太陽が完全に姿を現すと、一行は軽い朝食とった後シスターにお礼を伝え、周辺で情報収集を行うことに。
「なあエイトよ。お前は確か親も兄弟もおらんと言っておったな」
「ええ」
馬車を整備している家臣に声をかけるトロデ王。ふうむ、と、あごに手を当てつつも、とくに何もなく御者台へと座る。
「いかがなさいましたか」
「いやのう。ゼシカは兄と死別、ククールはあの通り仲が悪かろう」
わしとミーティアの幸せ家族を見せつけては、何だか悪い気がしてのう、と続ける。昨日の話のことだな、と感づいたエイトだが、
「私はそのような気分にはなりませんよ。むしろ、おふたりを見て、家族っていいものだと教わりました」
「ふむ、そうか」
まんざらでもない表情になる国王。家臣が嘘偽りのない心で話したからだろう。
地図を広げ、現在地点を確認するリーダーは、この教会がマイエラ修道院とアスカンタの中間地点であることを知る。ヤンガスは地図をなぞりながら近道があることをエイトに話すが、そこは獣道になっているらしい。
「うーん。こっちだと時間はかかるけど安全だよね」
「そうでがす。道なりなら迷いやしやせん」
城っぽい方角へ行けば間違いないでげすよ、と弟分。どういう方向だろう、と思ったエイトだが、城にある塔のベルフリトのことかな、と飲みこむ。
細かいことはさておき、道が決まったところで歩きだす一行。エイトは、たまたま隣にいたククールに、
「ククール、大丈夫」
「え、何か言ったか」
「い、いや別に」
「悪い、ちょっと考え事をしてただけさ。そうだ」
聖堂騎士団員はオディロ院長を殺した相手の名前を聞く。
「確かドルマゲスだったよな」
「うん」
「ドルマゲスか。なあに、奴にはもういっぺん会って礼を言わなくちゃ、ってね」
あの忌々しい修道院から出られた御礼はたっぷりしてやるさ、と続ける彼。歳の近い青年は、オディロ院長が親代わりだったことから、仇討ちにでるつもりだったのだろう、と考えたが。
もちろん、あまり詮索してよい内容ではない。
「無理はしないでいいよ。疲れたら言って」
「あ、ああ。でもまあ、先を急ごうぜ。追いかける相手もいることだしさ」
「そうだね」
ククールにはククールの、トロデ王にはトロデ王の、そして、エイトにはエイトの複雑な想いが交差する中、
「今日は珍しく、ククールもトロデ王もあんまりしゃべらないわね」
静かでいいけど、ちょっと拍子抜けしちゃうわ、とゼシカ。彼女は話を聞いていないため、よくわからないのだろう。
「この大陸はまだまだ広いのよね」
「地図を見るとそうだね。アスカンタより南も相当広いよ」
「ねえ、エイト」
「何」
「ドルマゲスはまだ、この広い大陸のどこかにいるはずだわ」
あいつは私ひとりのカタキじゃないわ、と続ける。彼女は右手に力をいれながら、
「ドルマゲスに殺された人みんな、みんなに代わって私たちで。エイトと私たちとであいつを倒そう。ね」
「うん、必ず。必ず倒すんだ」
それが天涯孤独の身を救ってくれた人々に対する、恩返しになるのだから。
エイトの決意は、より一層強まるのであった。
パーティーは引き続き、おじいさんとおばあさんが住む家で話を聞いたが、目ぼしい情報は得られず。
「その顔では、この辺りにはドルマゲスの行方を知る者はいなさそうじゃな」
「はい。しかも、アスカンタには行かないほうがいいと」
「どういうことじゃ」
エイトは首を振る。理由は教えてもらえなかったからだ。
「そういやあここしばらく、マイエラにアスカンタの情報が入ってきてねえな」
大陸の北側に住んでいた者いわく、そこそこの距離があるとはいえ、状態を耳にすることはできたという。それがここ数年ほど、風の便りがないらしい。
「ふむ。言われてみれば、我が国にも使者がほとんど来なくなったのう」
「何かが起きてるのは間違いなさそうですね」
「うむ。アスカンタへ急ぐのじゃ」
「はっ」
「賛成だな。美女も冒険もカタキ討ちも、たいてい城を舞台にするもんさ」
じいさんばあさんとダラダラ話したって、何も面白いことなんか起きやしないよ、とククール。ちょっと理解できないところがあったエイトだが、苦笑いをしてアスカンタを目指すことに。
道が整備されていたため、地図を広げなくても迷わず進むことができ、一行は魔物たちに注意しながら進んでいく。
途中、リーダーは各人の能力と得手不得手を把握しながら、ブーメランで奮っていった。
大きく曲がりくねった道はあれど、ふたつ目の道が角を回りきると、高台のむこうから城らしき建物が視界にはいる。ようやく目的地にたどり着けると安心したパーティーは、気持ちが軽やかになり、足も速まる。
しかし、到着したはよいものの、思わず、入り口付近で立ち止まってしまう。町全体を包んでいる雰囲気が異様だったのだ。
というのも、人々の服は黒く、城の上からは黒布の垂れ幕がたらされているのである。
「ははあ、こりゃあ葬式でがすかねえ。随分みんな沈んだ顔で」
とりあえず拝むことにしたらしいヤンガスは、なんまいだー、なんまいだー、と両手をあわせる。
「ったく、またかよ。辛気くさい黒だの灰色だの。せっかく修道院を出てきたってぇのに」
「みんなの暗い顔、あの喪服。嫌なことを思い出しちゃう」
兄さん、と、小さな声でささやくゼシカ。
「ゼシカ、そ、その。何て言ったらいいか」
あーっ、だから女は苦手なんでがすっ、と叫んでしまうヤンガス。しー、しー、と、静かにするジェスチャーとともに、エイトは彼に伝える。
「ま。喪服ってのも、それはそれで色気があっていいけどな」
それはそれでどうなんだろう、とよぎったエイトだが、騒がしくするのも悪いので、胸の中に秘めておいた。
たまたま近くを通りがかった人に声をかけてドルマゲスのことを聞くも、こんな陰気な国に道化師なんか来るはずない、と一蹴されてしまう。確かに、そのような者が来たら、目だって仕方がないだろう。
街の中を探索してみるも、売店の看板は汚れやペンキのはがれ、埃まみれなど、とても客を歓迎するような営業体制ではない。
今後のことを考えて見てみようと、エイトは思うが、買う気にはなれなさそうだ。
訪れた人を気落ちさせる中でも街を歩いていくと、今の状態は2年間続いており、原因は王妃の死だということがわかった。しかし、やはり求める人物のことは耳にはいらない。
目的を果たすためには、いちにもににもドルマゲスのことに関する情報を得なければならないため、城へと歩いていく。
入り口を守っている兵士ですら顔に影を落としており、同じ立場だったエイトからすると、複雑な想いを抱く。
というのも、王妃が生きていた頃は、豊かで活気あふれる国だったらしいからだ。一国の主が抱えた悲しみは、国中を死に染め上げているようで、守るべく国がなくなってしまった者からすれば、何とももどかしい気持ちになる。
しかし、国王とはいえ、ひとりの人間。最愛の人を失った悲しみを隠して政務をするのも、難しいかもしれない。
正面にある大きな扉を開けると、中央に美しい噴水が設置されており、水が静かな流れを奏でている。その左右には、上へと続く階段が、壁づたいに建設されていた。
ゆっくりと上っていくと、歩いてきたところを含めて3つの階段が姿を現す。真ん中にあるそれを同じようにして体を動かしていくと、兵士が番をしている場所へとでる。むかって彼の後ろには、さらに階段が伸びているところから、おそらく玉座だろう、と、エイトは考えた。
「王に挨拶に来たのなら、代わりに我が国の大臣がお会いになるだろう」
「王にはお会いできないのですか」
「うむ。事情があってな」
仕えてる人間が、軽々しく国王のことを口にすることはできないか。
そう思ったエイトは兵士にお礼をいい、謁見の間へと足を運ぶ。すると、王座には人の姿はなく、大臣らしき人物がそばにたっていた。
「ほほう。旅の者とは珍しい。我がアスカンタへよくぞ参った」
大臣は続ける。この国は亡くなられた王妃の喪に服しているため王には会えない、と。
「すまぬが、お引取り願おう」
「かしこまりました。王に宜しくお伝えください」
リーダーがその場を後にし、さらに上の階に続く階段を見ると、見張りの兵が、王の部屋があることを教えてくれる。
無駄かもしれないと思いつつも上がってみると、陰気で包まれた空気を一気に吹き飛ばしてくれそうな、見晴らしのよい場所へとでる。中央には人ひとりがゆったりと過ごせそうな広さの部屋があるが。
回ってみるとひとつの扉があり、その前には少女がいた。
足踏みをしてから扉を叩くと、
「お加減はいかがですか? わたくしです、小間使いのキラです」
お昼にお運びしたお食事も、召し上がらなかったようですね。夕食は、王様の好物を作りますので、と続けるキラという少女。
しかし、扉からは、何の音沙汰もない。
「王様、お願いです。せめてお返事を。お元気かどうかだけでも」
本当に中に人がいるのか、と疑いたくなるぐらい、部屋からは物音すら聞こえない。
小間使いは1歩下がりながら、失礼いたします、と頭をたれる。そして、黒い服同様の表情をしながら、エイトたちの横をすり抜け、下りていった。
「あの子みたいに、私と同じぐらいの歳でも働かなきゃならない子もいるのね」
「そうだね」
エイトも小間使いとして働いていたこともあったため、彼女の気持ちは何となく察することができる。が、アスカンタのような経験はないので、同情しかできずにいた。
これで王に会えないことに確信が持てたリーダーは、出直すことに決める。他のメンバーもそれに従い、キラの後をたどることに。
その本人は、謁見の間で大臣と話しこんでいた。
「お食事もほとんど手つかず。夕べも一晩中、王座のまで泣き明かしていらしたご様子。」
王妃様がご存命の時は、あれほどお優しくて賢い王様でしたのに、と、祈るように天井を仰ぐキラ。
「お側仕えでありながら何の役にも立てず、申し訳ございません」
大臣は話を聞くと、気落ちしながらも責めることなく彼女をねぎらう。
「だが、何としても王に元気を取り戻して頂かなければ。このままでは国が傾く」
再び床に視線を落とし、どうすればよいのかわかりかねているようだ。
エイトが何と声をかけたらよいのか迷っていると、大臣がこちらに気づき、キラも振りむく。
「まあ、旅のお方っ。もしや我がアスカンタ王にお会いにいらしたのですか」
「ええ。ご挨拶にと」
「そうでしたか。残念ですが、我が王はこの2年というもの、どなたにも会おうとはなさいません」
キラいわく、夜にはここへ降りてくるが、誰の言葉も耳にはいらないという。言葉の代わりに、一行はお互いの顔を見合わせてしまった。
「信じられぬと言うなら、日が暮れた後この玉座の間に来て、ご自身の目でお確かめください」
消え入りそうに口にすると、再び大臣と話し始める彼女。王が悲しみの底に沈み続けていれば、国の存続も危ういことは、エイトにもわかる。だが、自分たちには、ドルマゲスを倒すという目的がある。冷たいが、他国の問題に関わっている余裕がないのも事実。
とはいえ、力になってあげたい、と思うのも彼の本心だった。
城に勤める人たちの話では、キラはこの2年間、ろくに休まず働いているという。そんな彼女を気の毒に思っていたり、体を心配する人も多い。
夜になれば会うことができるそうなので、何かが動きだすかもしれない、と、希望形になってしまうが、他にできることもないため、宿で休んで様子をうかがうことに。
「あー、イライラする。大の男が何よっ、王妃様が亡くなったの、もう2年も前なんでしょ。それをウジウジと」
そりゃ、私だってサーベルと兄さんが死んだ時は、すごく悲しかったけど、とゼシカ。
「ま、家族と最愛の妻とじゃ色々違うってことさ。そのうち恋をすればわかる。どう、教えてやろうか」
「けっ、こ、う、で、すっ」
「や、休む前にもう一度街を見てみようか」
上がってしまったテンションが外にあふれ出さなければいいけど、とエイトは心配になってしまった。
武器屋と防具屋をのぞいてみると、想像よりもよいものがそろっており、今まで戦ってきたおかげでゴールドもたまっている。
ヤンガスが以前、大陸の南のほうはもっと強い魔物がいるといっていたのを思い出したリーダーは、思いきって全員の装備をそろえることにした。
弟分には鉄のむねあてとターバン、令嬢には皮のドレス、元兵士にははがねの剣とせいどうのよろいを購入し、それぞれ装着してもらう。ちなみにククールはこのままでよいと辞退した。
また、道具屋からは薬草類とチーズを作るために必要なレンネットの粉を買い、道具袋にしまいこんだ。
「そういやあ、近くの丘に牛がいたでげす」
「そうだっけ。あ、じゃあ牛乳しぼれるかな」
「もちろんでがす。アッシもよく絞って飲んでたでがすよ。ひとっ走りしてくるでげす」
「僕も行くよ。ふたりは宿で休んでて」
「お、さすがエイトだな。気が利くじゃねえか」
「へ?」
「冗談じゃないわよ。私も行くから」
「つれないな。君とオレの仲だろ」
「勝手に言ってなさいよっ」
行くわよエイトッ、と怒りながら彼の手をとるゼシカ。少々のんびり屋の彼は、転びそうになりながらも連れて行かれてしまう。
「あ、兄貴~、待ってくだせえっ」
「ったく、かったりいな」
結局一行は、全員で牛乳を手に入れたのであった。
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