東京異界録 第2章 第7録

 暗雲に囲まれたような雰囲気の中、どう切り出せばよいのかわかりかねている私。話のスケールが大きくなりすぎて、何て答えればよいのか、検討がつかないのだ。
 だって、いきなり死ぬ呪いをかけられてるって言われたら、ね。
 「心配しなくてもお前たちに移りはしない」
 シャツを直しながら、淡々と話す須藤君。ネクタイはしなかったが、首元は整えた。
 「うーん、笑えない冗談は好きじゃないんだけどな~」
 「冗談でこんなことを言うか。大して仲良くもないのに」
 「そりゃそーなんだけど。話がでかすぎるって」
 責任取れないんだけど、と、ユキ。そのとおりだ、軽はずみな返事なんて、できるはずがない。
 はっ、とした表情になった相手は、すまない、と口にすると、
 「あくまで手がかりが欲しいだけだ。そう深刻に考えなくてもいい」
 「命が関わってるのに深刻になるななんて無理よっ」
 「じゃあどうしろと? 慌てたって解決策なんか出てこないだろ」
 思わず机を叩いて立ち上がる私に、当の本人はいたって冷静な対応をする。まるで、他人事みたいに。
 「ねーちゃん、落ち着きなって」
 「あんた、どうしてそんなに落ち着いてられんのよ」
 「落ち着いて考えないといけない問題なんじゃないの。だから」
 二つも下の子にいさめられる。確かに、弟の言うとおりだ。
 私は静かに座り、ジュースを飲んだ。
 「悪いな、巻き込んで。もう時間がないから手段を選んでいられないんだ」
 彼は言う。
 幼い頃、何者かによってかけられた呪いで死に近づいていることを。そして、最期の時期は、おそらく数年でやってくること。
 また、本来なら死んでもおかしくない状態だが、怨鬼や怨霊を生命力に換えて生きながらえていることを。
 「なるほど、ね。事情はわかった」
 下を向いて再び黙る須藤君。本当に、何て声をかけてあげれば、いいんだろう。相手は、同じ年頃の、男の子なのに。
 隣でユキが何か話してるようだけど、全然耳に入ってこない。
 ふと、メニューが目に飛び込んできた。
 「ケーキでも頼んだら。頭使いそうだし、糖分補給しよーよ」
 普段より力のない笑み。こういうしんみりとした空気が一番嫌いだからだろう。
 気分を紛らわすため、私たちはデザートを注文をする。届いた後はゆっくりと口に運び、心を静かにさせると、
 「わ、私たちにできることってあるの」
 「この呪いのことで何か知っていたら教えて欲しいんだが」
 「ご、ごめん。私、何も知らない」
 「オレも。何か調べる方法を考えなきゃね」
 調べる方法、とオウム返しに聞く須藤君。意外な表情をしている辺り、耳を疑ったのだろうか。
 「オレたち自身には手がかりはないけど、知ってそうな友達がいるから」
 なるほどね、カーラ君たちに聞けば何かわかるかもしれないってことか。
 相手も誰のことを言っているのか察したらしく、悪いが頼む、と話す。
 「そんかわし、もうケンカ売んないでよね」
 「当然だ。必要ないしな」
 「だって、ねーちゃん。よかったね」
 「え、あ、うん」
 いけない、少しぼんやりしてしまってたみたい。あの文様を見てから、どうもぼーっとするのよね。
 苗字を呼ばれると、目の前には大きな手の平が。右手から発せられる淡い光は、数秒間だけ、存在感をあらわにする。
 手が下ろされると、須藤君と目が合った。
 「気分はどうだ」
 「え。う、うーん。さっきよりはいい、のかな」
 あんまりわからない、と伝えると、そうか、とだけ返ってくる。呪いのジュリョクに同調したのかもな、とか言っているけれど。
 「あまり考えるな。お前は相手に霊力を渡してしまうみたいだぞ」
 「へ、何それ」
 「俺が聞いてるんだが」
 おいおい、という顔になる彼。そういえば、戦いかたとかは教えてもらってるけど、私自身の力については何も聞いていないことに気づく。
 私の力って、いったい、何なのだろう。
 他校の同級生は、ほおづえをつくと、お前は何が得意なんだ、と話し始める。
 「術とか武器とか、それぐらいは身についてるんだろ」
 「わ、わからない。属性はわかるんだけど」
 「本気で言ってるのか。それだけの霊力を持ってるんだ、術のタイプぐらい」
 私は首を横に振る。確かに今までレイリョクが強いって言われ続けてはいる。でも、それが何を意味しているのかまでは考えてもみなかった。
 ただ、お前のためだ、としか言われてなかったのだ。
 力を強めて、どうするというのだろう。
 「そういう涼ちんはどうなの」
 「りょうち、って。俺のことか」
 「あんた以外、誰がいんの」
 「お前な」
 「いいじゃん。涼ちんは見た目がデカくて怖いんだから、ちょっとぐらいかわいらしく呼ばれたほーがいいって」
 「余計なお世話だ」
 「あ~、ごめんね、須藤君。ユキはあだ名つけるのが好きなのよ」
 「勝手につけるな」
 「んな細かいコトいって。オレと涼ちんの仲じゃんっ」
 「俺は年上なんだぞ」
 いえ、カーラ君たちですらフツーにちゃん付けで呼んでる奴なので。
 「昔から人懐っこいのよ。何言っても無駄だと思うわよ」
 そういう問題か、と彼。ニコニコしている弟を見るなり、ため息をついたのだった。

 

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