東京異界録 第3章 第20録

 「よっしゃあ、成功っ」
 「上手くいったな」
 「涼ちん、ゴクローサマッ」
 「お前、それはな」
 どっと疲れが出てしまった涼太。それは目下に対して使う言葉だ、と口にしたかったのだが、悪気のない笑みは、きっと知らないのだろうと考える。
 後で教えてやろうと胸にしまい込んだ上級生は、今は敵を倒すことに集中する。防壁がなくなったことで、本体を攻撃しやすくなったからだ。
 「また生えてくるってコトないよね」
 「どうだかな。伽糸粋(カシス)に聞いてみろ」
 「なんで」
 「反流(はんる)が使えるからだ。あの術は、情報集めに適してる」
 少々疑問に思ったことがあったが、雪祥(ゆきひろ)はあえて追求しない。彼と同じく、相手を消すことのほうが重要と考えているからだ。
 すると、長身の生徒の隣に、本人がやってくる。会話を聞いていたのだろうか、彼女は攻撃への障害は後ふたつだと述べた。
 「ひとつは蜂の攻撃力を上げている存在。もうひとつは子供に力を与えてるものよ」
 「道理であれだけ連発できるわけだ」
 「涼太君、大丈夫」
 「わからん。定期的じゃないんだ」
 「え、涼ちん。どしたの」
 よく見ると、涼太は胸元を押さえており、少し前かがみになっているではないか。
 雪祥(ゆきひろ)の脳裏に、あることが浮かぶ。
 「ま、まさか呪いが」
 「かもな。くそ、タイミング悪い」
 呪いの周期はパターン化しておらず、いつ起こるのか不明なのだという。
 共通していることは、体の激痛と急激な霊力低下とのこと。片方、あるいは両方起こることもあるらしい。
 「無理しないでいいわ。あたしに任せて」
 と、敵の妖怪を見る伽糸粋(カシス)。こちらが話している間に、視界一杯に覆えるほどの蜂を呼び出していた。
 思わず身をたじろがせる雪祥(ゆきひろ)に対し、伽糸粋(カシス)は自らの霊力を上げる。隣で雰囲気が変わっていく感じがした雪祥(ゆきひろ)は、そちらに顔を向けた。
 しかし、そこにいたのは普段仲良くしている妖怪ではなかった。姿かたちは似ているが、頭に何かの耳があったのだ。
 伽糸粋(カシス)らしき物の怪は、目を開けると、普段とは違う目の色と目つきをし、かつ、同じ姿が隣にすーっと現れる。ひとりは雪祥(ゆきひろ)の隣に、もうひとりは涼太の側に座り込む。
 「ええ、えっと、カシス、ちゃんだよね」
 「ええ、両方ともあたしよ。分身したの」
 後で説明するわ、と彼女。服の後ろには触ったら気持ちよさそうな、ふっくらとしたしっぽがある。
 少々違う思考にいきかけた雪祥(ゆきひろ)だが、すぐに現実を目の前にすると、脇差を構える。横目で相棒を見ると、既にひざを地面につけていた。
 「カシスちゃん、涼ちん頼んでいいよね」
 「もちろんよ。あなたのサポートもするわ」
 やっぱそっか、と雪祥(ゆきひろ)。こんな状況で無意味なことなどしないはず。後は彼女から教えてもらった力の源を破壊できればよいのだ。
 「どっちが攻略しやすいかな」
 「そうね。雪祥(ゆきひろ)君はあの子の持ってる杖をお願いできるかしら」
 眉をひそめた少年は、どこにそんなものがあるのかと目を光らせる。しかし、手の辺りを探ってもツの字も見当たらない。
 「術と服で隠してるのよ。背中側にあるわ」
 「わかった。じゃあ、もうひとつは頼んだよ」
 「任せて」
 本来なら女の子を戦わせたくない雪祥(ゆきひろ)だが、それは固執した信念であって、少なくとも妖怪世界ではまったく通用しない。正義や正しさというのは、その時その場所で変わってしまうものだと、彼は聞いた。
 プリムとの戦いの後、加阿羅(カーラ)に諭された少年は、以降、自分なりに考えて出した答えに従っているようだ。
 炎が辺りを包むと、不思議とここにいる人間にとっては熱くない熱気が確実に邪魔者だけをとらえていく。
 その中を突っ切っていく雪祥(ゆきひろ)は、助言を頭の中で繰り返しながら早急に子供へと近づいていく。
 「くっ、このっ」
 本人は右側から武器を呼び出そうとする。しかし当然勢いのついているほうが早く、右腕に切り傷をプレゼントされる。
 ふたつの防壁を失った子供の左腕を取った雪祥(ゆきひろ)は、体をそのまま地面にはわせ、脇差で、首元をついた。
 「もってる獲物、全部だしな」
 「放せこの、人間のクセにっ」
 ボクに触るなぁぁぁっ、と絶叫する子供。舌打ちした雪祥(ゆきひろ)は、とっさに現れた羽から逃れるべく子供を解放。自身は距離をとり、何が起きたのかを観察。
 見ると、子供の背中から蜂の羽が生えていたのである。しかも、長さが体長の数倍はありそうなほどだった。
 さらに、羽根から黒々しい霊力が集まりすぐに解き放たれると、蜂が大量に召喚されたではないか。
 視覚化された霊力は、持っていない雪祥(ゆきひろ)ですら悪寒を感じるほど。
 こいつの正体、もしかして。
 何となく察し伽糸粋(カシス)たちに伝えようにも、彼は蜂の霧に包まれ、身動きが取れなくなってしまう。
 「あっはっはっ、もしかして感づいちゃったかな。ま、いっかっ」
 どうせ死ぬんだからさっ、とヒステリックに笑いながら言う子供。呼び出した下僕たちに命令を与えようとした矢先、雪祥(ゆきひろ)の体が強烈な光を放つ。微量は愚か、霊力をまったく保有していない者に出来る芸当ではない。
 眩しさに負けた蜂たちは、跡形もなく消え去っていた。
 「な、いったい何が起こったんだっ」
 蜂の巣にならずにすんだ当の本人ですら、放心状態になっていた。

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