東京異界録 第3章 第27録

 「素晴らしい。これが小娘の力なのか」
 姿なき声は、まさしくこの学校に通う女子生徒のもの。しかし雰囲気が普段と異なるばかりか、地面から姿を現したのだ。
 「この力があれば誰にも負けはしない。たとえ要(かなめ)であっても」
 天に高々に笑う少女は、もはや人外のようだった。
 気が晴れたのか、年頃の娘は校舎のある一点に視線を注ぐ。本来の場所は建物の影になっていたが、見られた側はすぐさま察知。
 保健室のカーテンを持ちながら、クサナギは、
 「やはり隠れようがないようですね」
 「ちっ、加阿羅(カーラ)の野郎、何してやがんだ」
 「戦うしかないんじゃないの」
 「無理ですよ。正面から挑んで勝てる相手ではありません」
 主力の二人も手負いですからね、とクサナギ。もっともなことを口にした雪祥(ゆきひろ)だったが、伽糸粋(カシス)のひと言で顔を青くする。
 それは、姉と戦えるのか、というものだった。
 「楓がのっとられたのよ。このまま戦うわけにもいかないわ」
 「ちょっと待て。ならどうする気なんだ」
 「あたしたちの中で楓を殺さず敵を討てるのは、加阿羅(カーラ)だけよ。待つしかないわ」
 「クソ、とりあえず時間稼ぎに出るしかねえな。ここじゃ生き埋めにされかねねえ」
 「そうですね。主人(マスター)、あなたはプリムと共に戻ってください」
 「ど、どうして。わたしも戦える」
 「我々の使命はあなたを守ることであり、楓さんをそうすることではないからですよ」
 「ならクゥちゃんも一緒に」
 「私は残ります。これも頼まれ事なので」
 口では勝てないとわかっているのか、明日香は口をへの字に変えて黙ってしまう。そこに、プリムは耳打ちをする。
 「じゃ、じゃあ、わたしも勝手に動くわ」
 「プ~リ~ム~」
 「あ~ら。そんなコワい顔をしたらイケメンが台無しよお」
 と、ウィンクしてみせる保護者その二。刻み込んた盟約を守るために動いている彼を、いとも簡単にあしらってしまった。
 「そろそろ自分で考え始められる歳なのよ。見守ってあげたらどう」
 主の背中を見ながら、クサナギはため息で返事をした。
 先方に合流したプリムたちは、彼らとにらみ合っている人物を疑う。仲間の妖怪が言っていた通りだったからだ。
 「おや、まだ足らないようじゃないか。もうひとりの坊やはどこに行ったんだい」
 「さっきからいってるでしょ、知らないわよ」
 「そうかい。待つのも飽きたし、あんたたちを先に頂くとしようか」
 いっせいに構える一同。各々の得意武器や構えを取り、出方を伺う。
 ペロッと舌を出しながら品定めをする見た目は楓。一番前にいる水色の少年を見るやいなや、凝視した。
 「この中で一番強いのはお前のようだね」
 「けっ、ちょっと力が増したからって調子こいてんじゃねえっ」
 一気に脚力を使って移動した加濡洲(カヌス)は、楓に対し殴りかかる。だが、彼女も読んでいたらしく、体を左側に回転。
 しかし、彼はさらに回り込み、楓を羽交い絞めにした。
 また、動けなくなった彼女に、今度は伽糸粋(カシス)が突撃。人間の前に錫杖(しゃくじょう)を、水平に構える。
 「せめて引きはがしてやるわっ」
 術をとなえると二人の周りに赤い光が集まりだす。すると今度は水色の光が合わさり、楓を包み込んだ。
 「ぐっ。こ、小癪なまねをっ」
 渦状になった紫色の霊子を弾き飛ばした楓は、同時に術者たちにも同様な仕打ちをする。二人が地面に叩きつけられるとほぼ同時に高速で移動しながら鎌を生成、最初の獲物の元へと向かう。
 だが、ハルバートを手にした涼太が割って入り、攻撃を防いだ。だが、楓の腕に重くのしかかる力は、彼女のひじを少し曲げただけだった。
 彼女は同級生に向かって術を放ち、違う方向へと吹き飛ばす。彼と入れ替わる形で、今度はクサナギのレイピアが動きを止めようとした。
 だが普段のキレがなく、涼太よりも少々長い時間の足止めしか出来ず、鎌によって左腕を負傷。相手の頭上には、剣の形と長細く鋭い光の筋が形成されており、同じタイミングで降り注がれる。
 しかし楓は上空に盾を創って防ぎ、捕まえようとしていた雪祥(ゆきひろ)に対して衝撃波を放つ。瞬時に体を切り替えられなかった弟は直撃を受け、後ろにいた女性たちを巻き込み、沈黙した。
 「ふん。いい準備運動になったわ」
 満足がいったようにつぶやくと、当初の標的の元へ歩いていく。目の前まで来ると、相変わらず不敵な笑みでいる加濡洲(カヌス)に、
 「さすがは加具那(カグナ)の子。態度は変わらないな」
 「必要ねえだろ。助かるんだからよ」
 まゆをひそめた楓は背後から何かの気配を察知。その場から跳躍してやり過ごすと、肉体年齢は十七歳の、和服姿をした加阿羅(カーラ)が立っていた。
 手に何も持っていないことから、何らかの術を発したのだろう。
 「ようやく来たか。危うく全滅するところだったよ」
 「単刀直入に言う。今すぐその子を解放しろ」
 「断る、と言ったら」
 「貴様が消えるだけだ。せっかくの力を失いたくはあるまい」
 「あっはっはっはっ、何をほざく。半端者の分際で、このアタシに勝てるわけないじゃないか」
 ましてやこの体と力だよ、と相手。風を受け入れるように両手を広げた彼女の元に、何かの力が集まっていく。
 「お前たちを消して加具那(カグナ)も吸収してやるよ。最弱とはいえ一応お前も要(かなめ)だ」
 そう言い放った楓は、さらに力を呼び寄せる。まるで竜巻のように束ねられた霊子は、彼女の姿を一瞬隠し、再びあらわにさせた。

 

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