天の機嫌のよい日、しかし、厄除けの女神はあまり機嫌がよくなかったらしい。
そんな中、桜は新たな旅立ちを祝福し始めていた。そんな中、水色のランドセルを背負った女の子が、下をむきならが歩いている。
顔立ちはかわいらしく、まつげが長い。目の大きさは普通だが、強い意志が宿っていそうな瞳。
将来の美人候補のひとりだろう子だが、周囲に人魂でも浮かんでいそうな雰囲気だ。
とぼとぼと動かす足取りは重く、まるでこれからの日々を拒むように体がゆれていた。
学校についた少女は、手にしていた新しい上履きを乱暴に落とし、靴を下駄箱へと投げこむ。そして、変わった教室を掲示板を見ながら確認し、さらにゆっくりと目的地にむかう。
廊下はあまりにも広く、足音がよく響き渡っていた。
四年一組と書かれた場所までいき、扉の前でとなる女の子。数秒の間、止まっていたが、ため息とともに扉に手をかけた。
カラカラ、と寂しい音をならす引き戸は、静まり返った教室に命を吹きこむ。しかし、一番乗りについた生徒の顔は、早くすませたがっているようだった。
重苦しい空気の中、
「君が楓ちゃんだね」
と、後ろから声がする。楓と呼ばれた女の子が驚いて振りむくと、どう見てもこの学年じゃない体格の男の子が二人、すぐそばに立っていた。
「探すのクローしたんだぜ。弱まってるからなぁ」
「え、え、だ、だれ」
「あ~、ごめんごめん。おれは加阿羅(カーラ)っていうんだ。こっちは弟の加濡洲(カヌス)」
「ヨロシクな。そういやお前、弟いるんだよな、一緒じゃねえのか」
「が、学年、違うから」
それもあるし、弟は寝坊して待っていられなかったから、と彼女は思った。
少年たちは答えを聞いて顔を合わせると、そうだ学年だ、と、ワケのわからないことを言っている。それにしても、自分が一番にきたはずなのに、どうじてこの人たちがいるんだろう、と楓は考えた。
しかも、背の高さが頭二つ分ぐらい高く、小学生じゃないようにも見えなくない。
楓は優しそうな顔をしている緑色の髪をした加阿羅と名乗った少年に、
「あの、学年、違うんじゃないですか」
「んー、わからないな~。おれたち学校に通ってないし~」
「え、そうなんですか」
「通ってそーに見えるか、オレたちが」
意地悪そうな表情をするセミロングの少年。水色の髪は、色白さを際立たせていた。
一方、眉をひそめた少女は、何となく彼らを見上げていた。身長の違いもあるが、何かが引っかかっていたためである。
そして、彼女は違和感の正体に気づく。みるみるうちに目がうるんでいき、後ずさりをした。
「か、かか、体がすきとおってるっ」
「お、気づいたな」
と、うれしそうに口にする加濡洲。やっぱ血は争えねぇな、とつけ加える。は、といった楓は、当然わかっていない。
「ま~、その辺りは今度話すとして~。ちょっと手伝ってほしいことがあってね~」
「は、はあ」
「おい、誰か来るぜ」
軽いひじ鉄で合図をもらった加阿羅は、んー、と引き戸を見ると、学校が終わったら自宅近くにある公園にきてね~、と話すと、姿を消した。
開いた口がふさがらない少女に対して、
「お前の特技だろ、そんなに驚くなって」
「え、や、え、え、え」
「細かいことはちゃんと後で話すから、ちゃんと来いよ」
と、身勝手そうな水色の少年も一瞬で見えなくなる。
数秒後、クラスメイトが入ってきて、徐々に日常空間へと戻っていく。
この出会いが、彼女にとって、エライ人生になってしまうことになってしまうなど、思いもよらなかったのであった。
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