東京異界録 第1章 第6録

 店に着いた私たちは、CLOSEと書かれた喫茶店の扉を遠慮なく開ける。店は中から漂っている仕込みの香りで歓迎してくれた。
 店内には、先に到着していた人たちがおり、来客を知らせる鈴の音で振り返る。
 「お帰り、ねーちゃん。遅かったじゃん」
 「ちょっと問題がね」
 「大丈夫だった? 加濡洲から聞いたわ」
 「カシスちゃん、どーゆーこと」
 私より二つ下の、学ランを着ている雪祥(ゆきひろ)が、隣に座っている三つ編みのセーラー服の子に尋ねる。
 ちなみに雪祥、ユキって呼んでいるんだけど、私の弟なの。
 「訳のわからない連中に襲われたって聞いたのよ」
 「でっ。ねーちゃん、大丈夫なのっ」
 「大丈夫よ。大したことのない怨鬼だったから」
 今、調べてもらってるし、と私。動きだけ見れば本当にそうしているのかわからないカヌス君は、はあ、とため息をつきながら座る。
 「ったく、ムダな体力使ったぜ」
 「ま~、ま~。無事だったんだからいいじゃ~ん」
 ジジ、ご飯、と、笑いながらカウンターにいうカーラ君。
 ちょっとあんた、お昼にあんだけ食べたじゃないのよ。
 「はいはい、あるよ。んで、どうだった。久しぶりの学校は」
 数百年ぶりだっけ、と、ジジと呼ばれた赤髪で二十代ぐらいの兄ちゃんは、さらっと耳を疑う単語を口にしながら、大盛りカレーを差しだす。こちらの食欲も刺激される香りだ。
 私とカヌス君には、それぞれ小盛りと普通盛りのカレーが前に置かれ、手を拭いていただくことに。
 「昔と雰囲気が変わったような気がする~」
 「ほお、伽糸粋と同じことを言うな」
 「教育が変わったからじゃねえの。オレは今のほうが自由で好きだぜ」
 厨房から甘い匂いが漂ってくる中、普通の会話のようでそうじゃない話が続く。
 そうそう、カシスちゃんはカヌス君の妹に当たるらしいの。一番しっかりしているから、お姉さんっぽいんだけど。
 彼女たち妖怪兄妹は、長い時間を生きており、カーラ君は四〇〇〇歳、カヌス君は三九五十歳、カシスちゃんは三九〇〇歳ぐらいなんだって。正直、意味不明なんだけどね。彼らからすれば、対して離れてないらしくて、だから三つ子扱いになってるのよ。
 ちなみに赤髪の兄ちゃん、カグナさんっていうんだけど、立場上彼らのおじいちゃんらしいの。ま、見た目はいくらでも変えることができるから、アテにならないんだけど。
 ちなみに歳は忘れちゃったみたい。それだけ生きているってことよね、きっと。
 「それで、収穫はあったのか」
 「特に今のところねえよ。いたって校内も普通だった」
 強いていうなら、とカヌス君。口にカレーを運び、胃袋にはいると、
 「妙な気配がいくつか残ってたぜ」
 「気配って。私はわからなかったけど」
 「う~ん、そっちじゃなくて、君たち人間のほうだよ~」
 「どういうことよ」
 カーラ君いわく、どうやら私以外にもこちら側に近い人間がいるらしいとのこと。つまり、妖怪たちが見えて関わることができる人がいるらしい。
 こういう人たちを、能力者、といったら大げさだけど、わかりやすいからこう呼んでいるんだけど、ね。
 「それはあたしも感じたわ。全体の数人ぐらいだと思うけど」
 「パッと感じたところだろ。ユキのところにもいるなら厄介だな」
 「でも、どうして能力者がいきなり出てくるわけ」
 「いや、能力者自体は昔からいるんだぜ。お前が特別強いだけでよ」
 「そういう家系は生きてはいるからね~。校内にいても問題ないと思ってたけど。数が多くてね~」
 「戦力になるのかよ。ならないならいらねえって」
 「そうじゃないでしょ。あたしたちのことがバレたら面倒じゃない」
 結界使ってるのがバレたらどうすんのよ、とカシスちゃん。もっと言ってやって。やっちゃって。
 だがストップがかかり、それはお前たちが配慮するところだ、とカグナさん。ユキの前に三段重ねのホットケーキが置きながら話し、相変わらず器用なおじいさんだ、と感心してしまう。見た目若いけど。
 「成程な。特に何かが動いているわけでもないってことか」
 「そういうこった。ジジ、そっちはどうよ」
 「こちらの世界も特にないな。若干、怨鬼共が騒がしいぐらいだ」
 物の怪たちだけがいるといわれている世界。行ったことはないけど、私たちが住むところより、はるかに危険なんだと聞いた。まあ、考えてみれば、あんなのがウヨウヨいる世界だもの、命がいくつあっても足らないわね。
 しかも、私たちが住んでる世界と表裏一体の関係らしいのよ。
 「これからどうするの。今まで通りにいく」
 「そうだな、様子見しかねえし。伽糸粋、ユキを頼んだぜ」
 「任せておいて」
 「女の子に守られるのは、ちょっとなあ」
 「人間同士の喧嘩とは違うんだって、あんた」
 「それ、ねーちゃんに言われたくない」
 ふてくされながら、おやつをほおばる弟。まあ、心配してくれているのはわかる。
 「中には小賢しいのもいるからね~。伽糸粋、何かわかったら連絡して~」
 「了解。そっちもね」
 「今後の流れは決まったな。俺にも随時報告するように」
 カグナさんがそういうと、以降は自由時間に。さて、何しようかしら。
 「ねーちゃん、鍵持ってない。鳴ちゃんが家にいなくてさ」
 忘れちゃったんだよね、オレ、とユキ。寝坊するからよ、っとに。
 私も荷物をおきたいので、いったん家に帰ることにした。

 

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