「マ、マーラさんって、もうひとりの要(かなめ)だったんだ」
「おや、そう見えないかな。まあ、戦いにそぐわないイイ男だからね」
ふふ、と何故か嬉しそうに話すマーラさん。どう突っ込んでよいものやら。
「プライベートについては可愛い加阿羅(カーラ)から話してもらうとして。私からは今回の事について伝えよう」
うん? 今何か合わない単語があったような気がするけど。まあいっか。
チャラい容姿をしているマーラさんいわく、今回の学校を舞台にした騒動は、カーラ君が発案したという。主な目的は、力を蓄えるためと私の力を覚醒させるためだとか。
「今回の戦いで、拠り代、という言葉を何度か耳にしたのではないかい」
「はい。私が拠り代で、一緒に来てほしいとか力をもらうとか」
「成程。混戦したというわけだね」
とマーラさん。一気に話すと話がややこしくなるので、ひとつひとつ説明してもらうことになった。
まずは拠り代について。
拠り代というのは、人間には強すぎる力を持つ者のことを指す。今回の場合は、私のことだという。
「滅多に生まれる事がないのだが。稀に、ね」
さらにマーラさんは、拠り代によって力の出具合が違うとも指摘。幼い頃から発現する子もいれば、大人になってようやく出て来る人もいるらしい。
私に至っては後者だった、とも。
「正直な話、私はあまり興味がないので詳しくはないがね。少なくとも君の場合、力を上げるもののようだよ」
「力を、上げる」
その言葉に、如月君が何かに気づいたようだ。しかし、知ってか知らずか、マーラさんは机に両肘をつき、手にあごをのせる。
「厄介なことに敵味方と問わずのようでね。その影響が出始めているのだよ」
何と返せばよいのかわからずにいると、責めているわけではないよ、と笑顔。彼は、あくまで事実だということを強調した。
また、ここから先はカーラ君の領域になるので、また後程になり、次は今回の事件についてに移る。どうやら、核心はカーラ君に聞くしかないようね。
「最初のほうにも話したが、発案者は加阿羅(カーラ)だ。でもツメが甘かったから私が塩を送ってね」
私たちが戦った連中で積極的に攻撃してきた奴らは、マーラさんが引っ張ってきたらしい。反対側の勢力から連れてきたもので、消えてもらったほうが後々ラクになるためでもあるとか。
つまり、近い妖怪たちの敵から調達したようだ。こちらの戦力が増え、かつ、相手の力をそぐことが出来たという。
「もうひとつはこちら側と中立勢力でね。こちら側というのは、あくまで我々に理解を示している妖怪たちのことだよ」
味方とは言い切れないが、と彼。紛らわしいが、彼らの考えがわからなくはないから協力している、ということらしい。
そして中立勢力、というのは、文字通りの存在であり、私たちの言動によって変わる、と話した。
「この勢力に関しても、今は無視していいと思うが。その辺りも相談しておくれ」
これぐらいかな、と両手を広げて自らを解放するマーラさん。本当にざっくり過ぎて、よくわからないところがあるんですけどね。
とはいえ、込み入った事は、名前と顔が似ている人に聞くしかない。どう聞いても適当にはぐらかされそうな気がするからだ。
「何か聞きたいことはあるかな」
「はいはいっ。マーラさんとカラちゃんの関係性は」
「元気がいいね。しかもいきなりそこかい」
左腕を耳のそばまで持ち上げるユキ。そんな弟を、マーラさんはまるで子供を見守るような表情で見ていた。
「まあ当然気になるだろうね、似ているし。私は加阿羅(カーラ)の」
視線が隣にいるクサナギのほうへと向けられる。追ってみると、いつの間にか彼の後ろに、どでかいハンマーが用意されていた。ほんの若干、殺意があるよーに感じるが気のせいよね、うん。
さらに言えば、私の左に座っているカシスちゃんは、はあ、とやや困り気味のような。
しばらく間があいた後、
「加阿羅(カーラ)の父だよ」
「ちっ、父親ぁっ。わかっ、若すぎっ」
「いや、相手はようか」
「そうだろうそうだろう。兄と名乗っても差し支えないと思わないかい」
「加阿羅(カーラ)に嫌われますよ」
石化したマーラさん。どうやら、お茶を飲んでいるクサナギが発した言葉は、破壊力抜群らしい。
涙目になっている父親は、息を吐き出すと大人しくなる。代わりにユキが騒いでおり、如月君が落ち着かせていた。
そ、そうよね。どう見ても外見は兄弟にしか見えないもの。でも、カグナさんの例があるから、納得できないわけじゃない。
「まったく。伽糸粋(カシス)、この三千年、苦労したでしょう」
ノーコメントだったが、苦笑いしている辺り肯定と見受けられる。
ん、あれ。
「待ってください。カーラ君の父親ってことは、カグナさんの息子ってことですよね」
「まさかっ。あんな変人の父親なんて持ちたくないよ」
そんな力いっぱい否定しなくても。でも、そうなると関係性がおかしなことになるわよね。
「その辺りも加阿羅(カーラ)から聞きなさい。おっと、もうひとつ」
マーラさんは言う。彼はここにいる誰の味方でもない、カーラ君だけの味方だ、と。要(かなめ)は、息子に害がなければ無関係を貫く、と続ける。
「時と場合によるがね。その辺りは留意してくれたまえ」
「またそんな意地悪な事を。大丈夫ですよ、敵になったりはしませんから」
「クサナギ、お前はいつからそんな過保護になったのだね」
「あなたに言われたくありませんが」
どっちもどっちでは、と、私以外にも思ったに違いなかった。
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