東京異界録 第3章 第25録

 ケルベロスと呼ばれる地獄の門番と対決する覚悟を持った矢先、久我(くが)先生はもっと広い場所で戦おうと提案。確かに廊下で戦うには人数が多いだろう。
 それに、今はどうにかして危険を排除するのが先だ。また、理由は不明だが、同校の教師と先輩が味方になってくれるよう。まあ、生き残りたいのは皆一緒だ。
 「先生、広いところって校庭ですか」
 「いや、中庭にしよう。あっちからはケルベロスとは違う大きな力を感じる」
 最後尾にいる泉先輩と久我(くが)先生の話を盗み聞きしながら進路を決めていく。もちろん、彼らも聞こえるように話しているだろう。
 「楓嬢、人の話を聞きなさいって」
 「だって私のせいで巻き込んじゃったんだよ。放っておけないわよ」
 「彼らに任せればいいじゃないの。本人たちもああ言ってたんだから」
 あなたの身のほうが大事なのよ、とプリム。
 「何言ってんのよ。命の重さに優劣はないじゃない」
 「今はあるのよ。楓嬢が敵の手に落ちたら、この世界が滅亡するの。おわかりっ」
 「そんなわけないじゃない。たかがひとりの能力者の力で」
 はあ~っ、と、腹の底から息を吐き出す元敵。側で走っている明日香ちゃんは、息切れをしながらも話を聞いているが、私同様わかっていないらしい。
 「恨むわよぉ、加阿羅(カーラ)ちゃん。何でこんな面倒なことに」
 本当に知らないのね、と確認する彼女。眉をひそめると、肯定と受け取ったようだ。
 「残念だけどセツメーしてるヒマはないの。実力行使させてもらうわ」
 『そうは問屋が卸さないよ』
 ほんの数十センチ先にまたしてもマンホール状の穴が出現。スピードがついている今の状況では止まることができない。
 『あっはっはっ、早く地獄に来なさいな』
 甲高い笑い声に引っ張られるように、私の体は重力感を失っていった。
 ふ、と気づくと辺りは何も見えず、何も聞こえないところにいた。これがプラネタリウムの部屋で、いっせいに星座が見えればロマンチック、なんだけど。
 当然、そんなことはない。挙句の果てに、かすかだが遠くから何かのうめき声らしき音が耳を刺す始末だ。
 「ようこそ。待ってたわよ」
 聞き覚えのある声は形になり、目に見える姿になる。カヌス君に重傷を負わせた鎌女である。クスクスと勝ち誇ったように笑う女は、
 「他の坊やが何かしてて目障りだけど。構やしないわ」
 な、何を言ってるの、この人。他の坊やって。
 女は、ゆっくりと手を伸ばし、私の顔の前で、止める。
 「随分やってくれたけど、結局はアタシたちの勝ち。無駄なあがきはやめな」
 冗談じゃないわ、死にたくないっ。
 みぞおちに攻撃を加えようとするが、読まれていたらしく、右の手甲が相手の左手で抑えられる。
 「諦めなって。安心しなよ、ちゃんと言うこと聞くなら生かしてやるさ」
 どうだか。あの兄妹やカグナさん、シキにした怨鬼(おんき)たちはそうじゃないけど、その他の物の怪は信用できない。自分のためなら平気で嘘をついたり騙したりするからだ。
 もちろん、彼らも生き残ることに必死だからゆえのことらしいけど。言うなれば騙まし討ちなんて当たり前なのだ。
 人間には理解できないけど、そういうところなのだと割り切るしかないのが、妖怪世界でもあるという。
 女は私の考えを見破ったのか、クックック、と笑う。
 「まあ警戒するのが常だわね。普通の人間なら殺すことをいとわないが、お前は別だ」
 お前は拠り代だからねえ、と鎌女。校内で何度か耳にした単語だが、意味がわからない。
 一方的に話している相手は、少々機嫌を悪そうにすると、息を吐き出す。
 「本当に何も知らないようだね。お気の毒に」
 「どういうことよ」
 「お前は連中に信頼されてないって事さ。だから自分の力の意味を説明されなかった」
 「そ、そんなことっ」
 「おやおや。それじゃあ納得のいく答えをもらったのかい」
 「そ、それは。で、でも、もしそうなら七年間も戦いかたを教えてくれたりしないはず」
 「はん。そんな短時間で妖怪を仕留められるようになるものか。せいぜいちょびっとだけ身を守ることが出来るぐらいだろ」
 つまりアタシ程の妖怪にはまったく通用しないんだよ、と言われる。
 た、確かに、プリムには何とか勝てたけど、クサナギにはまったく及ばなかった。この女は、少なくともカヌス君と同等以上なはず。最初に対峙したときも、彼がいたから切り抜けられただけだ。
 「そうがっかりしなくてもいいじゃないか。ちゃあんと言う事を聞くなら、これからはアタシが守ってやるさ」
 それはどういう、と聞きかけたところ、いきなり首を絞められる。
 「お前の力がどの程度のものなのか、ちゃんと確認しないとねえ」
 一度調べさせてもらうよ、と女。抵抗しようにも、体がショックを受けてしまい、身動きが取れないでいた。
 前に敵がいるのに手も足も出ないなんて。
 悔しさと同時に、世話焼きで何かとやかましい弟に普通の同級生、この世界に引き込んだ張本人二人とその妹の顔。そして赤髪のオールバックで同い年の他校生に最近出来た年下の女友だち、また、彼女についているちょっとクセのある妖怪たち、親にレオンに鳴兄たちなど。
 浮かんでは消えていく彼ら。一番身近だった人たちは、私のことをどう思っていたのだろう。
 特に、異界に存在する人たちは、どう、感じて、いたんだろう。
 次第に意識が薄れていくと、手を伸ばしても遠くに離れていった。
 最後には周りと同化してしまい、やがて何も考えられず、感覚もなくなっていった。

 

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