「どうするのだ。式になるか消えるか、選ぶがよい」
カーラ君に顔と声がそっくりな羽根の生えた男は、学校を覆っていた結界を女にかけ始める。閉じ込められた妖怪は、もがいて脱出しようとするが、叶わないようだ。
また、周りに他の味方がいないのか確認したのか、背後を見る。だが、視線を送ったのは瞬間的であった。
「お、おのれ、こんな、ところ、で」
「一週間だけ時間をやる。その間に決めよ」
女の表情が驚きを隠せない。その顔も、地面に現れた五つの黒い点が中心に集まるごとに見えなくなっていく。
最終的にはひとつの小さなボールになった女妖怪。らせん状に立ち込める黒い煙のようなものは、ボールに少しずつ吸収されていった。
男は、ゆっくりボールの元へと、歩いていく。先には緑色で半透明な鷹がおり、ある場所へと降り立つ。ちょうど女が消えたところだ。
しかし、彼は突然自身を抱きしめ、ひざを突いてしまう。
すると、即座に暗闇の霧が彼を襲った。恨みがある連中の仕業なのか、勢いが止まらない。
『カーラ様っ』
えっ。今、何て。
私が驚くのもつかの間、鷹が人間の姿になり、さらに数匹の動物らしきものも出現すると、すぐさま人になって彼の元に。
だが拒絶されてしまい、三人は方々に吹っ飛ばされ霧はますます深まるばかり。
「まずいですね。このままでは私たちも巻き添えになりますよ」
「心配ねえって。ほら来た」
何かを予感していたのか、カヌス君はあごで校舎のほうを指した。目で追ってみると、空から何者かがこちらに向かってきているではないか。
シルエット的に男性だろう。彼はカーラ君らしき人の近くに降り立つと、突然剣を出現させ、霧を真一文字に斬り伏せる。攻撃が効いたらしい霧は四散し、中身があらわになる。
中心にいた人物は息切れしており、羽根が散ってしまっていた。
「カーラ様、大丈夫ですか」
「あ、ああ。う、ぐ」
「随分消耗しているね。部屋に戻って休みなさい」
「し、しかし」
「あの子達のことは私に任せて。君達、加阿羅(カーラ)を連れて行ってあげなさい」
「はーい。お兄ちゃんたち、何やってるのっ」
「お前に言われなくても。兄さん」
「はいはい」
鷹だった男の子がカーラ君らしい人の前にしゃがみ、もう一人の男の子がそこまで誘導する。
女の子は背負われる人物の左腕を担ぎ、座っている男の子の肩にかけた。
体格が違うだろう男の子だが、立ち上がると、足元がしっかりしている。
彼を救った男性がジュツをとなえ始めると、四人は白い光の円に包まれ、同時に姿を消した。
しん、静まり返った校庭は、男性と私たちしかいない。
一部は知っている人のようだが、少なくとも私は知らない人物、いや、妖怪だった。
だが、カグナさんに近い感じのする彼の顔には見覚えがある。というより、誰かさんによく似ていたのだ。
緑色の髪をしている男性はにっこりと笑い、拍手しながらこちらに近づいてくる。
「よく頑張ったね。思った以上の成果じゃないか」
「ってえコトは、だ。やっぱおっちゃんが仕組みやがったんだなっ」
「んもう。どうしてあたしたちにいってくれなかったのよっ」
妖怪兄妹が文句を言っている間、彼は女妖怪を拾い上げる。刹那、恐ろしい殺気を感じた気がするが、表情を見る限り、きっと勘違だろう。
「バカモン、お前達のやりかただと五十年は掛かる」
せっかくの若さを戦いだけに使うのではないよ、と男性。
「後で加阿羅(カーラ)にも言っておく。ツメが甘いとね」
「あ、あんの~。おニイさん、どちらサマ」
そろそろと、ワザとふざけて言うユキ。弟の気持ちは、わからないこともない。
きょとん、とした男性は、笑いながら、失礼、と口にすると、左手を顔の近くに上げる。
すると、薄緑色が学校全体を包み込んだ。どうやら、違う結界を張ったようだ。
「私から説明しても構わないのだけど。どうしようか。何か聞いていないかい」
「聞いちゃあいねえけど。以前、そのうち自分で話すとは言ってたぜ」
「そうか。なら先に君たちの傷を治すとしよう。加濡洲(カヌス)」
「オレかよっ」
ったくよお、とぶつくさ言いながら、普段よりゆっくりとジュツをとなえ、水色の円が全員を囲う。
空に向かって伸びた水色の光は、私たちの視界を奪うがすぐに返してくれる。
周りの風景は、以前来たことのある広い和室に似ていた。
「ここなら安心してくつろげる。クサナギ、私はお茶菓子と薬を持ってくるから後を頼む」
「ええ」
じゃあ、と言って、男性は部屋を退出。残された私たちは、それぞれの治療に入ることに。
って、今気づいたんだけど、ずっとカヌス君に抱えてもらってたのね。超恥ずかしいんだけどっ。
「おや、どうしました。熱でも出ましたかね」
「いやあねえ、クゥちゃんてば。ベタなボケ使って」
とりあえず横になったら、とプリム。うふふ、とか言いながら布団の準備しないでくれますか、そこ。
「とりあえず疲れたから寝ましょうよ。話はそれからでいいんじゃないかしら」
「さ、さんせー。疲れちゃったよ、マジ」
「はーい、体動かせるヒト~。手伝ってちょうだい」
彼女の投げかけに、ユキと如月君、そして明日香ちゃんが歩いていく。私も手伝いたかったが、まぶたのほうが重い。
「楓。あたしたちのことはいいから、先にねちゃっていいわよ」
「うん。ごめん、そう、する」
何がどうなって、どうなったのか。本当は知りたかったのだけど。
私は素直に、そのまま意識を閉じたのだった。
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