と困り笑顔で返事をした。
 やがて闇が完全に支配しそうな時刻に、ようやくマイエラ修道院にたどり着く。
 「どうも教会だの神殿だのっていうのはアッシには向いてねえでがす」
 この大修道院なんて一生縁がないと思ってたんでげすがね、とヤンガス。
 「遅くなっちゃったし、今日はここに泊めてもらいましょうよ」
 「どうでがしょ。ここにお参りに来る奴らは、たいていドニの町に宿をとるんでげすよ」
 「そうなんだ。ここには宿泊施設がないってことか」
 「聞くだけ聞いてみましょ。ドルマゲスのことも調べなきゃいけないし」
 最重要の情報集めをしに、一行はマイエラ修道院に足を踏みいれる。重厚な扉をあけると、目の前に杖を持った女神像があり、ひとりの修道士がたっていた。
 話しかけると、表情が変わり、
 「薄汚い旅人が、聖なる祭壇に軽々しく登るでないっ。まったくバチあたりな」
 聖堂騎士団にちゃんと見張っていてもらわなくては、と、像の高さと同じぐらいの視線から物事をいう男性。ほかの修道士に尋ねたが、つっけんどんだった。
 「何となくここの人たち偉そうで感じ悪いわ」
 リーザス村の教会の人たちは親切だったのに、とゼシカ。
 「お布施だお布施だうるさいでがす」
 「最近みだいたね。お金を要求するようになったのは」
 というエイト。どうやら、噴水のある建物の中にいた身なりのよい男性に聞いたらしい。
 「ヤンガス、この辺りに酒場があるところってドニかな」
 「そうでげす。兄貴、一杯やりやしょうぜっ」
 「も、もうちょっと調べてからね」
 奥にある大きな建物を指さしながら苦笑いする青年。仲間が視線を送ると、修道士とは違った服を着ている男性がふたりおり、青を基調とした動きやすそうな服に剣を携えている。
 あからさまに雰囲気が違う彼らに話を伺おうとすると、
 「何だお前たちは」
 「怪しい奴め。この奥に行って何をする気だ」
 「僕たちはただ探している人物のことを聞きた」
 ドンッ、と、右側にいた男がエイトの肩を押し返す。
 「この先は許しを得た者しか入れてはならぬと決められている」
 「この聖堂騎士団の刃にかかって命を落としたくなければ、早々に立ち去るが」
 左の男が構えながら物騒な言葉を発していると、窓が開かれる音がし、門番の注意が頭上にそれる。
 「入れるな、とは命じたが手荒な真似をしろとは言っていない」
 我が聖堂騎士団の評判を落とすな、と下を見ながら口にする男。ほかの団員がふたりがかりで抑えられた窓枠の間から現れると、そばにいる十字架のネックレスをつけている男たちがひざまずく。
 「こ、これはマルチェロ様。申し訳ございませんっ」
 態度を正反対にさせる団員。マルチェロと呼ばれた男は、左手を胸に持ってくると、
 「私の部下が乱暴を働いたようですまない。だが、よそ者は問題を起こしがちだ」
 この修道院を守る我々としては、見ず知らずの旅人をやすやすと通すわけにはゆかぬのだよ、と続く。
 同じ守る役についているエイトは、分からなくはない、と感じた。
 様づけされた男は指をならし、
 「この建物は修道士の宿舎。君達には無縁の場所ではないかね」
 旅人に行くようにうながし、聖堂騎士団は名称と異なり血の気が多い者が多いらしく、次はどうなるかわからないと釘もさされる。
 彼は中に姿を消し、内輪以外の人間を拒むように、窓を閉じた。
 「せーどーきしだん様はずいぶんお偉い方々みたいだわね。何よ、バカにしちゃって」
 こんな所すぐに出てくわよっ、彼らの服とは真逆の色を発しながら、行きましょっ、と体を回転させる。同じ心情だった男たちも、彼女に続いた。
 「さっきのお偉いさん。物腰こそ穏やかなものの油断ならねえ目をしてたでげす」
 「確かにね。鋭い目をしてた」
 ゼシカは馬車と合流するまで無言のままだった。
 「まだドルマゲスの手がかりはつかめぬのか」
 「申し訳ございません。近くに町にがありますので、そちらに向かいます」
 トロデはため息をはき、
 「わしがこのような姿でなければ、お前たちになど任せず王の威厳でバッチリ聞き込みするのじゃがな」
 もうひとつ息をはく。
 「無能な家臣を責めても仕方ない」
 うつむきがちになる兵士。仲間は先程の感情を今度はトロデに方向転換した。
 「おい、おっさんっ。兄貴のどこが無能だってんだ」
 「いくら何でもあんまりじゃないのっ」
 「無能な者を無能と言って何が悪いんじゃ」
 「この野郎てめえ」
 「エイトのせいじゃないじゃないっ」
 「やめろ、ふたりとも」
 気おくれした若い衆は、彼が初めて発した怒声に驚く。
 「王、申し訳ございません。修道院内でいろいろとございまして」
 「まあよいわ。それなりにがんばれよ、エイトよ」
 当事者は、は、と返した。
 マイエラから南にむかうと道がふた股にわかれており、右手にドニの町がある模様。看板を頼りに進むと、少し小高い場所に目指す場所があった。
 町に入ると、
 「さっきはごめん。かばってくれたのに」
 「兄貴が謝ることじゃないでがすよ」
 「それにしてもすごい傍若無人ね。本当に王様なのかしら」
 「王様だからでげすよ、きっと」
 「今の王はストレスがたまってるんだと思う。町に入れないし」
 ゼシカにはおいおい話すことにしたが、これから酒場にいくか休むかで意見を交わす。夜も更けているが、こんな時間だからこそ情報が得られるかもしれないので、もうひとふん張りすることにした。
 この周辺は以前、もう少し栄えていたらしい。領主がはやり病で亡くなってからは、この町しかなくなってしまったため、周辺のことは酒場に来ればわかるという。時間帯もあってか、騒がしさは外にいても感じるほど。
  店の扉を開けると、とある場所に視線が集まっていた。
 「ねえ、あの赤い服の男って聖堂騎士じゃないの」
 僧のクセにサイテーだわっ、とゼシカ。エイトが、まあまあ、と風を送っていると、ヤンガスが、何かを思いだしたようで、
 「若い兄ちゃんとカードをやってる荒くれ男。あいつは負けるとすぐケンカをふっかける奴でがす」
 彼はパルミドでは有名らしい。一緒にいる人間も、お世辞にもガラがよくない。
 頭から湯気をだしている雰囲気の大男に何かを疑っている連れの男たち。注意したほうがいいのかな、と、エイトは銀色の髪をした騎士に話しかけた。
 「おっと。今は真剣勝負の最中でね」
 後にしてくれないか、と右手を上げながら遮断する男。旅人からは、怪しい表情は見えない。
 「真剣勝負、だとぉ」
 震えるこぶしをテーブルに叩きつけ、いきりたつ相手。
 「このクサレ僧侶、てめえイカサマやりやがったなっ」
 信じがたい言葉に、疲れているのかと思ったエイト。その間、ヤンガスはギャンブルの帝王と呼ばれているらしい男の肩に手をおき、
 「まあまあ、あんたもそう興奮すんなよ」
 負けて悔しいのはわかるけどよ、となぐさめる。一方、赤い僧侶はワイングラスを片手に酒を楽しんでいた。
 「なんだとぉ。そうか、わかったぞ」
 ヤンガスに対するお礼は激しい突き飛ばし。後ろにあった食事をする台がひっくり返り、そのまま上半身の上に落ちてくる。
 「てめえら、コイツの仲間だなっ」
 のっかっていたものを放り投げ、青筋をたてながら乱暴者に近づくヤンガス。
 「いい加減にしやがれっ。妙な言いがかりをつけるとタダじゃおかね」
 バシャン、と水の音。
 「それはこっちのセリフよ。頭を冷やしなさいよ、この単細胞っ」
 いつの間にかバケツを持っていたゼシカ。後ろには、驚いて引いてしまっているリーダーと、つきとばしの件で目を大きくしていたがその後は気にせず酒を口に運んでいる銀の青年が。
 しかし、そんな我関せずの男もスッと立ちあがる。
 「兄貴に何しやがる」
 「女だからって承知しねえぞ」
 勝気な娘を囲む手下たち。止めようとはいろうとしたエイトや赤い騎士だが、彼らより早く木でできた円形の製品が連中を直撃した。
 投げ主は旅の仲間。斧を振り回す元山賊は、小太りの男を座らせた椅子を持ちあげている。
 「女ひとりにふたりがかりとは、格好が悪いんじゃあねえのかい」
 後ろにいた老人が口笛を飛ばす。親指をたてるあたり、雰囲気に慣れているのだろうか。
 「うるせぇ、よくも子分たちをやってくれたなっ」
 むかってきた荒くれ男に、手にしていたモノを投げつけ応戦。起きあがった部下はゼシカに体当たりを仕掛けるが、軽々とかわされる。
 手下はあっけなくダウンしたが、ヤンガスと親分は殴りあいのどんちゃん騒ぎに。酒瓶にトレイにタルに、いろいろなものに命を宿されていく。
 ちなみにエイトは、開いた口がふさがらず、呆然としてしまっていた。
 アホウ共に頭にきたらしいゼシカは、魔法をとなえ軽く丸焼きにする準備にかかる。だが、元凶の男に腕をひっぱられ、放心している人間と一緒に裏の勝手口へ。
 酒場の裏手にでたところ、ゼシカが男の手を払いのける。
 「あんたら何なんだ。ここらへんじゃ見かけない顔だが」
 「僕たちはある人物を探して旅をしてるんだ」
 「ふうん、まあいいや。とりあえずイカサマがバレずに済んだ。一応、礼を言っとくか」
 と、エイトと握手する。お礼を言うことなのか、とも思ったが、口は災いの元である。相手が怪しい笑みを浮かべながら右腕をあげると、カードが重力に従って落ちていく。
 「あんまりいいカモだったから、ついやりすぎちまった」
 何かに気づいたのか、一瞬顔を変え、建物のほうを見る青年。
 「おっと、グズグズしてたらあいつらに見つかっちまう」
 エイトの肩をたたきその場を去ろうとしたが、横目に入った女性が気になったらしく、足元から顔までゆっくりと視線をめぐらせる。
 「何か」
 「オレのせいでケガをさせてないか心配でね。大丈夫かい」
 「あいにく平気よ。じろじろ見ないでくれる」
 腰に手をあて、キッと前にいる人物さすゼシカ。男は手袋をはずし、身につけていた何かはずしながら、
 「助けてもらったお礼と今日の出会いの記念に」
 ゼシカの左手を握り、モノを持たせる。後ろから眺めていると、口説いているようにも映った。
 「オレの名前はククール、マイエラ修道院に住んでる」
 顔をイライラさせながら手をひっこめるゼシカ。背中をむけ、にらみつける。
 ククールと名乗った銀の僧侶は、気にもとめず気障な笑顔で、
 「その指輪を見せればオレに会える。会いに来てくれるよな」
 やたらと様になる口調で、またな、というと、
 「マイエラ修道院のククールだ、忘れないでくれよっ」
 そういい残し、束ねられた長い髪を揺らしながら走っていった。
 ククールの残したのは指輪だった。ゼシカが表情を変えないまま小物に視線を送っていると、ヤンガスの声が。
 「ここにいたんでげすか。ずいぶん探しましたでがす」
 ヤンガスが合流する途中、ゼシカは手にした装飾品をエイトにわたす。
 「あいつら、コテンパンにとっちめてやりましたでがす。へへへっ」
 そういやあトロデのおっさんもいたような気がしたでげすよ、と続く。エイトは騒ぎに便乗したんだよ、と返した。
 「いーい、エイト。そんな指輪受け取っちゃダメ」
 マイエラ修道院まで行ってあのケーハク男に叩き返してやるんだからっ、とゼシカ。
 「ゼシカの姉ちゃん、何をそんなに怒ってるんだ」
 ヤンガスの気質は先ほどの荒くれたちと少し似ているようで、もらえるものは根こそぎもらい、もらえないものは腕ずくでぶんどるそうだ。
 「これが男の道ってもんだ。ね、兄貴っ」
 「え、う、うーん」
 「私はああいう、なれなれしい男が大っ嫌いなの。エイト、ほら修道院に行くわよっ」
 「まったくわかんねえなあ。だから娘っ子は嫌なんだよ」
 娘じゃなくてもわからないんだけどな、とエイトは思ったが、ややこしくなりそうなので苦笑いですませた。
 思わぬ出来事で肝心なことが抜けてしまった一行。今戻るとやっかいになりそうなので、宿屋に行くことにする。
 夜が明けて酒場に戻ると、昨晩の騒ぎがウソのように静かになっていた。
 ここで得られたのは、ここを治めていた領主がひどい男だった、ククールは飲みにきている修道僧には嫌われているようだが女たちに人気だということ。
 また、2階に出稼ぎの商人がいたことぐらいだった。
 ドルマゲスの行方がつかめなかったが、指輪事件が起こったので、とりあえずマイエラにむかうことに。
 「そういえば昔、この辺りにごうつくばりで女好きの領主がおったのう」
 博打が原因で身を崩した領主が死んだとき、トロデは花を贈ったそう。
 「そんなことより、これからどうするのじゃ」
 「マイエラ修道院に戻ります。今なら修道院内に入れますので」
 うむ、とだけ口にし、馬車を動かす御者。
 「兄貴、どうして修道院内に入れるんでがすかい」
 「指輪だよ。これを口実に中に入れば、少しは調べられる」
 「さっすがは兄貴でがすっ」
 「ま、まあそういうことになるわね」
 見かけとは裏腹なしたたか発言に、つき返してやると言った本人が忘れてしまったようだ。
 わずかな可能性を頼りに、パーティーはマイエラ修道院にむけて動きだした。

 

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