東京異界録 第2章 第18録

 「事情、ね。どうしてそう思う」
 と、カーラ君。神無月が本当に戦いを望んでいるのか疑問だということを伝えての回答だった。
 「カンとしか言いようがないんだけど」
 少し、間をおいて、私なりに話してみることに。
 ひとつは、ここにいるみんなのサポートがあったとはいえ、本当に殺そうとしていたのなら、もっと早くやってくることができたのではないか、という点。
 もうひとつは、女の子についていたアザ。首筋につくなんて、よほどの事がない限り第三者でないとつけられない場所だと思ったのだ。
 「無理にお前を殺そうしたってことかよ」
 「そこまではわからない。プリムのことで話ができなかったし」
 「そのプリムを倒したんだぞ。どう転んでも襲ってくるんじゃないのか」
 そ、そうね。でも、何かが引っかかって仕方がないのよ。
 私は首をかしげ、違和感の正体を探ろうとする。
 「加濡洲(カヌス)、クサナギの実力ってどうだったかしら」
 「実力? 戦闘能力のことか」
 ええ、と、カシスちゃん。ひとつ上の兄は、あごに手をやると、視線を左上にそらす。数秒後、目を見開くと、
 「そういやあおかしいな。ナマってるわけでもねえだろうし」
 創り主は言う。兄妹たちにこそ及ばないが、ここにいる人間たちでも苦戦しない、と。つまり、いつでも私たちの命を奪える、ってことだろう。
 「あんたたちの正体に気づいたから、慎重になったんじゃないのか」
 「それはねえな。オレたちはお前らが戦ってるとき姿を消してるし、あの時は加阿羅(カーラ)と伽糸粋(カーラ)も念のために、完璧な人間に化けてもいたしな」
 ということは、向こうはカヌス君が姿を現すまで、要(かなめ)候補たちが私たちのそばにいるってことを知らなかったってことよね。
 「その話が本当なら、どうして俺たちは生きてるんだ」
 き、如月君。そんな物騒な言いかたしないでよ。
 「それが楓ちゃんが感じとった違和感の正体かもしれないな」
 成程、と長男。何かを思いついたのか、囲炉裏をじっと見つめている。
 「とりあえず、神無月のことはまた対策をねって。次は睦月と弥生について話すわね」
 袋小路になった話を切り上げ、他の十二月(じゅうにげつ)に移る。
 カシスちゃんが言うには、この二人は昔から常に一緒に動くことが多いという。家柄同士のつながりも強く、タイプも似ているのだとか。
 「現代ではわからないけど、おそらく関係性は変わってないと思うわ。得意なのは相手を惑わすこと」
 それぞれの二つ名が、眩惑の睦月と幻影の弥生で通っており、ジュツを中心とした攻撃が得意らしい。
 また、何より恐ろしいのは、本人たちが従えているだろう取り巻きとの連携だという。
 本人たちの攻撃力は大したことなくても、こちらの攻撃を無効化させ、一方的にやられる可能性があるとか。
 ということは、単純な殴りあいとはまったく違うってことだ。
 「お前らも幻術に慣れねえとキツいぜ。何せ五感を奪うからな」
 「そんな人とどう戦うのよ」
 「カンでやるしかねえだろ」
 そ、そんな当たり前のように言われても。
 「まあ、現代人には難しいだろうね」
 ちゃんと訓練するから、とカーラ君。何で現代人には難しいのかしら。昔の人なら大丈夫だったのかな。
 「んーまっ、能書きはこんなモンでいいだろ」
 ゴロンッ、と緊張感なく後ろに倒れるカヌス君。すぐに体を起こすと、座布団を丸めてあごの下におき、うつぶせになる。
 「ちょっと加濡洲(カヌス)」
 「いいじゃねえかよ。ここで話したってドーコーなる問題じゃねえし」
 ま、まあ、確かに。
 隣にいる妹さんは、呆れてしまっているよう。たぶん、真剣な話をしているにも関わらず、ゴロゴロしているからだろう。
 彼女の反対側にいるお兄さんに関しても、指でほおをかいてしまっている。
 「これはともかく。今はこちら側の力を蓄えることに専念して欲しい。後々のことを考えてね」
 後のこと、というのは、おそらくこれから現れる本来の要のたちのことだと思う。そんな強敵が現れるってのにこの人はっ。
 「あのな、マジメに考えてもわかんねえモンはわかんねえの。できる事からやってけばいいだろ」
 「道理だな。逃れようがないんだ、やれることをやるしかない」
 「さっすが涼太、詰め込みだけじゃねえよなっ」
 何だかうれしそうに話しているカヌス君。お前ももっと気楽に構えろよ、と口にするが、そういう気分ではとてもない。
 「ここまでだらける必要はないけど、肩の力は抜いたほうがいいわよ」
 「そうね、そうする」
 どういうわけかため息が出てしまう。察していただけるとありがたい。
 「雪祥(ゆきひろ)君にはおれが話しておくから。明日には家に戻れると思う」
 「悪いわね。ユキを頼むわ」
 「ああ。君たちはゆっくり休んで、次に備えてくれ」
 「わかった」
 同級生が返事をしている間、私はユキのそばに行き、寝顔を見る。思ったより顔色もよく、ちょっと具合が悪いぐらいのような感じだ。
 何気に体力のある弟のこと、きっと明日にはもっと元気な姿になっているだろう。
 私と如月君はそれぞれの自宅に戻り、明日以降に向けて休むことにした。

 

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