パヴァン王のもてなしを受けたエイトたちは、久しぶりに豪華な食事とお酒を口にし、英気を養う。
その後、アスカンタにはドルマゲスが立ちよった形跡がないことがわかった一行は、情報を求めて旅立つことに。
「ふう~、食った食った」
満面な笑みでお腹をさするヤンガス。一方、少し酔っぱらっているらしいククールは、シセル王妃のことが忘れられないようで少しぼんやりしている。
ゼシカといえば、ドルマゲスの情報集めにやる気満々であった。
そして、エイトも令嬢と同じく、道化師のことに頭がシフトしていた。
だが、一行を待っていたトロデ王は、なぜか背中を見せていじけている様子。ミーティア姫が、心配そうに見つめてるようにうかがえるが。
「ええのう、お前達は。パヴァン王から盛大にもてなされて。楽しそうじゃのう」
きっとご馳走や酒も一杯、振舞われたんじゃろうな、羨ましいのう、と続く。
「その間、わしと姫は町の外で待ちぼうけじゃ。ああ、寂しい寂しい」
というと、足元にある石をける。固い固形物は、地面に力なく横たわった。
「おっさんの気持ち、アッシにゃあわかるでがすよ」
おっさんだってマトモな姿だったら、町に入って酒のひとつも飲みたいでがしょうよ、とヤンガス。うなずきながら話すあたり、見かけの悪さで苦労したようだ。
彼は思いついたようにエイトにむかって、
「なあ、兄貴。以前、アッシが住んでた町に寄って行きやせんか」
「ええっと、南にある町のことかな」
「へえ。パルミドって小汚ねえ町ですが、どんなよそ者でも受け入れるフトコロの深いとこでしてね」
そこならおっさんも安心して中に入れると思うんでがすよ、と続ける。
「それに、あの町にゃアッシ馴染みの優秀な情報屋がいるんで、ドルマゲスの野郎の行方もきっと掴めるはず」
「それ本当っ。わかった、すぐに向かおう」
兆しが見えてきたリーダーの目は輝き、すぐに体を動かす。しかし、御者台にいるトロデ王は、
「ふうむ、本当にその町はわしが入っても大丈夫なのかのう」
不安じゃ、とぼやく一国の主。
「大丈夫だって。おっさんも案外心配性だなあ」
「ヤンガスの言うことなんぞアテにはできんでな」
はあ、とため息をもらしながら口にする。さすがのヤンガスもムッとしてしまい、
「人が親切心から紹介してやってるっていうのに失礼なおっさんでがす」
こんなことなら優しくしてやるんじゃなかったでげす、と人情深い元山賊。元兵士は、弟分に小声で、ゴメン、と伝えた。
「いきなりスネちゃうなんて。あんな姿になっちゃって、ストレスがたまってたのね。やっぱり」
「だと思う。好きなお酒も飲めないし」
「その町で少しでもトロデ王の気分が晴れればいいんだけど」
「そうだね、そう願うよ」
今度はエイトがため息をついてしまった。
「それにしても、トロデ王は本当に王様だったんだな」
「え、どうしたの。急に」
エイト以外は疑っていた王の素性だが、ククールは、先程の態度を見て確信したらしい。彼いわく、よい歳をしてあのワガママっぷりは、王族のものに間違いないのだとか。
「こう見えても結構人生経験は豊富なほうでさ」
「そうなんだ」
あまり離れてないけど、とエイト。だが、ドニの町で聞いたことを思いかえすと、確かにとも感じる。
「あっ、しまった」
「どうしたの。もしかして忘れ物」
城から歩いて道がなくなってしまった後に叫ぶククール。
「あの詩人、イシュマウリだったか。あいつが男か女か確かめるのを忘れてたっ」
「え、あ、ああ。そう、だね」
オレとしたことが、と少し落ちこんでいるらしい彼。エイトはあまり気にしていなかったので、頭をかいてしまう。
「男じゃないの。声、低かったし。それにしても、まるで夢を見ていたみたい」
「ゼシカ、その」
「ごめん、今はいいの。たとえあの不思議な人が会わせてくれるって言っても、ね」
彼女は今、サーベルトにあっても笑えないという。ドルマゲスを倒して仇を討ってからなら、と話す。
「そのほうが兄さんに安心してもらえると思うから」
「そう。じゃあ早く探し出さないとね」
「うん。それにしても、あれだけ尽くすっていうのは、ただの働き者ってだけじゃないわよね」
うん、絶対そうっ、と何やら確信をもったゼシカ。ちょっとした女の勘らしいが。
「エイトもそう思うでしょ」
「え、な、何が」
「ん、何の話をしておるのじゃ」
「何が、じゃないわよ。キラのことよっ」
「え、えーっと」
「ったく、しょうがねえ奴だな」
「だから、さっきから何の話をしておるのじゃ」
「もう、うるさいわね。王様は黙っててよっ」
少し間をおき、理不尽じゃ、とつぶやくトロデ王。エイトの頭の上には、クエスチョンマークが浮かんでしまっている。
彼の横にいるミーティア姫は、鳴きながら頭を上下に動かした。
「姫、何で笑ってるんですか」
ブルル、と今度は左右に頭をふる。エイトはますます混乱してしまう。
「おーい、こっちでがすよ~っ」
獣道を進んでいたヤンガスが、手をふり、仲間たちを呼ぶ。兄貴の脳みそが沸騰しつつあることなど、まったく気づいていないのであった。
少しでも安全な道を歩くために、アスカンタとパルミドの中間地点あたりにあるという小さな宿場を訪れる一行。先客がいたが、パルミドにいるのは貧乏人と悪党ばかりだから勧められない、と話す。
出身者が近くにいたのでエイトは少し冷やっとしたが、とくに何も起こらずにすむ。念には念をいれ、小休憩をいれることに。
日が暮れてしまうと夜盗の餌食になりやすい、というアドバイスから、太陽がでているうちに町につくことを目指すことになった。
ちょっとした崖沿いに歩いていると、ようやく整えられた道が見えてくる。
「この道が見えりゃあ、あと少しでげす。後は道なりに進めばパルミドでがすよ」
「途中で道がなくなってたから焦ったよ。ありがとう、ヤンガス」
「いやいや。兄貴のお役に立てたのならうれしいでげすよ」
地元人は、今のペースなら夕暮れ前にはつくだろう、と教えてくれる。魔物との戦いだけに気を使えるのは、余計な怪我をしないですむ。あまり楽観はしないが、心が軽くなるだけでもありがたい。
意気揚々と進んでいる中、エイトたちは奇妙な建物を発見。ヤンガスに聞いてみるも、いつも入り口が閉まっていて中にはいれないらしい。
試しにエイトが扉を開けてみるも、やはり言っていたとおりだった。とはいえ、建物を正面から見て右側に上に行ける坂があったので、そちらに回ってみることに。
すると、出入り口と同じ、緑と赤が半分ずつの配色をした服を着ている男性が、若干高くなっている建物の縁にたっていた。
しかも、どういうわけか、風も吹いていないのに、マフラーがなびいている。
腰に手をおき異様なオーラを放つ男性に、一同顔を見あわせてしまう。
ちょっと覚悟をして、リーダーは男性に声をかける。しかし、見事に無視されてしまった。
瞑想でもしているのかな、と思ったエイトは、何となく邪魔をしては悪い気がしたので、そのまま仲間たちと合流することにした。
「おおっ、せっかく話しかけてくれたのに無視してすまなかったな。お主の話にも耳を傾けようではないか」
とても濃い顔をしたヒゲを蓄えているおじさんは、勢いよくガッツポーズをすると、
「わしの名はモリー。今はここで風の声を聞いていた」
と、不敵な笑みで名乗る男性。そして再び背中をむけ、風に耳をゆだねたよう。
何となく次元が違うような雰囲気をかもしだしている男性を視界にいれると、一行は再び視線をあわせる。
「モリー、なあ」
「ほらモリーさんが呼んでるわよ。行きなさいよ」
私は行きたくないけど、とゼシカ。エイトにしても、得体の知れないオーラが感じられるので、正直なところ立ち去りたい気分である。
「しかしまあ、あのとっつぁんは、オレの人生の中じゃまだ見たことのないタイプだな」
「風の話を聞くとは中々かっこいいでがす。アッシも歳をとったら、ああいう風に自然と会話しながら暮らしてみたいでげすなあ」
しみじみというヤンガスだが、何かが違うと感じるエイト。もちろん、今はちょっとおかしい状況なので、そう、と返事をするのが精一杯だった。
悪い人間ではなさそうなので、もう一度恐る恐る話しかけてみることに。
「あ、あの、モリーさん。何をしているんですか」
「風がわしにこう言うのだ。まもなくここに、素晴らしい才能の持ち主がやってくるだろう、と」
と続ける。すると勢いよく振りかえりながらエイトを指さしすると、
「ボーイ。お主は旅人だな」
「え、あ。は、はい」
「やはりな。ならばボーイに頼みたいことがある」
と話しながら、エイトに3つのメモを渡す。紙には、魔物の絵と文章が描かれていた。
「そのメモにある魔物を見つけたなら、そやつを倒し、わしの所へと導いて欲しいのだ」
「導く、ですか」
「案ずる必要はない。ボーイならいとも容易く実現するはずだ。目を見ればわかる」
戦って勝てばわかるはずだ、とつけ加えるモリー。首をかしげた赤いバンダナの青年は、わかりました、と返事をする。
納得したらしいモリーは、くるっと回転して再び指差しをすると、
「では頼んだぞ。ボーイ」
そう口にすると、彼は話す前と同じ体勢をとった。
メモを見ながら建物を後にすると、
「いる場所と姿かたちの特徴、か」
「ねえ、あまりモリーさんのことに構っていられないよ」
私は兄さんのカタキを討つために旅にでたんだから、とゼシカ。もちろん、リーダーもそのつもりだ。
「ついででいいと思う。それに、行けないところがあるしね」
「それがいいな」
「あのダンナは風の声を聞けるから、服がいつもなびいてるんでがすね」
すごいでげすなあ、とヤンガス。どういう風に反応してよいのかわからなかったので、エイトは苦笑いしてしまう。
もらったメモをしまいながら、一行は再度パルミドへと足をむけた。
目と鼻の先だったようで、日が暮れる直前には町に到着することができた。
トラペッタの町での出来事にこりているエイト、トロデ王はゆっくりと中に進んでいくが、一緒に歩いているヤンガスは気にしないでいる様子。
中央通りだろうところを半分ぐらいくると、
「本当にヤンガスの言う通りじゃな。ここの連中は、わしの姿を見ても何も言ってこんぞ」
通路が途切れ、ちょっとした広い場所にでると、馬車がとまる。トロデ王は家臣に対し、
「となれば早速酒場じゃ。わしは先に行っておるからな。お前達は情報屋とやらを探し出してから来るが良い」
「はっ」
吉報を待っておるぞ、というと、本当にうれしそうにしながら奥へと移動する。エイトには音符の幻覚が見えたような気がしたが、それほど主は喜んでいるのだろうと感じた。
「ったく、しょうがねえな。兄貴、おっさんの事は放っといて、情報屋のダンナんとこへ行きやしょうぜ」
ドルマゲスを探すって目的も、忘れちゃあいけねえでがす、とヤンガス。
「そうだね。案内してくれる」
「へえっ」
今はそっとしておいたほうがいいな、と思った元兵士は、弟分に賛同し、4人で情報屋の家へと訪れることにした。
「何ていうか、個性的な町よね。リーザス村とは全然違ってて。世の中にはこんな町もあるのね」
「そうだね、本当」
「うーん、懐かしい匂いでげす。後ろ髪を引かれる思いで一度は捨てた町でげしたが」
「あんたの後頭部に髪なんか見当たらないけど」
「ゼ、ゼシカ」
「それにしても汚ねえ町だな。早く情報屋とやらを見つけて、こんな町からはおサラバしたいもんだぜ」
「ククールまで」
「ふたりとも、口の悪いところはパルミドにぴったりでげすよ」
思わず大きなため息がでてしまうエイトであった。
外から見たよりもいり組んでいる町中は、地元の人間がいなかったらかなり時間がかかっていたことだろう。ましてや通路によっては金品をねだるところもあり、とても女子供だけで歩いてよい場所ではない。
ヤンガスいわく、この町で住んでいた彼は、バリバリの大盗賊でとんでもない悪党だったとか。
「それ本当なの。そんな風には見えないけど」
「本当でがすよ。エイトの兄貴にも話せない悪事の数々がありやしてね」
そういう生活に疲れた弟分は、うす汚れた盗賊稼業から足を洗うためにこの町からでたらしい。それから戻ってくるのはずいぶんと久しぶりだという。
その結果、今はこうして善人でいられるのだ、と。
「あの時、兄貴に会えてなかったら、アッシの手は今も汚れ続けてたんでがしょうなあ」
少ししんみりした雰囲気になり、ヤンガスは目をこすった。
「さあ、着いたでがすよ。この階段の下がダンナの家でげす」
下りた先にすぐ扉があり、一般人と同じく扉をたたくヤンガス。しかし、2回ノックしても返事がなかったため、彼はノブをひねり中をのぞく。
すぐに把握すると、
「どうやら留守のようでがすね」
「そっか。タイミング悪いね」
「む~う、仕方がないでがす。いったん、おっさんのいる酒場に戻ってどうするか考えるでがすよ」
「そうしようか。みんな、行こう」
きた道をもどり、酒場へと足を運ぶエイトたち。
「エイト。情報屋が留守じゃあ、もうこの町に用はないだろ」
さっさと他の土地へ移動しようぜ、とククール。聖堂騎士団員はどうやら、よほどこの町が嫌いらしい。
「そう? 私はもうちょっとここを探索してみたいんだけど」
「こんなうす汚い町を歩きたがるなんて、ゼシカは物好きだな。成程、だからか」
「何がよ」
「オレほどの美形が口説いてるのになびかないワケだ。納得したよ」
「言ってなさいよっ。エイト、こんな男無視して、早くトロデ王のとこへ行きましょ」
「え、あ、ちょ、ちょっと」
前にもこんなパターンがあったような、と思いながらも、エイトは令嬢に引きずられながら、酒場へと移動したのだった。
第16話へ 二次創作一覧へ 第18話へ
長編一覧へ
全体一覧へ
スポンサーリンク
<メルマガ>
・人を動かす文章術
文章について、日頃考えていることを発信しています
・最新作速達便
新作品をいち早くお届けします。
<Facebookページ>
個人ページ お気軽に申請してください♪
<Podcast>
ライトノベル作家・望月 葵が伝える、人をひきつけ動かす文章の力
東京異界録(ライトノベル系物語)
<電子書籍>
各作品についてはこちら