真剣なまなざしで、見ず知らずのトロデたちを見つめる少女。呼吸を整えたあとに、
「実は、あなた方にお願いがしたいことがありまして参りました」
と伝えた。
ヤンガスとトロデは顔を見合わせたあと、まばたきをし、少女に向き直る。
「お嬢さん、このわしを見ても怖くないのかね」
彼女は目を閉じ、夢を見ましたと、話しだす。
「人でも魔物でもない者が、やがてこの待ちを訪れる。その者がそなたの願いをかなえるであろう、と」
にこやかに語り終えた少女。瞬間、ヤンガスは腹を抱えて笑いだした。
「人でも魔物でもない、それはわしのことかっ」
頭上に岩が落ちてきたような感覚になったトロデは、声をあげてしまう。
連れている馬姫もおかしかったのか、首を下げて頭をふっていて、エイトは視線を空に預け、口元を押さえていた。
少女は悪気はなかったようで、すぐに謝る。彼女に対してのいらだちは、隣にいるヤンガスへとむけられた。
鼻をほじりながら視線を同じ方面へと送る彼。トロデは気持ちを切りかえ、
「まあよいわ。見ればわが娘と同じ様な年頃。そなた、わしらを夢に見たと申したな。よくわからぬ話じゃが」
「あ、そうですよね」
少女はいったん言葉を切り、考えこむ。
「ここでお話しするのもなんですから、私の家に来てくれませんか。詳しい話はそこで」
「ふむ」
「あ、申し遅れました。私は占い師ルイネロの娘、ユリマです」
ユリマは門に体を半回転させ、
「町の奥にある、井戸の前が私の家です。待ってますから、きっと来てくださいねっ」
と笑顔で走り去っていった。
背中を見ていたヤンガスは、腰に手をあて、
「何でげすかい、あの娘っこは。井戸の前が私の家ってった」
「えらいっ」
両手を広げ天を仰いでいたトロデは、突然大声で口にする。
「このわしを見ても怖がらぬとは、さすがミーティアと同じ年頃の娘じゃっ」
ここはひとつ、あの娘のためにひと肌脱いでやろうではないか、と続く。彼の声に驚いたヤンガスはあっけに、エイトはやれやれ、と思った。
トロデはエイトに、よし、といい、
「あの娘の家の位置は聞いたであろう。お前が行って話を聞いて参れ」
「かしこまりました。王はいかがなさいますか」
「む、わしはここで姫と待っておるよ。また騒がれても厄介でな」
と、背中に影を連れて馬姫のもとへ歩いていく。
息を吐きだしたエイトは、ヤンガスに行こうと伝え、トラペッタへ戻っていった。
門の左手にある階段を上り、入り組んだ道を北の方角にいくと、いわれた井戸を見つける。
「何か怪しいでがすね。あとで調べてみやしょう」
袋や家のタンスは格好でげす、と歯を浮かべるヤンガス。エイトが彼の名前を呼ぶと、アッシは足を洗ったでがすよ、ついクセでっ、と両方の手のひらをを顔の前でふってみせた。
夜なのにも関わらず回るドアノブを静かにまわし、家の中へはいるふたり。一階は紫色のじゅうたんが敷かれており、中央には二段丸テーブル、上にあるテーブルの真ん中に人の頭ほどの、占い師が使う道具らしき球体が置かれていた。
玄関と逆の位置にある椅子に座りながら、ユリマはテーブルに顔をしずめている。
「あの、ユリマ」
エイトは申し訳なさそうに彼女の肩を軽くたたく。エイトたちの顔を確認するなり、慌てて、
「あ、本当に来てくれたんですねっ」
私ったらうたた寝なんかしてて、ごめんなさい、と立ちあがり服をはたいた。会ったころと同じように、胸の前で手を組むと、
「実は頼みというのはこの水晶玉のことなんです」
きょとん、としてしまうエイトとヤンガス。顔を見合わせ、
「水晶玉がどうかしたの」
「あ、話が急すぎましたね」
ユリマは水晶玉について話しだした。
父であるルイネロは、かなり有名な占い師だったようで、どんな人や品物をわからないことはなかったという。
だが、その高名な占いはあるときからまったく当たらなくなってしまったらしい。
「たぶん、ここにある水晶玉がただのガラス玉に」
「ユリマッ」
低い男の声。入り口には酒場であったアフロ頭の酔っ払いが立っていた。
「何を話しているんだ」
その水晶玉に触るなと何度も、といいながら近寄ってくる。数歩歩いたところで、エイトたちの存在に気づいた。
「あんたたちは確か、酒場で会った」
まあともかくだ、とルイネロは、
「わしは別に困っていない。娘に何を頼まれたかは知らんが、余計なお世話だ」
二階へと続く階段に行きながら、
「わしはもう寝る。ユリマ、客人には早々にお引きとり願うんだぞ」
と、意外としっかりした足取りで歩いていく。足音が聞こえなくなると、娘が謝罪し、頭をさげる。
「あんなこと言ってますが、当たらなくなって一番悩んでいるのは父本人だと思います」
泣きだしそうな表情をし、祈るように、
「お願いです。父の本来の力が発揮できるほどの水晶玉を見つけてきてくれませんか」
再び顔を合わせるエイトたち。
「兄貴、どうするでがすか」
「うーん、ヤンガスはどう思う」
「アッシは兄貴にお任せするでげすよ」
少しの間、考えるエイトだが、結局は引き受けることにした。
「え、引き受けてくれるんですか。やっぱり夢のお告げのどおりだわっ」
先ほどとはまったく逆の顔をし、今にもスキップしそうな勢いで、
「お告げによると町の南にある大きな滝の洞窟の中に、水晶が眠っているそうです」
こんなことがわかるなんて、やっぱり私は偉大なるルイネロの娘ですよねっ、と純粋な少女のような表情をみせた。
井戸の中にあった皮の盾を手にいれた後、エイトたちは報告のために外にでる。
「ふむふむそういう事情があったとはな」
御者台に乗っているトロデは、右側に頭をむけ、勢いよくふり、
「えらいっ、何と親孝行な娘じゃ。わしは感動したぞ」
エイトが声に驚いていると、
「しかもルイネロという者が本来の力を取り戻せば、見つからぬものはないそうじゃな」
「そのようです。もしかしたら」
「うむ。上手くすれば憎きドルマゲスの居所がわかるやもしれん」
しかしじゃ、と、トロデは釘を刺す。
「今夜はもう遅い。エイトらは宿屋に泊まり鋭気を養うがよいじゃろう」
「かしこまりました。しかし、王と姫はどうされるのですか」
「わしと姫はもうこりごりじゃから、今後町には入らんことにしたわい」
「左様ですか。何か暖かい毛布でもお持ちします」
「今日は構わん、そんなに冷えなんだ。明日の朝、滝の洞窟とやらに出発するぞい」
はっ、と軽く一礼したエイトは、ヤンガスとともに宿で休むことにした。
翌朝、宿屋の主人からトロデが馬車の中で寝たらしいということを聞いたあと、食材や薬草などの必要なものを買いそろえ、馬車に合流した。
「おおエイト、待ちかねたぞ。それでは水晶を求めて行くとしようぞ」
わしとミーティアは後ろからついてく故、用があるときは話しかけるがよい、と助言をされる。トロデは今でこそ魔物のような姿をしているが、兵法や各地の情勢など、知識豊富で頼りになるところがある。
エイトはそのことを知っているので、かしこまりました、と返事をした。
「いざ出発じゃ」
こうして、旅の幕がまた一枚、あげられたのであった。
滝の洞窟は肉眼でも確認できる場所にあるため、ほぼ迷うことはない。
「兄貴、目的の場所を見つけたら道なんて無視して、まっすぐ突き進むのが男のやり方でがすよ」
「バカチンが、道なりに進んだほうが危険が少なかろう」
「と、時と場合によって使い分けます」
エイトからみて小さな二人に、苦笑いで返す。今は水晶玉を見つけることが先決なので、道なりに進むことにした。
数時間ほどたったころだろうか。ようやく滝の洞窟が見えくる。
「そういえば、洞窟の上に小屋みたいなのがあったよね」
「さすがは兄貴でがす。アッシも気になってたんでげすよ」
「王、何か情報がつかめるかも知れません。そちらに伺ってみてもよろしいでしょうか」
「うむ。リーダーはお前じゃ。任せるぞ」
ありがとうございます、とトロデに話し、裏手に回り坂道を進む。
小屋の中には、ひげの生やした初老らしき、がっちりとした体型の男がひとり、座っている。
「こんなところに客人とは珍しいな。まあいい」
お前さん、せっかくここまで来たことだし、ひとつ頼まれてくれねえか、と続く。
「内容によりますが」
「何、ちょっとしたおつかいみてえなもんだ。もちろん礼はするぜ」
「それぐらいなら」
「じゃあ一回しか言わねえから耳の穴をかっぽじって、よおく聞くんだぜ」
見渡すと赤い木が見える。男は木の根元でひと休みしていたとき、道具袋を忘れてきたらしい。それを、取ってきてほしい、とのことだった。
「オレはまだしばらくはこの小屋にいるから、待ってるぜ」
「わかりました。ちなみに、滝の洞窟について何かご存知ですか」
「いんや、入ったことはねえから、よくわかんねえ。ただ、滝つぼに主が住んでるってえのは聞いたことがあるぜ」
「滝つぼの主、ですか。ありがとうございます。道具袋、必ず持ってきます」
「ありがとよ」
男とに会話が終わり、小屋をでるふたり。男の内容をトロデに伝えたエイトは、すぐに滝の洞窟へと歩きだす。
途中、
「言っておくが、わしと姫は洞窟には入らんからな。王族であるわしらがそんな危険で汚くてきつい場所に行くわけにはいかん」
食ってかかりそうなヤンガスを、エイトは、いつものことだから、と小声で制した。
たいまつに火をともしながら、
「まったくあのおっさんは。どういう神経をしてるでがすか」
「王のワガママは昔からだよ。あまり気にしても仕方がないって。それに、王や姫を危険な目に遭わせる訳にもいかないし」
「はあ。やっぱり兄貴のほうが偉大でげす」
洞窟の中に流れる滝は、ヤンガスの怒りも流したようだ。
見た目の綺麗さとは裏腹に、地面はぬれて滑りやすくなっており、湿度も高い。ジメジメとした洞窟にいるだけで、体力が奪われそうになる。
見つけた地図を頼りに階段を下っていくと、通せんぼをするおおきづちに出会う。しかし、ヤンガスが持っていた木づちを奪い、思いっきり頭を殴り飛ばすと、あっけなく気絶させてしまった。
目をぱちくりさせているエイトに、こういう生意気な奴にはヤキを入れるのが一番でがす、と親指をたてながら指南する。頼りになるなあ、と思いながらも、彼は複雑な表情をした。
元山賊とあってか、ヤンガスは辺りにある宝箱をすべて探しあて、道具袋にしまいこむ。中には銅の剣と皮の帽子があり、剣をエイトが、皮の帽子はヤンガスが身につけることになった。
「兄貴、アッシは後でいいでげすよ。兄貴のお体のほうが大事でがす」
「この前の皮の盾は僕がもらったから、今回はヤンガスだよ」
「そうでがすか。じゃあ、ありがたくいただくでげす」
彼は子供が新しいおもちゃをもらったように、皮の帽子を丁重に扱った。
地下三階までやってくると一本道になり、周囲は滝と水で囲まれている空間へとでる。
周囲に気を配りながら、二人は一番大きな滝へと近づいていく。滝つぼの近くに差しかかると、なぞの大きな球体が浮いていたことに気づいた。
「兄貴、こいつはかなりの値打ちモンでがすよ」
「じゃあ、これが水晶なのかな」
触れようとした瞬間、滝つぼから異形な生き物が現れる。真っ赤なうろこと四本のするどい爪、人間一人なら吹き飛ばせそうな太い尾びれがついている、魔物だ。
驚いたふたりは思わず一歩下がってしまう。エイトたちの反応を見た、魔物は、ふおっふおっふおっ、と笑うと、
「驚いたじゃろう。わしはこの滝の主ザバンじゃ」
「滝の主、ザバン」
両手をを広げながら、誇り高そうに自己紹介をするザバン。長い間、誰かを待っていたようで、エイトに問いかける。
「正直に答えるのだぞ。お前がこの水晶玉の持ち主か」
「え、ええ、まあ」
反射的になんとなく答えたものの、どうやら主の気に障ったらしく、おお、おお、とうなりだす。力がこもった体から、
「ついにやって来よったか、このうつけもの人間めが。嫌というほど懲らしめてくれるわっ」
ザバンは水晶玉をどかし、二人に襲いかかってきた。
獲物を構え戦闘態勢にはいると、ザバンは不気味な黒い霧を巻きあげる。滝の主は勝ち誇ったように、
「ぐわっはっはっ、手も足もでまい」
霧に包まれたヤンガスの体はこんぼうをおとし、片足をつき、うめいてしまう。
しかし、ザバンに予想外の出来事が起こる。銅の剣が一線の踊りを演じたのである。
腕をきりつけられたザバンは悲鳴をあげ、二、三歩ほど後退する。
「ヤンガス、大丈夫」
「申し訳ありやせん、もう平気でがす」
こん棒を構えなおすヤンガスに、エイトは笑顔でこたえる。数個の薬草を放り投げると、
「僕は平気みたいだから、援護して」
「へえっ」
エイトは力をため、ヤンガスはいつもどおりの攻撃を始める。もう一度霧を発生させるザバンだが、同じ結果になり怪我が増えるだけだった。
主は小さな火炎の壁を作りだしエイトたちに投げつける。やけどを負ったふたりは、回復魔法と薬草で傷をいやし、次の行動に移る。
エイトは攻撃、ヤンガスは援護の連携、ザバンは霧や爪、火炎の攻撃を繰り返していく。
最後まで動きを封じることのできなったエイトの力ためた一撃が勝敗を決める。ザバンは額をおさえ、そのまま地面に体を預けた。
滝の主は両手で頭をかかえこみながらふり、
「いつつつつ、頭の古傷が痛むわい」
全部お前のせいじゃぞっ、とにらみつけられるエイト。何のことかわからず、首を傾げてしまう。
様子を見たザバンは、さてはお主、と、悔しげな表情をし、
「水晶の本当の持ち主ではないな。み、みなまで言うでないわっ」
ようやく勘違いに気づいた恥ずかしさからか、息が荒い。
「わしの偉大なる攻撃を受け付けぬのその体質、お前は水晶使いの占い師ではなかろう」
エイトの顔を覗きこみながら、そういえば水の流れに乗って耳にしたぞ、といった。
「トロデーンという城が呪いのイバラによって包まれ、一瞬で滅んだ」
ただ一人の生き残りを残してな、というザバンの言葉に、エイトは体をびくつかせる。その後に続く話は、ヤンガスにしか聞こえていなかった。
顔色が変わったことに気がついたのか、主は、
「やはりおぬしがそうであったか。おぬしが何故この水晶を求めるのかはわからぬが」
ひと呼吸おき、
「水晶はおぬしにくれてやろう。このわしに勝ったのだからな。最後にひとつ、そ奴に伝えてくれい」
ここ一番に力をいれると、大声で、
「むやみやたらと滝壺に物を投げ捨てるでない、となっ」
額にあるバッテンの傷が言わせているような雰囲気の中、別れの挨拶を口にし、ザバンは滝つぼに姿を消す。
何とも言えぬ空気になったところ、打ち破ったのはリーダーだった。
「目的は達成したし、ここを出よう」
ヤンガスに目を合わせながら、後で話すよ、といつもの穏やかな顔。彼は安心したのか、口元がつられる。
攻略中に覚えたダンジョンを脱出する呪文、リレミトをエイトがとなえる。淡く黄色い光が二人をおおうと、瞬時に人間たちはいなくなった。
入り口に戻ったエイトたちは、トロデに戦利品を見せ、
「ほう、これが水晶か」
「本物はさすがに輝きが違うでげす。昔はよく目利きのヤンちゃんと呼ばれてたほど、お宝の鑑定には自信があるでがすよ」
ヤンちゃん、という単語がおかしかったのか、エイトはふきだしそうになった。どうにかこらえ、トロデに、
「王、実は小用を済ませたいのですが」
「ふむ、お主はお人よしじゃからのう」
やれやれ、と馬車を操る。方向転換した先には、小屋の前で確認した赤い木の方角であった。
道なき道を行くが、今回も目印があったため、迷いはしなかった。小屋の男に言われた道具袋も、確かに根元にあったのだ。
「これだね」
「きったない袋じゃのう。わしに近づけるなよ。酸っぱい男の臭いがうつりそうじゃ」
鼻をおさえながら嫌がるトロデ。エイトはすぐさま道具袋の中に入れた。
滝の洞窟の小屋に戻ると、男が両腕を広げて出迎える。
「おお、取ってきてくれたか。見せてくれ」
エイトは道具袋を渡し、返事を待つ。納得した男が自分のものだと確認すると、
「何か礼をしねえとな。んっ」
エイトの服のポケットに視線が注がれる。同じ場所を見てみると、ネズミのトーポが少し体を乗りだしていた。
「お前さんのペットかい、そうかいそうかい」
じゃあ礼はこれだな、とひとつの袋を手渡される。エイトはトーポの鳴き声がよく聞こえるような気がした。
「オレの想像だが、魔物に襲われたとき、ネズ公にそのチーズを食わせてみな」
「戦ってるときに、ですか」
「おうよ。もしかすると、もしかするかもしれねえぜ」
釈然としないエイトに、男はにやけ顔。何かを知っているのかわからないが、とりあえず礼をいう。
ふと、テーブルに目を向けると、二つのカップがあった。男と反対側にある器には、薄ピンクの口紅がついている。
「もしかして、どなたかいらしてました」
「まあな。お前さんたちと入れ違いだったが、会わなかったか」
首をふるエイトに、そうかい、とだけ答える。ご苦労だったな、とねぎらい、旅の続きをするようにうながす。
ヤンガスが、あのおっさんに恋人っ、うんぬん、という言葉が男の耳の中に届いたが、それよりもエイトの後姿のほうを気にしていた。
しばらくして彼らの音が聞こえなくなったころ、様子を伺うように扉が開く。
おう、と男が中に入るよう合図を送ると、むさくるしい部屋に似合わない細身の姿があった。
男とは顔見知りのようで、頭をおおうフードをとると、笑顔で口紅つきのカップの前に切り株をよせて座る。
「見られなかったようだな」
「ええ。隠れるのは昔から得意ですから」
はっはっはっはっ、と豪快に笑う男。だが、すぐに真面目な顔になり、
「お前さんがエイトを気にするのはわかるがな」
「安心してください。あなた方に迷惑をかけることはしません」
「タイミングに気をつけてくれよ。まあ、お前さんなら大丈夫だろうが」
言葉の変わりに明るい笑顔で返す女性。
「姿を見て落ちつきました。もう戻らねば」
「そういやあ、今修行してるんだったな」
「ええ」
お前さんたちは熱心だねぇ、と感心する男。頭以外は全身を隠すマント姿の女性は、立ちあがり、
「お茶とチーズ、ご馳走様でした」
「いやいや。何かわかったら連絡くれ。お互いにな」
おだやかな表情のまま会釈をする女性。外にでると、小屋の裏手に回り、トラペッタの町をみつめた。
すでにエイトたちの姿は視界にはいらないが、彼女の瞳にはとある人物がくっきりと浮かんでいる。
「もはや動きだしてしまった。ならば」
手にしている槍に力をこめた彼女は、何かを決意したように目を鋭くさせた。
一瞬、視界を暗くし元に戻した女性は、瞬間移動の呪文、ルーラをとなえる。未練を断ち切るように、彼女は青白い光にとけていった。
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