ここは一体どこなんだろ。真っ暗で何もわからないし、聞こえないし。
わかるのは、ただ怖いってことだけ。女妖怪に捕まってからの記憶がまったくなくて。
助けを呼ぼうにも、体を動かせないみたいなのよね。当然、声も出ない。
私、このままどうなっちゃうのかな。
そう思ってからどれだけの時間がたったかわからない。時計はないしスマホもないから今が午後なのか夜なのかもわからない。もしかしたら日が明けてしまったかも知れない。
あれ、かすかに音か聞こえた気がする。でも、この闇には何もない。だから、誰かが来たりするはずもない。
ここ、本当に特殊な場所みたいで、自身が存在しているのかさえわからなくなる程の静かさだ。虚無っていうのは、こういうことなのかもしれないわね。
私、一生ここにいなきゃいけないの。嫌だよ、帰りたい。皆のところに、帰りたい。
みんなに、あいたい。
あれ。みんなって、だれのことなんだろ。
いい、もう、なにも、おもいだせない。どうでも、いいや。
「キィエエエエェッ」
なにか、のなきごえが、きこえる。
『楓、ちゃん』
「かえで? かえでって、だれ」
『……ひとつ、いいかい』
「ん、なに」
『君は、生きたい? それとも、ここにいたい?』
なにを、いってるんだろ。
『近くに緑色の鷹がいるはずだ。その子に触れてみるといい』
た、か。
いつのまにか、とりがいる。みどりいろで、はんぶんすきとおっている。へんなの。
なんとなく、さわってみると、ひかりがいっぱい、でてきた。
まぶしい、けど、あたたかい。
ふと、目が覚めたように体中に血液が流れ始める。今までの風景が、まるで家電店のテレビコーナーみたいにたくさん流れてきた。
『聞こえるかな。皆の想いが』
この声、カーラ君のだ。いつの間に。
信じられなかったが、言われた通りに目を閉じると、とても懐かしく、危険のないゆるやかなマグマに包まれる感じがした。
ユキやカヌス君、カシスちゃん、それに如月君に明日香ちゃん。クサナギにプリム。
皆が私の名前を叫んでくれていた。
そうだ私、あの人たちとチームを組んで学校を回ってたんだっけ。怨鬼(おんき)や怨霊と戦って、変なノとも戦って。
そして、ブラックホールみたいな穴に引きずり込まれたんだ。
『思い出したみたいだね。もう一度聞こう。君は、生きたい? それともそこにいたい?』
「生きたい、死にたくないっ」
『わかった。その想い、二度と忘れないように』
そう言うと、彼の声は聞こえなくなる。代わりに鳥が羽ばたこうとしていた。
『捕まれ楓っ』
鳥の淡い緑色に導かれたのか、今度はカヌス君の声が聞こえてきた。そちらに目を向けると、巨大な白い龍が突進してきているではないか。
「なななな、何っ」
『オレだ。いいから乗れ、時間がねえんだ』
話しながらやってくる伝説上の存在は何と友人だった、って物語があったようなないような。
いや、そういう問題じゃない。私の目の前で止まった龍は、酷く衰弱しているようにも見える。
そうだ、カヌス君は大怪我してるんだった。
私は彼の背中に乗りたてがみをつかむ。
『しっかり捕まってろよ。頼んだぜ』
「キィエエエ」
言葉がわかるらしい鷹は、高く身を持っていき、龍が来た方向に飛んでいく。
暗闇はしばらく続き、彼らの発する光だけが体に優しかった。
どれだけの時間が過ぎたかわからないが、ようやく明かりが見えてきたと思うと、強制的に瞳を閉じなければならなくなる。
気づいたときには、前にカヌス君の顔があった。小さな子を見守るような表情だ。
「ねーちゃんっ」
一番聞き慣れている声がする。昔から変わらない面影に、何故か安心感を覚える。
だが、状況はそうでもなかったらしい。何とか動かした首から上に飛び込んできたものは、見たこともない姿の男と彼の元に向かう鷹、反対側にいる先程襲ってきた女妖怪の姿。どうやら対決しているようだけれど。
それにしてもあの男の人、カーラ君によく似てるわね。
「残念だったな。これで貴様の野望は潰えた」
「く、くくくく」
女は狂ったように高らかに笑う。
「初めから仕組まれていたわけかい。お前たちにまんまと騙された」
羽根の生えた男の人の雰囲気が、ほんの少し変わった、気がした。
「何の事かわからぬな。こちらとしては貴様が来ること自体、計算外だったが」
女の頭が少し動く。だが、そんなことはどうでもよかったらしい男は、手にした鞭を振るう。先が軽く当たった場所には、足首まではまりそうな穴が出来た。
「ま、待て。これからはそなたに従おう。そなた程ではなくともアタシにも力がある。役に立つよ」
男は、黙ったままだ。
「アタシが知っている限りのことも教える。場所も、他の連中の弱点も知っているっ」
はあ、と大きく息を吐き出した男は、
「そんなに助かりたいか」
「当たり前だ。生への執着は人間共より強い。ましてや我々レベルだぞ」
「ならば彼女の式になってもらおうか」
なっ、と声を上げ、私のほうを睨む。一瞬殺気を向けられた後、視線を元に戻し、
「じょ、冗談じゃない。このアタシがあんな虫けらに従えというのか」
「ならばここで消えるがよい」
「ぐっ」
悔しそうに全身を振るわせる女妖怪。気の毒と思う反面、正直、ざまあみろと思ってしまっている自分がいる。殺されかけたのだから仕方がない、よね。
とまどっている女に対し、男は鞭を消して右手を天に掲げる。
すると、学校を覆っていた結界に異変が生じた。徐々に縮小し始め、充満したレイシが女の周りに集まっていたのである。
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