マイエラ修道院へと向かうことになった一行。不安が大半を占めているエイトだが、決して顔にだそうとはしなかった。もちろん、周囲への気遣いである。
ルーラで移動すると、さっそく行動を開始する。聖堂騎士団の宿舎へと移動していると、ポッケにいるトーポが彼の肩に乗り、まるでなぐさめるかのように鼻をこすりつけてきた。
何となく察した飼い主は、袋からチーズのかけらを取りだし、小さな相棒に与える。歩いている最中で外に出るのは珍しいので、きっと何かを感じとったのだろうと思った。
「アッシの古巣にもちょっとしたカジノがありやしてね」
あのククールって若造とアッシが組みゃあ、きっと大儲けできるでがすよ、とヤンガス。ドニの酒場で見たイカサマに感激したのか、目が輝いている。
一方、先頭を大またで歩くゼシカ。ふたつに結わかれた髪が前後に激しく動く。どうやら、赤い聖堂騎士団員の接しかたが相当しゃくにさわったらしい。
「外にはあのククールって奴はいないみたいね」
嫌いなおかずは先に食べる主義のようで、さっさとキザ男を探しましょっ、と宿舎に近づいた。
入口に立っている聖堂騎士団は、団長にしかられたきっかけをつくった連中を見るなり、いかつい表情になる。
「何の用だ」
「ククールにこの指輪を返しにきたんですが」
エイトは荷物から預かりものをとりだす。鼻で笑った男は、
「また酒場の支払いをその指輪でツケにしてくれと頼んだのだな」
仕方のない奴め、と吐き捨てた後、ククールは奥にいることを伝えた。
言われるがままにさっさと通り、中にはいることに成功。
「ゼシカ。早く返したいだろうけど、ドルマゲスの事を聞いて回ろう」
「そうね」
仇に関わる事柄だからか、即答だった。
宿舎は2階建てになっており、入口からもっと奥へ行ったところにもう1枚の扉がある。修道士や団員に話を聞いていくと、聖堂騎士団のなりたちや修道士の役目、建物の構造などを知ることができた。
「こんだけの人数の坊さんをまとめのは、ずいぶん大変でがしょうなあ」
「確かに相当な人数だよね」
「院長先生はさぞかし立派なおっさんに違いないでげす」
アッシのザンゲを聞いてほしいでがす、と元山賊。束ねる方をおっさん呼ばわりする彼に、エイトはある意味、感嘆した。
騎士団の指を見ると、リーダーは彼らだけククールと同じ指輪をつけていたことに気づく。どうやら、エリート兵だけが身につけられるもののようだ。
ひと通り話を聞き終えたが、ドルマゲスの噂は入ってこない。仕方がないので、ククールを探しに宿舎がある上の階へと足を運ぶ。しかし、騎士団が寝泊まりする場所に彼の姿はなかった。
宿舎の近くに見張りがたっていたので、話しかけてみる。すると、奥の部屋は高齢の院長の代わりに実務を取り仕切っている者の部屋だった。
しかし、騎士団長はここにはおらず、怒り心頭で下に降りていったらしい。
「おそらく地下の拷問室でククールを説教しているのだろう。いい気味だ」
どうやらククールは、騎士団員には相当嫌われているようだ。
「あのケーハク男、今お説教されているんだ。ホント、いい気味」
面白そうだから見に行ってみない、と口元が緩んでいるゼシカ。一方のヤンガスは、腹痛でも起こったかのような表情になっていた。
部屋の場所を聞き、出入り口の死角にある地下への階段を下りていく一行。
ひとりの聖堂騎士団がおり、話しかけると、扉の先に尋問室と拷問室があるようだ。後者の部屋はマルチェロにが使用中らしい。
「うへぇ、牢屋に尋問室に拷問室っ。聞いただけで寒気がしてきやす」
震えるヤンガスをなだめ、ククールに指輪を返すために訪ねると、
「またドニの酒場で騒ぎを起こしたようだな。この恥さらしめ」
エイトの足は、聞き覚えのある声に反応し、動きを止める。
「随分お耳が早いことで。さすがは聖堂騎士団の」
「どこまで我がマイエラ修道院の名を落とせば気が済むんだ。まったく、お前は疫病神だ」
あるひと言を聞いたエイトは、肩をびくつかせる。もう一度繰り返された望まれない神の名がでると、
「お前さえ生まれてこなければ誰も不幸になぞならなかったのに」
と、話し相手の存在を否定した。さらに、
「顔とイカサマだけが取り柄の出来損ないめ。半分でもこの私にもお前と同じ血が流れているかと思うと、ぞっとする」
一行は、思わず顔を見合わせる。
そして、見張りにたっていた男が言っていたとおり、話し相手はククールだった。マルチェロは、騎士団長の名において謹慎を言い聞かし、何があっても修道院の外にでるなと命令される。しかも、守れぬようなら院長がかばおうと追放する、と言い放ったのだ。
ひと通り話の区切りがついたが、エイトはそのまま部屋を後にし、1階へと上がる。とても指輪を渡せる雰囲気ではなかったからだ。
リーダーの考えを察したのか、他のふたりもついてくる。いくらか空気がよくなってきたところで、
「同じ兄貴でもエイトの兄貴とあの野郎じゃあ大違いでげす、月とすっぽんでがす」
アッシを助けてくれたのがエイトの兄貴でよかったでがすよ、とヤンガス。確かに、あのような侮蔑の言葉をまくしたてる兄は、誰であっても嫌になるだろう。
「それにしても聞いちゃいけない話を聞いちゃったわね。今日は許してあげるわ」
イヤミのひとつでも言ってやろうと思ったけど、とゼシカ。宿舎内ではドルマゲスの情報は得られなかったので、ヤンガスの言うとおり、オディロ院長のところに向かうことに。
修道院の奥にある扉を開けると、目の前には橋がかけられており、途中には聖堂騎士団員が。入り口同様に突ったっているので、予想はしていたが通ることはできなかった。
だが、ここに来てようやく、求めていた人物に繋がることができた。オディロ院長が道化師招いた、というのだ。
しかも、見張りの人間が言うには、ひどく不気味だったらしい。つけ加え、橋にいく間に会った老神父もその道化師と目を合わせてから気分が優れないそうだ。
何をしに来たか忘れてしまっている彼を見て、何となく嫌な予感をするエイト。ヤンガスも、同じように感じたよう。
とはいえ、今はオディロ院長に会うことはできない。偉人に謁見するには、聖堂騎士団長の許可が必要だからだ。
「やっぱり会えないか。急ぎたいけどマルチェロに話を聞いてもらおう」
「マルチェロ? ああ、2階からイヤミね。何てあいつの許可がいるのよっ」
しょうがないわね、行きましょう、と、言いながら歩いてきた道を戻るゼシカ。城の兵士であったエイトには何となく察することができるが、お嬢様には納得がいかなかったらしい。
おそらく、個人的な感情が先立っているのだろう、と彼は思った。
地下室に向かうと、意外な人物がたっていた。真っ赤な制服は、ここでも目立つ。
長い銀の髪がゆれると、
「あんたたち、酒場で会った連中だよな。どうしてこんな所に」
「何がどうしてこんなところに、よ。あんたが来いって言ったんでしょっ」
こんな指輪なんていらないわよ、と紅一点。ぎょっとしたエイトだが、落ち着くよう伝えようとする前に、ククールが反応する。
「そうか、まだその手があった」
彼は真剣な顔になり、
「あんたらに頼みたいことがあるんだ。オレの話を聞いてくれ」
「頼みですって。冗談でしょ」
どうして私たちがここであんたの頼みまで聞いてやらなくちゃならないのよっ、と早口で怒るゼシカ。だが、ククールは身に着けている服とは正反対の雰囲気をしている
「いいから聞いてくれ、のんびりしている時間はないっ」
彼は建物をにらみつけると、エイトたちにとんでもなく禍々しい気の持ち主が紛れ込んでいるのを感じないか、と質問する。
「聞いた話じゃ、院長の部屋に道化師がはいっていったらしい。この最悪な気の持ち主は、恐らくそいつだ」
ある単語に反応する彼女。
「そいつの狙いまではわからないが、とにかくこのままじゃオディロ院長の身が危ない」
修道院長の部屋に行って様子を見てきてくれ、と続けるククール。瞳の強さは、ここ一番だった。
「構わないけど。僕たちじゃ部屋に入ることはできないよ」
「ありがとう、恩に着るよ。実はもうひとつだけ院長の部屋に行く方法があるんだ」
橋は、あの石頭のバカどもがふさいでるからな、とイラだつククール。その点はエイトたちと同じなのだろう。
「遠回りになって悪いが、よく聞いてくれよ」
赤い聖堂騎士団がいうには、一度ドニ側へでて川沿いに進んでいくと、大昔に使われていた修道院があるらしい。そして、今は廃墟となった建物から、中洲にある院長の部屋へ通じている道があるようなのだ。
「橋が使えない以上、この道しかないんだ」
「わかった。今すぐ行ってくるよ」
「すまないな。廃墟の入り口は聖堂騎士団の指輪で開くらしい。だからそいつは、もうしばらく預かっててくれ」
エイトは、首を縦に動かす。
「こうしちゃいられねえ。兄貴、早く行きやしょう」
「そうね。グズグズしてて手遅れになったら何にもならないわ」
「その通りだ。修道院長のこと、頼んだぞ」
一行はククールと別れると、身支度を整え旧修道院へと急ぐ。不気味な道化師がドルマゲスなら、また悲劇が起こるかもしれないからだ。
「どうしたのじゃ、そんなに慌てて」
「不気味が道化師が院長の部屋に入り込んだようなのです」
「な、何じゃと」
「きっとククールっていう若造が言ってたのはドルマゲスの野郎でげす」
「きっとそうね。放っておくわけにはいかない」
「こうしてはおれん。大急ぎで廃墟の抜け道へ向かうのじゃ」
「はっ」
奴を倒して姫と王の呪いを解く。エイトの体に力が入った。
土手沿いを行くと、しばらく一本道だったところが正面右側へと曲がる道に変化。崖の間をくぐると、建物があった跡を発見。広いひと部屋分前には石碑がある。
よく見ると、壁がある草むらの下には、うっすらと溝らしきものが見えるのに対し、意味ありげな石には指輪と同じ紋章が刻まれていた。
また、その下には何かをはめこむような穴が開いている。
エイトは聖堂騎士団の指輪を取りだし、穴にはめて時計回しに回してみる。
すると地面が軽く揺れだし、青い煙が出現。すぐに現象が収まると、草地はきれいさっぱりなくなり、地下への階段が現れたのだ。
「はぁー、たまげたっ。こりゃびっくりでげすよ」
炎のイリュージョン炸裂でがす、と目をまん丸にして驚く元山賊。逆に、
「どういう仕組みかは知らないけど。たぶん聖なるチカラ、だと思う」
と、意外と冷静な魔法使い。だが、何かの力が働いたのは間違いなさそうだ。
「地下か。ふたりとも気をつけて行こう」
「へい」
「ええ」
リーダーの言葉に、ふたりは手に力をいれた。
いったい、どれぐらい使われていなかったのだろうか。よどみすぎた空気に、一行は思わずむせてしまう。かろうじて残っていたたいまつのおかげで、何とか視界は保たれそうだが。
薄気味悪いのは、ほこりだけせいではない。今まで歩いてきた道と同じ感覚なのである。しかも、タチが悪そうだ。
降りてからまっすぐ進み左右に分かれている階段を下りると、礼拝堂だったのだろう場所にでる。寂しげにたたずんでいる聖女の像は、もはや祈りを聞きはしないだろう。
像を背に左右と正面に続く部屋を発見。向かって左側には宝箱があり、鍵がかかっていた。
「これ、使えるんじゃないでがすか」
カチリ、と慣れた手つきで箱を開けると、中にはこの修道院の地図が入っていた。
「そのカギ、どこで手に入れたのよ」
「何とかっていう釜からでさあ」
決して盗んだんじゃないでがすよ、とエイトに弁解するヤンガス。彼いわく、以前錬金釜の上で作業をしていたとき、うっかり落としたブロンズナイフと腰にいれていた鉄のクギが錬金されてできたそうだ。
調子に乗って開けてしまった箱に手痛いしっぺ返しをもらったあと、次は正反対の場所へ。はしごを気をつけながら降りた先には本棚があり、軽く息を吹きかけただけで大量のほこりが舞う。
「ここで伝染病が流行ってたくさんの人が亡くなったらしい。だからここは閉鎖されて今の修道院ができたみたいだね」
「ううう。そんな人死にがあったんでやすか。どうりで寒気がするわけだ。きっと奥にはお化けがいるに違いないでがすよ」
「大きな図体して怖がらないでよっ。こっちまで気味が悪くなってきたじゃない」
アッシのほうが繊細なんでげすかね、と、仲間たちが会話をしている最中、エイトは妙な感覚に襲われる。
「ヤンガスの言うこと、あながちウソじゃないかもね」
「エイトまで何言って」
ゼシカが抗議している途中、彼は走りだしブーメランを投げつける。敵がいることに気づいたヤンガスとゼシカも続いた。
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