喧嘩を売られた奴とは違う人間たちとのドンパチになり、いつの間にか物の怪と戦うことになるとはな。いったいどんな流れでこうなるんだか。
まあ事前に持っていた装備で、アタシもユキも武装はしているが、正直、不安が多く占めている。
実を言うと、妖怪兄弟たちがいない戦闘は初めてなのだ。だが、彼らを呼んでいる場合でもない。
金髪の髪をした弟は、刀を構え、赤土(あかつち)に向かっていく。金属がぶつかり合う音は、現実を否定してくれなかった。
さて。赤土自身にとり憑いてるのか、それとも遠くで操ってるのかを調べなきゃ。怨鬼にも性格があるからな。
アタシは目を閉じて、己の中に気を集中させる。自分のレイリョクを放出し、どこに元凶がいるのかを確かめるためだ。
『させるか』
「おっと、お前の相手はオレだって」
悪ぃなユキ、とっとと終わらせられるようにすっから。
人間にとり憑く怨鬼は、力を高めるために人を食い殺したり取り込んだりするという。
そうして人間を含めた弱者を足がかりにし、自らの身を守りながら長く生きることができるという。本当にしゃれにならないほどの弱肉強食な世界が物の怪たちの社会なのだとか。
つまり、このままだと赤土の命が危ねえってことなのだ。
まあ、喧嘩を吹っかけられてうっとうしいのはあるが、いくらなんでも死ぬ必要はない。それに、アタシの力が高まれば、彼らの力になれる。
ようやく広がったのか、怨鬼の居場所がわかりかけてくる。どうやら、アタシたちの戦いを見ることができる範囲にいるようだな。
明確なところまではわからなかったが、あとはおびきだすしかねえな。よし。
アタシはフダを取りだし、意識を集中させる。ちなみにこれは、アタシがジュツを使うときに用いるもので、怨鬼を封じるときに使うものとは違う。カヌス君のように速攻には放てねえが、それでも奴ら程度なら効くはずなのだ。
徐々にたまっていく力は、光となり、フダから溢れだしていく。
「ユキッ」
「あいよっ」
何度か聞こえた得物たちの雄たけびは、ユキが身を引いたことで終わりを告げる。そして、招来した光の刃は雷となり、敵を攻撃。
見事鉄パイプに落ちた雷は赤土の全身を走り、動きを止める。本物の雷と違って感電することはないので、人にも放ったのだが。
「姉貴、大丈夫」
「ま、まあな。ユキ、組み合ってるとき何か感じたか」
「うんにゃ。ただ、目がヤバかったなあ」
真っ赤だったよ、とユキ。
弟はアタシと違って霊力を持っていないらしい。なので、物の怪を見ることはできない。が、その代わりと言っていいのか、やたらと勘が働く。今までも、危険を察知したり異変を感じたりすることはよくあった。
なるほど、どうやら赤土の中にいるらしいな。
「あ、そうだ。影、影がおかしかったような気がする」
「影? 赤土のか」
「うん。人間の形してなかったような」
よく見えなかったけど、と付け加える。確かに、取っ組み合いをしているときに足元を見るのは難しいだろう。
さて、どっちを狙うか。足元にいるのか、それとも体の中にいるのか。
まいったな、今ひとつ確実性に欠ける。
アタシはユキに、怨鬼の居場所の推測を話した。悔しいが、コイツは天才肌だからな。
赤土をにらみつけながら、弟は、
「後どれぐらい放てそうなの」
「あと一発か、時間をかけて二発だな」
「じゃあ、オレが赤土に斬りつけるから、それで判断してみよっか」
「わかった。ならアタシも接近戦でいく」
どちらかわからない以上、フダを使って攻撃しても無駄に終わるかもしれない。だったら、場所を特定しようってコトだ。
アタシたちは同時に赤土に向かっていく。利き手違うため、左右に分かれて得意な方向から攻撃を開始。
ユキが鉄パイプを刀で受け、アタシは背後から影を狙ってタイミングを計る。弟が光の傾きを確認すると、刀をずらし、相手のあごに蹴りを放つ。
とはいえ、そこまで力をこめていなかったのか、赤土は数歩後退した程度。しかし、影は一人分となる。
すかさず影に対して爪の刃を突き刺した。
『ぐあああっ』
よし、手応えありっ。
どうやら影のほうに入っているようだ。なら、アタシたちのに移らないうちにとっ捕まえないとマズい。
アタシは手甲から地面にかけてレイリョクを伝わらせる。しかし、影は思った以上にすばしっこく、かわされてしまう。
くそ、どこに行った。
周囲をうかがうも、怨鬼らしき気配は感じない。手負いだ、そう遠くには行ってねえはず。
『おのれ小娘、その力をよこせっ』
どうやらアタシの影に移動していたらしい。背筋がぞっとしたときにはすでに遅かった。影の触手に体をつかまれたあげくに高く持ち上げられ、身動きが取れない。
「あね、うわっ」
ユキも伸びる手に捕まり、動きを封じられてしまう。く、くそ、どうすりゃあいいんだっ。
「だから何かあったらすぐに呼べっつっただろうが」
言わんこっちゃねえ、という声とともに体が軽くなる。れっきとした人間であるアタシは重力に逆らえず真っ逆さまに。
数秒後、目の前にはカヌス君の顔があった。
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