東京異界録 第2章 第11録

 突然現れた、フリフリの服を着ている女性。歳は二十歳前後、かわいくてスタイルもよく、まるで人形みたいな人だった。
 雰囲気を除けば、ね。
 「あら、どうしたの。一緒に遊びましょうよ」
 「そーはいっても、おねーさん。何して遊ぶ気」
 「あらあら。こんな時間帯にここにいるんだから、ひとつじゃない」
 にっこりと微笑む美女。一方、ユキは不敵さと引きつりが混ざったような表情をする。奥にいる如月君は、何かをつぶやいているよう。
 私は相手をよく見る。いや、見なくても怪しいのはわかっているけれど、どれだけの力を持っているのかが知りたかったのだ。
 でも、私の眼力ではよくわからない。ただ、相手は人間じゃないってことだけはすぐにわかった。
 全員が動かないでいる中、風だけが、ヒュウ、と吹いていく。
 「じれったいわねえ。レディの扱い方も知らないのかしら」
 「物の怪の敵にそんなもの関係ないだろ」
 そう言う如月君は、私たちに何らかの術をかける。すると、手に何かを持った状態で相手に殴りかかった。
 しかしそれは難なくかわされ、彼女は楽しそうに笑っている。
 「わかりやすくていいわね、好みよ」
 「そんな余裕をかましていられるかな」
 怪しく笑ったのは攻撃したものも同じだった。女性は表情を変えると吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。よく見ると、左手が相手のほうに向けられていた。
 「ちょ、ちょっと、りょ」
 「相手は妖怪クラスだ。油断すると死ぬぞ、本気で戦え」
 姿に惑わされるな、と彼。女子供には決して手を出さない主義の弟は、顔をゆがませてしまっている。
 その間、十二月(じゅうにげつ)の攻撃は続き、女性は防戦一方だった。だが、その動きに、妙な感覚に襲われる。
 「こらユキ、如月君ひとりに戦わせるわけいかないでしょうが」
 「そんなこといったって。相手は女の人じゃん」
 「わかった、わかったから。あんたはそこで見てなさい」
 気持ちはわからなくはないが、彼だけに戦わせるわけにもいかない。迷っている弟を置いて、私は相手の背後から攻撃を仕掛けた。
 爪攻撃を後ろで飛んでかわすと、より口元の笑みが深まる。
 「如月君、この人何だか動きが変よ」
 「お前も気づいたか。おそらく何かの陣を張ろうとしてるんだろ」
 ジン、と繰り返す私に対して、ジュツのひとつだ、と短く伝える。それから走り出したことから、完成させないようにしているのだろう。
 ジュツにも色々あって、味方の能力を上げるものや下げるものもあるそうだ。さっき彼が使ったのは、おそらく前者のもの。体が軽く感じることから、その辺りはすぐにわかる。
 だが、二人がかりで攻撃しているにもかかわらず、ひらりひらりと身軽に動く女性。まるで木の葉と格闘しているような感じだ。
 「な、何なの。全然当たらないんだけど」
 「いや、俺のは何発か当たってる」
 「嘘でしょ、応えてないじゃない」
 「俺が聞きたい。妖怪でも少しはダメージを与えられるはずなんだが」
 カーラ君と同じぐらいの身長で、しかも筋肉質の男のパンチが効かない人、いや、妖怪なんているのだろうか。いくら人外とはいえ、多少は痛がってもよいと思うんだけど。
 「不思議かしら。ふふ、でも、ヒ、ミ、ツ」
 こちらの心理を読んだのか、相手はウィンクしながら話す。
 うう、馬鹿にされてるみたい。腹立つわね。
 物理攻撃が効かないのなら、ジュツでやるしかないのかしらね。
 渡した小声で、
 「如月君って、ジュツ攻撃できたっけ」
 「出来なくはないが。お前のほうがいいと思うぞ」
 「私、かなり時間かかっちゃうのよ」
 「わかった、なら俺がやる」
 「悪いわね、こっちで引き受けるから」
 「無茶はするなよ」
 「了解っ」
 時間を稼がなくちゃ。ジュツを唱えるには必要だもの。
 私はさっきと同じように、だが、相手の視覚に入りやすいように動く。わざと真正面からいって攻撃したり、距離をあけさせないように追いかけたりしていく。そして、同級生が言っていたように、爪で攻撃して当てられても、確かに手応えがないのである。
 どうしよう。カーラ君たちなら、どうするのかな。
 大地からレイリョクを感じたので、私はとっさにその場から逃げ出す。女性は不思議に思ったのか、首を傾げる。
 だが次の瞬間、突然隆起した地面に飲みこまれ、姿が見えなくなった。
 私は如月君の元に戻ると、
 「早いわね、さすがだわ」
 「楽観しないほうがいい。あの程度でくたばるわけがない」
 「そんなことないでしょ、だって」
 ドゴンッ、と何かが砕ける音。疑いの眼差しを送ると、放った本人が口にしたとおり、大して効果がないようだ。
 「中々やるわねぇ。お姉さん、うれしいわ」
 服をはたきながら口を動かす物の怪。お気に入りの服なのか、全体的にはたき落とした。
 「それじゃあ、今度はこっちの番ねっ」
 投げキスすると、とたん空間が重苦しくなる。立っていられない重さが体にかかり、私はひざを折ってしまう。
 「大変でしょ。ここでは人間は動けなくなっちゃうのよ」
 確かに、隣にいる如月君も、後ろにいるユキも同じように座りこんでしまっている。
 女は、ゆっくりと、そしてわざと足音を大きくして近づいてきた。

 

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