背後にたっていた腐った死体とミイラ男を撃破すると、一行は一度頭の中を整理する。ここは、伝染病が流行って閉鎖されたこと。そして、長き年月にわたって放置されたせいか魔物の巣窟になっている、ということだ。
もちろん、ここに来た理由はいうまでもない。
「思ってたとおりだ。入ったときから嫌な感じがしたからね」
「さすがは兄貴でがす。気をつけて行きやしょう」
「そうね。急いでオディロ院長のところに行かないと」
うなづきあった3人は、先を急ぐことにする。
エイトを先頭に敵の気配を読みながらも、ヤンガスの助言を取りいれながら進む彼ら。こういう遺跡には宝が眠っているというので、これからのことを考えて、同時に回収することにした。
途中で遭遇したあばれうしどりやがいこつ、しつこいハエ男などを撃破していく。道中、せいどうの盾を手に入れたエイトたちは、リーダーが装備することに。
近くにある扉を開けて進むと、誰もいないはずの扉が、バタンッ、と閉まった。男2人が体当たりして開けようとするもびくともしない。
「閉じ込められたか」
「うへぇ、こりゃホントになにかいるでがすよ」
「だから、大きな図体で怖がらないでってば。抜ければいいじゃないのっ」
確かに、とエイト。だが地図を見ると、上り階段があったので、最悪歩いて脱出できることを確認した。リレミトは自分だけではなくゼシカも使えるので問題ないだろう、と。
さらに下へと降りると、以前は寝室だったのだろうか。家具が散乱しており、床が不気味な色に変色してしまっている。
「こりゃ毒でがす。兄貴、足元には気をつけてくだせえ」
彼いわく、これに触れるとダメージを受けてしまうそうだ。見た目が見た目なだけに、2人も納得する。室内にできてしまった理由も、エイトには何となく察しがついてしまった。
「ヤンガス、先頭を頼む。魔物が来たらすぐに知らせて」
「へいっ」
エイトは弟分に先導を任せると、ゼシカに手を差し伸べる。
「大丈夫だろうけど、ひとりだと危ないから」
「え、あ、ありがとう」
うわっと、と口にし、横たわった足場をつま先でつついて渡るヤンガスを見ながら、ゼシカ嬢は照れながら手をとる。グラグラと揺れる足元は、今にも落ちてしまいそうだった。
運よく魔物と出会わずに渡った一行は、一部を除いていつも通りに歩きだす。今度は上り階段が現れ、ようやく近づいてきたのかと思われた。
元山賊が繰りだした会心の一撃でしとめたメタルスライムを含め、入り口から相当数の魔物を相手にしたあと、さほど長くない一本道の先に古びた両開扉がうかがえる。
顔をしかめたエイトは一度止まり、仲間の持ち物と体力の状態を確認。注意を促したあと、うめき声が聞こえる部屋へと侵入する。
「な、何よあれ」
「ガイコツ神父がいるでがすよっ」
「おおおヲ、おヲォォおオ」
人骨頭の杖を手にした亡霊は、苦しみながら、
「神ハ、いずコに、おらレル。この苦しみハ、イツマデ続く」
死者のどうこくに、エイトは視線を落としてしまう。
「死ンだ死んダ死んだ死ンダのだ。ミナ苦しミながら、死んデ行ッたっ」
ヤンガスとゼシカも、悲痛な叫びに耳をふさぎたくなる。
「あノ恐ろシぃ病ガ我ラを、コの修道院ノすべテを、死に包ンだ。苦シイ、クるしイ、クルシイ、く」
突然笑いだす相手。
「我が苦シみぃッ、我等ガ苦シミっ、おマエにも味わワセてやるゥゥゥッ」
と絶叫しながら襲いかかってきた。
「仕方がない、応戦しよう」
それぞれの武器を抜き放ち、相手を攻撃。しかし相手は死霊系なため、十分な傷を負わせることは難しい。案の定、大して効いていないようだ。
「ウググ」
なげきの亡霊が天井に両腕を振り上げると、地の底からくさった死体とがいこつが現れる。3対3となり、人数上は互角。
しかしこちらには疲労があるので、その分不利といえるだろう。
エイトはブーメラン、ゼシカはイオで全体攻撃、ヤンガスは直接攻撃でなげきの亡霊へと立ちむかう。
ヤンガスがかぶとわりを放って脳天を直撃させると、相手はひるみ、身の守りを忘れる。
一方がいこつがエイトにむかってくるが、盾で剣を防ぐと回し蹴りを叩きこみ距離をとった。すかさずブーメランを投げて追撃。
対するゼシカは、リーダーからつかず離れずの位置で力をためる。その後となえた呪文から起こった爆発は、がいこつにはひとたまりもなく、くさった死体には相当のダメージを与えた。
2人の攻撃は要の亡霊にもいきわたり、足元が若干ふらつく。目を光らせたヤンガスは、もう一度かぶとわりをお見舞いした。
全員がいける、と思った矢先、なげきの亡霊はベギラマをとなえた。杖からほどばしる閃光はパーティーの体力を激しく削る。
「くっ」
渾身の力で投げたブーメランはがいこつを倒し、少し時間を稼ごうとしたとき。なげきの亡霊は再び手下を呼び寄せてしまう。
「ゼシカ、上やくそうで君とヤンガスを回復してくれ。奴らは僕が引き受ける」
「そんな体じゃ無理よっ」
「だから早く回復して欲しいんだ」
頼んだよ、といいながらホイミで自身を回復させるエイト。ヤンガスに下がるように伝えると、盾をはずし、すべての攻撃に備えて身構えた。
敵はチャンスと受けとったのか、彼に攻撃を集中させる。何回か攻撃を受けるたびに1歩、2歩、と下がっていくエイト。
4歩目にさしかかろうとしたとき、がいこつにヤンガスの体当たりが炸裂。片ひざをついたリーダーにゼシカが駆け寄り、上やくそうを施す。
「ありがとう。君は平気だね」
「ええ。あなたが時間を稼いでくれたおかげでね」
「この野郎、好き勝手やりやがってっ」
石のオノを振りかざし、いつの間にかがいこつを倒していたヤンガスに、なげきの亡霊に集中するように指示するエイト。両方いなくなったら呼びだすことがわかったからだ。
今度は一行からの集中攻撃を受けたなげきの亡霊は、さすがに耐え切れず地面へと倒れる。
「おおヲぉお。か、神ヨ、神よおぉぉオ」
天へと手を掲げると、ようやく許しを得られたのか、光が差しさしこむ。待ちわびただろう温かな光は、亡霊の顔を照らした。
「いま、御許に、参りマ、す」
全身が白く包まれると、亡霊の体が消えていく。エイトには、心なしか笑っているように見えた。
初めから何もいなかったかのような静寂に包まれると、コツン、と、小さな金属音がした。元神父がいたところに歩いていくと、ほこりまみれになったロザリオを発見。指でロザリオをなでると、この修道院でゆいいつ希望を捨てずにいたのだろう姿が目に映った。
「本当に神がいるのなら、どうして苦しむ人がいるんだろう」
「兄貴、どうしたんでがすか」
え、と振り返る。彼の手にあるロザリオを見るやいなや、瞳が輝く。
「金のロザリオでがすよ。売れば旅の足しになるってもんでげす」
「そ、そうなんだ」
とりあえず外によう、と提案しながらしまうエイト。そんなやりとりを、ゼシカはぼんやりと見つめていた。
奥に進むとはしごがかけられいる場所へとつく。どうやらここが最終地点のようだ。
はしごを上ってエイトが天井を動かそうとしたとき、待っていたかのように動きだすと、新鮮な空気が流れこんでくる。空を見上げると、星が満点に輝いていた。
「どうもいやな風だ」
兄貴、お気をつけて。なんだかいやな予感がするでげすよ、とヤンガス。最後に上り終えたゼシカが立ち上がると、出口が勝手に閉まってしまった。
「やっぱりあの抜け道は、聖なるチカラで守られているのね」
だが、その力はあくまでここだけにしか作用しない様子。エイトたちは急いで建物の表側に移動した。すると、橋の上で立っていたはずの聖堂騎士団員が倒れているではないか。
駆け寄ったエイトは、ほっとひと息つく。
「気絶してるだけだ、大丈夫」
無事をみると、一行は急いで鍵のかけられていない扉を開け中にはいる。床で同じように横になっている団員たちは体をピクリ動かし、オディロ院長があぶない、と告げる。
右手にあった階段を駆け上がると部屋があった。そして、階段から回りこんだ奥に院長のベッドが。
さらに、その足元の上には、怪しい道化師の姿が浮かんでいた。
だが、こちらが駆け寄る間に怪しい笑みを残しながら消えていく。
「誰かそこにいるのかね」
のそり、と起きあがった老人は、頭を振りながら、
「う、ん。何だ、この禍々しい気は」
周囲を見渡し、エイトたちを視界に入れると、わたしに何か用かね、と聞いてくる。
「僕たちはあなたが怪しい道化師に狙われていると聞き」
エイトが事情を話している途中、複数の聖堂騎士団が部屋へ駆けこんでくる。取り囲んだ一行に対して構えると、
「いたぞ、こいつらだ」
「オディロ修道院長のお命を狙うとは、なんたるバチあたりめっ」
「ち、違う、そんなんじゃない」
「これは、なんの騒ぎだね」
リーダーの口が動くより早く、集まった騎士団員の体が動く。開けられた道からは、マルチェロが姿を見せ、院長の前にひざまずいた。
「オディロ院長。聖堂騎士団長マルチェロ、御前に参りました」
「おお、マルチェロか。一体何があったのだ」
「修道院長の警護の者たちが次々に侵入者に襲われ、深手を負っております」
何と、と驚いているオディロに対し、彼は、昼間からうろついていた賊を今ここに捕らえた、というではないか。
「どうにか間に合いましたな。ご無事で何よりです。もしやと思い、急いで駆けつけてようございました」
「おいコラ、人を勝手に賊扱いすんじゃねえっ」
「そうよ、言いがかりじゃないっ」
「黙れ、黙らんと切り捨てるぞ」
「いや待て。その方々は怪しい者ではない」
去ろうとするマルチェロの背中に、オディロ院長は左手でストップをかける。しかし、さすがの騎士団長も現状を察し、
「何をおっしゃいます、現に見張りが」
首を動かし、エイトと目を合わせる修道院長。数回まばたきをしたエイトだが、意図がわからなかった。
長い口ひげを蓄えた修道院の長は、
「かようにも澄んだ目をした賊がいるはずはあるまい。何かの間違いだろう」
「しかし」
マルチェロは赤いバンダナをした青年をにらみながら反論しようとしたが、言葉がでなかったらしい。
「わかりました。ただ、どうしてこのような夜更けに院長の元を訪れたのか、それだけははっきりと聞いておかねばなりません。よろしいでしょうか」
「ほっほっほ。お前は心配性じゃのう。わかった、それなら良かろう」
「ありがとうございます」
団長は一行を見ると、
「さあ、行きましょうか皆さん」
といいながら鼻で笑った。
尋問室に連れてこられたエイトたちは、マルチェロに院長を殺害しようとしたことを認めるように詰め寄られる。もちろん、反抗している彼らだが、マルチェロは一向に聞き入れようとしない。
長い間平行線のままでいると、しびれを切らしたのか、ヤンガスが拳で机をたたきながら、
「いい加減にしやがれ、ぬれ衣だっていってんだろっ」
続いて両手で追撃するゼシカは、
「そうよ。あんたたちの仲間に頼まれて、院長の様子を見に行ったんだって、さっきから言ってるじゃないっ」
だいだいどうして私たちがこんな目に遭わなきゃならないのよ、と続ける。
エイトは怒りを顔にだしながら、右手を腰に手をあてていた。
むかい側に座っているマルチェロは、院長は甘すぎることを指摘し、
「お前たちが犯人でないなら部下たちは誰にやられたのだ。私の目は誤魔化せんぞ、白状するまで」
と、目を細めながら口にする団長の話を、ノックオンがさえぎった。その音にエイトは扉へと振り返り、マルチェロは、誰だ、とうかがう。
すると、扉の向こうから、
「団長殿がオレを呼んだんじゃないですか」
と、聞き覚えのある声がした。少し間をおき入るよう命令すると、近くにいた聖堂騎士団員が扉を開ける。通路には、赤い騎士団員がおり、一礼をしながら入ってきた。彼が団長の隣にいくと、お前に質問があるといわれる。
「その前に、修道院長の命を狙い部屋に忍び込んだ賊を、私は先ほど捕らえた」
顔を再びエイトたちに向けて、こいつらだ、と言い放つ。
「我が聖堂騎士団の団員たちが6人もやられたよ」
ヒュウッ、と口笛を吹くククール。そんなふざけた態度が気にいらないのか、団長はにらみつける。視線を感じた弟は、おっと、という感じで視線をそらした。
「まあいい。問題はここからだ」
聖堂騎士団団長は、院長の周辺を騎士たちが厳重に守っているゆえに、余所者が入りこめる隙などない話した。ただし、例外があり、誰かが手引きしたのなら話が別だという。
あごに手を乗せて考えている格好をしているククールに、彼は胸元から何かを取りだしてみせた。小さな何かを見るなり、一瞬だけ前者の目が変わる。
「こやつらの荷物を調べたところ、この指輪が出てきた」
「へえ。それはそれは」
「聖堂騎士団員ククール、君の指輪はどこにある。持っているなら見せてくれ」
これで何とかなるかも、と思った一行は、さらに窮地にたたされた。
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