ヤンガスに案内を頼み、酒場までやってくる一行。ここ一番の大きな両開きの扉をあけると、この町では浮くだろう美しい馬がひく馬車があった。
エイトはミーティア姫に近づき、たてがみをなでる。問題がないことを確認すると、むかって右手にあるドアに手をかけた。
酒場のにおいが彼らの鼻を訪れると、目の前にあったカウンターに、哀愁ただよう見慣れたオレンジの服装が座っているのが映る。
「うっうっ。全く、どうして酒を飲むのにこんなに苦労せねばならんのか」
全てはドルマゲスのせいじゃ。あ奴がわしらに呪いをかけたせいでっ、と口にしながら、乱暴にグラスをおく。
「それにしても哀れなのは姫じゃ。婚約も決まったというのに、よりによって馬の姿とは」
先頭にいるエイトの目がわずかにふせられる。だが、仲間たちが気づくことはなかった。
「トロデ王」
「何じゃ、来とったのか。意外に早かったのう。して、ドルマゲスの行方は掴めたのか」
「いえ、それが」
リーダーが説明しようとしたとき、外から馬のいななきが聞こえる。今まで聞いたことのない鳴き声に、
「何事じゃっ。今のは姫のようじゃったが」
と、イスから飛びおりたトロデ王は、娘のことが気になり、すぐに姫の元へ走っていく。家臣たちも追いかけて外にでると、あるはずの姿がない。通ってきた細い路地から走ってきた父親は、
「た、大変じゃ。姫が、ミーティアの姿がどこにも見当たらんのじゃ」
「こ、こいつはいけねえ。アッシとしたことがウッカリしてたでがす」
体全身で思いだしたように、ヤンガスは記憶をたどる。
「この町の連中は、人の過去や事情には無関心だけど、人の持ち物には関心ありまくりでがすよ」
「な、何だって。どうしてそれを早く言わないんだよっ」
「も、申し訳ありやせん」
「つまり、我が愛しの姫が、町の住人にかどわかされたという意味なのかっ」
トロデーン出身者は、こぞってヤンガスにつめよる。とくにトロデ王に関しては、頭から悪魔が召喚されそうな雰囲気である。
生存本能が働いたのか、地元の人間はトロデ王にむかって、
「おっさん、落ち着けよ。さらわれたとしてもまだそう遠くには。少なくとも町の外にゃ行ってねえはずだ」
「おお、そうじゃな。今は姫を見つけることが何よりじゃ」
トロデ王は地団駄をふみながら、家臣に、
「エイトよ、聞いての通りじゃ。一刻も早くさらわれた姫を探し出して、犯人の魔の手から救うのじゃっ」
「はっ」
命令されなくても地の果てまで探すつもりだった元兵士は、すぐさま表に飛びだす。客引きをしている男性にたずねると、ものすごい勢いで東方面へ走っていったらしい。
「いったい誰が、何の目的で姫様をさらったのかしら。ま、まさかドルマゲスの仕業じゃあ」
「それはないだろ。あんな禍々しい気を放つ奴が来たらすぐにわかる」
確かに、とエイト。彼にはわからないが、やはり騎士として修行を積んだ結果、そういうモノがわかるのだろう、と思った。
「だから言わんこっちゃない。こんな町でダラダラ長居してるから面倒に巻き込まれるんだぜ」
「反省してる。情報屋から話を聞いたらすぐに出よう」
「兄貴、この通りは物乞いしてくる奴が多いでげす。話しかけないほうがいいでがすよ」
「わかった。この先はどうなってるの」
「酒場がありやすが、その裏にある商人の店があるでがす」
元盗賊でもあったヤンガスがいうに、その店はよく利用していたのだとか。また、その先には階段があるが、上にいっても何もないと話す。
酒場の前でとまった一行は、
「いくらなんでも早すぎるんじゃない。ついさっきのことなのよ」
「そうだなあ。お、そこのお前」
ヤンガスが寝転んでいるヒゲもじゃの男に話しかけると、少し驚きながら、そこの階段からある人物が楽しそうな足どりで歩いていったという。
「聞いたことあるでげすな。確か大の酒好きな盗賊だったような」
「ヤンガス、上に身を隠せそうなところってあるの」
「いや、なかったはずでがす」
腕を組み考えるエイト。盗賊、ということは、身軽なのかもしれない。なら、2階の建物から飛び降りることも可能だとしたら。
「1階にはある」
「確か見張り台の下辺りに倉庫があったでがす」
「きっとそこだ。案内してくれる」
「へえっ」
来た道を戻り、急いで倉庫に移動する一行。たどり着くと、ヤンガスが音をたてないように扉をあける。
そして、チャリン、という盗人が大好きなゴールドの音を耳にすると、その場所へ足を運ぶ。
そして、1000枚のゴールドを数え終わったらしい茶色いフードをかぶった酒臭い男がいた。
「オヤジの奴、目が利きやがるぜ。あの馬の品の良さを一発で見抜くたぁ、さすがってとこか」
まあ、このキントさまにとっちゃ、馬ドロボウぐらい朝メシ前ってもんさ、と確信犯。
その言葉を耳にしたエイトは、今にも殴りたい衝動をおさえながら、
「見つけたぞ、この泥棒」
「うわあっ、だ、誰だ、お前。あっ。まさか、あの馬の持ち主っ」
男はその場から飛びのいて、震えあがる。悪事に手を染めたにしては小心者なのか、それともエイトの気迫がすごいのか。
だが、相手なんぞお構いなしに、リーダーは問いただす。
「そうだ。馬と馬車をどこにや」
「貴様か。わしのかわいい姫をかどわかしたのは。貴様なんじゃなっ」
聞きだそうとした瞬間、トロデ王が割ってはいる。父親は青筋をたてながら、体をわなわなさせていた。
そして、人間とはかけ離れた姿を見た盗賊は、たちあがり、足をガクガクさせる。
「ひゃあ~っ、何でこんなトコに魔物がいるんだ。あ、あの馬は、魔物の姫だったのか」
「誰が魔物じゃ。とにかく姫を返せ、今すぐ返せっ。返さぬとひどい目に遭わせるぞっ」
「あわわわ、許してくれぇ。あの馬が魔物の姫だったなんて知らなかったんだぁ」
座りこみ、生命より大切なものはないとわかっている人間は、
「こ、この通り、馬を売った金は返すから、どうか、命ばかりは」
「貴様、姫を売ったと申すかっ。ええい、エイト構わぬ。こんな奴は切り捨ててしまえいっ」
「落ち着けよ、おっさん。こんなチンピラ斬ったって、兄貴の名が汚れるだけってもんだぜ」
ヤンガスがトロデ王を抱えると、第一家臣の指の動きがとまり、そのまま体の横へとすえおかれる。彼はそのまま王をどかし、キントに詰めよると、
「おい、お前。馬姫様を売ったってのは、ひょっとして物乞い通りにある闇商人の店か」
「へ、へえ、その通りです。よくご存知で」
「よし。なら売った金をよこしな。言っとくが、ごまかしたりしたらタダじゃおかねえかんなっ」
「ひいいっ、ど、どうぞ。1000ゴールドです。本当にこの金額で売ったんです」
相手からゴールドがはいった袋をひったくるヤンガス。笑みを浮かべながら、兄貴にふりかえり、
「ひと安心でがす。今の話に出てきた闇商人ってのは、実はアッシの知り合いでしてね」
アッシがこの金を返して頼めば、きっと馬姫様を帰してくれるでがすよ、と弟分。エイトも、ほっ、と息をだし、安堵した。
「それは本当じゃな。そうとわかればこうしてはおれん。早くその闇商人の店に向かうぞっ」
「はっ。みんな、行こう」
用がなくなった部屋から早急に退出する一行。
「あの馬姫様が馬車つきで1000ゴールドとは。あの馬ドロボウ、ずいぶん買いたたかれたな」
「それにしても、ついさっきさらわれた馬姫様がもう闇商人の店に売られちゃってるなんて」
この町はホントに油断ならないわね、と、ゼシカ。どうやら、悪徳の町って呼び名の意味が理解できたらしい。
しかし、それはエイトも同様であった。
「闇商人の店か。昔はよく世話になったもんでがすが」
足を洗ったのにもかかわらず、別の形で訪れることになったヤンガスは複雑な様子。しかし、その過去があるからこそ、エイトの役にたてていることもまた事実。
それぞれの思いは酒場の前で終わり、にぎわっている扉を開けるヤンガス。そのままカウンターにいき、マスターに声をかける。
「よおヤンガス、久しぶりだな。また店の世話になろうってのか」
「ああ、通らせてもらうぜ」
「さすがは大盗賊ヤンガスだ。いいぜ、入りな」
と、カウンター台の一部をあげながら案内する男性。新顔を見ると、ここのことは他言無用だ、と注意した。
奥にはちょっとした大きさの店になっており、店主は筋肉質で顔をマスクで隠している男だった。異様な雰囲気は、通常の店とは当然違っている。
だが、見かけのいかつさからは想像できないほど、気さくに声をかけてくる。
「おっ、ヤンガスじゃないか。今日はどうしたんだ。久しぶりに盗品でも売りにきたのか」
「いや、そうじゃねえ。今のアッシはこっちの兄貴と旅をしてて盗賊家業からは足を洗ったんだ」
隣にいたエイトを右手全部の指でさす彼。ほお、と口にしながら見た店主に、エイトは何となく会釈した。
「それよりあんた。最近、酔いどれキントって奴から馬と馬車を買わなかったかいっ」
「ああ。確かに買い取ったぜ」
「そうかい、そいつは良かった。実は、その馬と馬車は兄貴の持ち物なんだが、そいつに盗まれちまってな」
「そうだったのか。キントなんぞに盗まれるたあ、お前さんともあろう者が、油断したもんだな」
「まったくだ、焼きが回ったとはこのことだ」
それで慌てて駆けつけたんだよ、と元盗賊。手にもったゴールドを机の上に置き、馬と馬車を返してもらうよう頼んだ。
「ヤンガスの頼みとあっちゃあ断れねえ、って言いたいところだが」
頭をかきながら話す店主は、小さい声で、
「その、言いにくいけど。もう売っちまったんだよな」
「あんだってぇ~っ。そ、それでどこの誰に売ったんだ。すぐに取り返しに行かねえと」
何か意味があるのか、バツが悪そうに、さらに言いにくいんだが、と前置きすると、
「買ってったのは、ゲルダなんだよ」
「ゲゲッ」
ヤンガスの体に稲妻が走ったよう。しかし、名前を聞いたことがない他のメンバーは、きょとんとしてしまう。
「ゲ、ゲルダって、あの女盗賊ゲルダかよ。冗談キツイぜえ」
一気に魂がぬけたらしい元山賊の顔は、おいしくない食事を食べたように、難しい顔をしていた。
「すまねえな、オレにはどうにもできねえや。後はおまえ自身で何とかしてくれよ」
なにやら事情を知っているのか、店主は頭を再度かきながら言葉をかける。考えてみれば、商品を売った後のことは、不良品や商品の説明以外の対処は難しいだろう。
「わかったよ。ありがとな」
「いや。健闘を祈るぜ」
その言葉をきいたとたん、エイトの背中にいやな汗が流れる。
とぼとぼと店を後した一行は、ヤンガスの足が棒になったところでたちどまった。
全身で青い息をだしながら、
「まさかこの件にゲルダの奴が関わってくるなんてなあ」
「し、知り合いなんだよね」
「へ、へえ、まあ」
はあ~っ、と、肺にある酸素をすべてはきだすヤンガス。
「やれやれ。ホントは行きたくねえけど、しょうがねえや。アイツの家、確か町をでて南西にある池に囲まれた場所だったよな」
「そこに姫がいるんだね」
「そうでがす。さあ兄貴、馬姫様を助けに行くとしやしょうぜ」
「うん。案内頼むよ」
「へいっ」
「やれやれ、つまらない事件にえらく振り回されるな。もう面倒だから姫のことはあきらめようぜ」
「ククール」
「じょ、冗談だよ、冗談。そんな怖い顔するなよ」
「言っていいことといけないことがあるだろ」
「ほれ、何をボヤボヤしておる。さっさとこんな町を出てゲルダとかいう女盗賊のところに向かわんかいっ」
一刻も早く姫を救い出すのじゃっ、とトロデ王。もちろんエイトに依存はなく、必要な武器や防具、道具などをそろえる。
歩きながら装着していくことにした一行は、途中で通行の邪魔をした男をヤンガスがはっ倒しながらパルミドの外へ。
「ああ、気が重いでがす。これからあのゲルダのとこに行かなくちゃならねえとは」
馬姫様のピンチだ。グチってる場合じゃないでげすね、と肩を落とすヤンガス。
「ゲルダって女の人、ヤンガスの知り合いみたいだけど。ひょっとして昔の恋人とかなのかしら」
ププッ。あのヤンガスが。そんなまさかね、とゼシカ。対してククールは、
「女の盗賊。うぷっ、ついついヤンガスが女になった姿を想像しちまった」
おお神よ。罪深き私をお許しください、とそんなに力がこもっていない祈りをする。その腕には、願いの丘で元山賊が見つけていた騎士団のたてがあった。
一方のエイトだが、仲間たちの会話は聞こえてはいるが、返事をする余裕がないらしい。普段にこにこしている顔は、みけんにシワをよせてしまい、険しい顔になっている。
そんなリーダーは地図を見ながら、目的地を確認していた。
「ゲルダの家だったら池に囲まれた小島の上にあるから、すぐにわかるでがすよ」
「南西だったよね。道がないみたいだけど、小さな森があるから、それを伝っていこう」
「アッシが先導するでげす」
「頼む」
とエイト。
ミーティア姫奪還へむけて、一行は歩きだすのだった。
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