「縮んじまってるじゃないか。ピクル、大丈夫か」
「な、何とかだいじゅ、ぶ、っち」
全然ダメだ。言葉が途切れ途切れになっている。
「バードマン、どうすればいいんだ」
「氷庫の中にある氷を突っ込んで大人しくしてれば元に戻る」
「わかった。ほらピクル、跳べるか」
「う、うん。いくっち」
でてきたケイシャがピクルの背中を押しながら雪を分ける。中にはいってから適当な氷を拾ったり砕いたりしながら、ピクルの体に入れてやった。
くっそー、寒い。寒いし手が痛え。鼻水が凍りそうだ。ううう。
胴体と頭にそれぞれ氷の塊を入れていく。ケイシャも同じようにし、気がつけば俺の体は氷の粒だらけになっていた。
「あとどれぐらい必要だ」
「とりあえず大丈夫っち。ありがとうサクヤ」
「助かったっち。ありがとうっちっ」
冬の大陸と同じぐらいの高さで跳ぶ二体。後は様子を見ながらたすことに。
部屋に戻ると、温かい飲み物と食べ物が用意されていた。
「ご苦労さん。さあ、ちょっと飲み食いして休んでくれ」
「サンキュ。ううう、ざむい」
「だっはっは。大変だったな」
ピクルはしっかりしているが、慌てん坊なところがあるので良く転ぶからな、とバードマン。
いや、それって笑い事じゃないだろ。命に関わることだよな。
おそらく勝手知ったる仲なのだろうが。シャレには聞こえなかった。でも、何だろう。
厳しさの中にある優しさや楽しさっていうのかな。うまく表現できないが、トゲの中でも温もりがあるように感じた。
毒々しいホットな飲み物を口にしながら、木の実だろうものを口に運ぶ。コウコからでてきてしばらくしてから、よい香りがしていたことに気づく。もしかしたら、食事時なのかもしれない。
まあ、誰が料理しているかなんて想像しないほーが身のためだ。
それはともかく、元気になった二体が踊りながら俺の周りをビョンビョン跳ねる。夏祭りの中心みたいになったが、元気になったピクルを見て安心する。
牛の丸焼きがお好きなバードマンと凍りついた牛の肉たちが勢ぞろいすると、それぞれの食べかたにあわせて食事を開始。
ああ、もちろん俺はフツーに食ったよ。巨大ステーキをガツガツって感じで。しばらく肉はいいや、って思ったね。
んなことはいいのだけれど、食後のデザートを食べて休憩した後、俺たちは季節が止まった原因調査を再開。いささかゆったりしているのは、まだ腹の中に食べ物があるからだろう。少なくとも、食った後すぐ動く親父とは大違いである。
「ボクっちが調べたところ、桜の木に柿がなってたんだっち」
「そうなのか。てっきり誰かが移し替えたんだと思ったよ」
何でそうなるんだ、バードマンさんよ。
「しかも大きさが小さいんだっち。まるでどんぐりみたいだったっちよ」
「おいしかったっちか」
「すっぱかったっち」
そこの雪ダルマたち、そーゆー問題じゃねえっつーの。
えーっと。気を取り直して。
今まで見たところ、現実社会では不可解なことばかり起こるものの、自然現象に関しては同じだと思う。ということは、桜の木に柿なんぞ、本来ならならないはずなのだ。
妖しさ満点なので現場に直行することになった。俺とスノーマンたちは出かける準備をし、バードマンは仲間を連れてくると外出。一人につき一人しか乗せられないからだ。
というか、雪が乗ったらベチャベチャにならないんだろうか。
二人一組になって空を翔る俺たちは、問題の場所へとやってくる。並木道のように並んでいるわけではなく、上から見たらまるでオセロのコマが白黒きれいに並んでいるような光景だった。
もちろん、色はピンクと緑である。
絶景を眺めていたい気持ちはあるが、時間は止まってはくれない。
足がいうことを利く状態になると、それぞれの頭部は自らを覆う影の創設物に向けられる。見上げると、確かに満開に咲いている桜の花の間に、小さいオレンジ色が散乱していた。
とくに規則性はなく、いたるところにぽつぽつとある感じだ。
「問題の木は、並木道の先だっち」
この辺じゃなかったのかよ。
「その辺は道が狭いから飛んでいけないんだよ。ここから遠くはないから安心しな」
どうやら顔にでてたらしい。まあ、近いならいいか。
バードマンを先頭に、ピクル、ケイシャ、俺の順番で歩き始める。先の二体を見ながらのほうがよいとのことになったためだ。理由は察してもらえるだろう。
彼のいうとおり、俺だけならおそらく五分でつくところに桜並木道があった。この辺りから散り始めるらしく、今が見ごろなのだとか。
ああ、確かにきれいだな。ここでポテトチップスでもつまみたいよ。
「そうだっち。じいちゃんから聞いたんちが」
進みながら、ふとピクルがバードマンに向かって、
「季節が止まってからみんなが急死するって聞いたっちよ」
「そうだな、そういやあ同じ時期に発生したよ」
思いっきりコケそうになる俺。
バードマンいわく、突然死してしまうのは今のところ大きな恐竜だけだという。他にもおかしな傾向があり、大人しい恐竜たちが怒りっぽくなり、暴れてしまうことがあること。徐々に数も増えており、仲間内でケンカしないように距離をとっているということ。また他にも巣穴に引きこもってしまい、狩に出ない恐竜たちもいるらしい。
固体によって症状が違えど、何かしらの異変が起こっているのは間違いないようだ。命を落としてしまうのは、その症状が続いた後がほとんどのよう。普段は和気あいあいの恐竜たちが、今はひっそりと暮らしているという状態なのだとか。
俺にはちょっと想像しがたいが、前に会ったでかい生き物がこの大陸の動物たちともじゃれあうなら、きっと楽しく暮らしていたのだろう。
ちなみに、狩りの相手は、牛だという。何でも、丸ごと食っちまうとか。
しばらく沈黙が続くと、目的の桜にたどり着く。縄文杉のように巨大な木は、花が横にも広がっており、遠くからでは巨大なピンク色のキノコに見えるかもしれない。
俺たちは今、その足元にいる。散り始めていない桜はきれいだが、あからさまに不要な実がついていた。どんぐりみたいな形をした柿、である。
「本当にすっぱいな。食えたモンじゃない」
いつのまにもいでいたのか、バードマンは口に含んでいたものをペペッっとはきだし、舌をだしている。さすが野生動物だ、考えるより行動するんだな。すげえ。
って感心している場合じゃなかったな。どんぐり、いや、紛らわしいので柿にしておこう。問題の柿は木にたくさんなっているが、足元にも大量にあった。ひとつ拾い上げてみると、下のほうが痛みかけている。
他にも異常がないかを回して見ていると、六つの視線に気づく。
「すごいっちね、サクヤ。簡単にまわしているっちよ」
「やっぱりニンゲンは器用なんだなあ」
「オラちゃんたちもそうっちが、もっと上手っちよ」
緑色と黄色、そして赤色の瞳がランランと輝く。
お、俺そんな尊敬されることしたかな。た、たしかに一人で観察できるのは俺だけだけど。
「ところで、どうして地面にも柿が落ちてるんだろ。やっぱり熟してかな」
「だと思うんだがな。色はうまそうなんだが、そうじゃないし」
この柿にとっては熟れどきなのかもしれない。ただ、現象が現象だから、もちろんあてにはならない。
俺はもう少し桜に近づいて探ってみようとしたところ、ふと、ある一面に目がいった。そこだけ変わっている、ということじゃないが、どうも普通の状態じゃない。
というのも、柿が落ちている周辺、おそらく数センチぐらいのところだけ、草の色が違う気がしたのだ。
バードマンに聞いたところ、木の実は土にかえるから放っておいている、とのこと。ショクモツレンサって奴なんだろうけど、もうひとつ、妙に感じることがあるらしい。少し遠いところで、その辺の草を食べている牛がいるのだが。
「何だか変だっちね。いつもより草を確認しながら食べてるみたいっちよ」
と、ピクル。そうなのだ、場所を確認してから移動しているように見えるのである。
もちろん、俺自身は牛の生態に詳しくないから何とも言えないが、この世界の住民が違和感を感じているのだから、きっとどこかがおかしいのだろう。
「よく見るとそうだな。普段より注意深く動いてるように見える」
バードマンもスノーマンと同じことを口にする。ということは、ほぼ間違いないだろう。なら、踏まえて考えてみようか。
牛のことを知るために、彼らに近づく。まだ俺の目には、牛の全身が移っているときにほんの一瞬動きが止まったが、気にせず草をもしゃもしゃを食べ始めたようだ。
風に乗ってきたのだろうか、こちらにも柿が落ちている。この辺りは木の下ではないので、草の様子が日の光によってよく映っているよう。
一番近くにいる牛の動きを観察しつつ、移動したところを見計らって食べた後を見てみると、柿が落ちているところは、やはり色が変わっている。まるで漂白したかのようにっ緑色が抜けていたのだ。
「やっぱりこの柿に原因があるのは確実だな」
「でも、どうしたら柿がなくなるっちか。全部もぐっちか」
「ピクル、それじゃ時間かかるっちよ。生えさせてるものをとり除いたらどうっちか」
「ってことは、木の近くに元凶があるもしれないって事だな。サクヤ、お前木を上れるか」
「上れると思うけど、こんなデカいのは上ったことないって」
それよりまずは周辺から見ようよ、という俺。バードマンは空を飛ぶから、きっと上空から見るのが普通だからだろう。
つーか、体力ないからカンベンしてほしいのが本音だけどね。言わないけど。
それはともかく、原因となっている桜の木に戻った俺たちは、なぜかカバンに入っていたランプを使って柿の様子をうかがう。同じ状況だったことを確認すると、今度は手の届く範囲でなっている桜を枝を見て、柿の状態を見た。
幹がでかいので俺とスノーマンたちは地上から、バードマンは上側になっている枝の間をそれぞれ調査していると、後者があるものを発見。一点が異常に盛り上がっていて、柿が木に埋め込まれている場所があったのだ。
誰が目にしても間違いないと確信できるこの場所は、人の手では届かない場所にある。おそらくビル五階分の高さだろうか。なので、バードマンに乗せてもらい、俺が現場に行くことに。雪の大陸と同じように手を触れれば、新しい本がでてくると思ったからだ。
そして、元凶の元にたどり着きコブになっている箇所にそっと手をそえると、そこが光をおびていく。
やがて光は外側へと広がっていき、巨大な桜の木が輝きだした。
あまりのまぶしさに、俺たちはスノーマンのところへ戻り、さらに木から距離をあける。
全体が見渡せるところまでくると、光は木全体をを包みこんでいることに気づく。光は少しずつ小さくなっていき、まるでホタルの光のように俺たちのところに集まりだした。
最終的には俺の手の上に収縮していき、端々のない本になった。今まで回収してきたのと同じものだ。
光は役割を終えたのか、木々の周りからも消えていく。
そして、全てが静まりかえり、風景が普通に戻ると、光の変わりに花の爆発が起こった。今までの不安を吹き飛ばすかのように、桜の花びらが宙をまったのだ。
「うわ~っ、きれいだっち。今まで見た中で、一番きれいだっちよっ」
「すごいな。ここまで見事な桜吹雪ははじめてだ」
「きっと喜んでるんだっちよ。痛いのがなくなったっちからっ」
本当にきれいだ。枠のない映画館のスクリーンいっぱいに広がる桃色の花びらは、自然の雄大さを教えてくれる。
だが、小さな命のかけらたちは、突然吹き荒れる突風に巻きこまれ様々な方向に飛んでいく。
風を起こしたのは、恐竜たちの羽だった。いつの間にか複数のやっていきていた多数の恐竜たちが空を覆っており、順番に地面へと降り立つ。問題が解決したことに気づいたのか、桜吹雪に感激しているのかはわからないが、全員で地団駄を踏みだす。
ちょ、ちょっと何やってんだ。暴れんじゃねえよっ。
「あははは。そうかそうか、うれしいか。そうだよな」
そりゃ踊りたくもなるよな、とバードマン。踊ってるのかよ、どーみたって暴れてるだけにしか見えないんだけど。
おれは何度もしりもちをつきながら、しまいには立ち上がることをあきらめる。ピクルとケイシャは器用にも、揺れる地面にあわせながらジャンプしているようだ。すごいリズム感である。
嗚呼、空にむかって吠え、羽をはばたつかせるをプラスした大騒ぎ。目の前に恐竜時代が再現されている。
「何してるっちか、サクヤ。サクヤも一緒に踊るっちよ」
踊れるかボケッ。
「あはははは。サクヤ、とりあえずスノーマンたちと共に戻ったらどうだ。まだ他の大陸もあるんだろ」
「そ、そうだな。そうするよ」
助け舟が来るってこういうことなのだろう。いや、喜んでるのはうれしいことなんだけど、どうもね。はは。
恐怖のほうが先に来るのは仕方がないと思うよ、うん。
バードマンの言葉に従い、俺は大陸に戻ることを決める。ピクルとケイシャは名残惜しそうにしていたが、この世界を救うために動くことを選んだよう。俺の手伝いができることのほうが光栄だとか言ってるからさ。
それに伴い、気恥ずかしさとうれしさと、何ともいえないプラスの感情がわきあがってくる。それにやる気というか、何とかしてあげたいし、なんだかできるような気持ちになる、不思議な気分になる。
俺はバードマンの背中に乗りながら、冷たい空気になっていく遠くの空を見つめていた。
長老雪ダルマのところにつくと、
「サクヤ、後は頼んだぞ。全てが終わったらまた会おうじゃないか」
とっておきの牛料理を出してやるよ、とバードマン。苦笑いで礼をいうと、右の羽でバシバシと背中を叩いた。痛いことこの上ないんだけど。
「じゃあな英雄。お前ならきっと解決してくれるって信じてるからな」
おそらく鳥人間にとっては最高の笑顔を残して飛び立つ彼。コワモテはともかく、頼りがいのある兄貴、といった感じだったな。
「おお、戻ったっちか。ご苦労様だっちな」
いつの間にか外にいた巨大雪ダルマ。小さな雪ダルマは長老の持ちに跳ねていき今までのことを簡単に報告する。
「詳しいことは家の中で話すことにしてっちな。サクヤ、今回も助かったっちぞ」
「いや、何にも役に立てなかったよ。俺」
「そんなことないっちよ。ささ、早くお家にはいろうっち」
フォローがうまいな、ピクルは。本当に何もできなかったのに。
だが、このまま立っていたら凍えてしまうので、早く部屋に入ることに。温かい飲み物をいただきながら、長老雪ダルマと話をする。
「この次は夏の季節の大陸ですよね。俺一人で行ったほうがいいんじゃないですか」
「ふむ、心配してくれるのは嬉しいっちが。サクヤはこの世界に不慣れじゃろっち。そんな君を放り出すのは忍びないっちな」
「でも、スノーマンじゃあキツいんじゃ」
コンコン、とノックがするとオラウータンとともに現れたピクル。今の彼は、雪の肌を露出した状態だった。
「じいちゃん、夏服どこだっち」
「ん、奥の部屋になかったっちか」
「ないっちよ。倉庫っちか」
「どこじゃったっちかのう」
まともな会話のはずなのに、なぜかそう聞こえないのは俺だけか。
「どこかにまとめておいたのは間違いないんちが。オラちゃん、一緒に探しくれるっちかのう」
「はいはい。わかったわよ~」
やっぱりわからなかったっちねえ、とピクル。大丈夫なのか、本当に。
「話を戻すかのっち」
「そうっち、サクヤッ」
バターン、と、ドアを壊すんじゃないかという勢いで開けるピクル。おそらく体当たりしたんだろう、顔がちょっと欠けている。
「ボクはついてくっちからね。約束っちよっ」
「でもピクル、次は夏なんだぞ。溶けちまうんじゃ」
「心配いらないっちよ。今度はもっと武装していくっちから」
武装って。何しに行く気なんだお前は。
「そういうことじゃっち。ピクルもやる気あるし、十分準備させるから連れて行くとよいっちよ」
すぐ終わるっちからねっ、といい、ピクルは部屋を後に。その後オラウータンがそっと扉を閉めた。
ポツン、と残された俺は、
「時間がかかるじゃろうっちから、本でも読んでいたらどうっちかの」
はあ、と生返事をしたあと、やることもないので、以前読んだ絵本を手にし、ゆっくりとめくる。
だが、不思議なことが起こった。同じ絵に同じページんもはずなのに、何故か違って見えたのだ。
何といえばよいのかわからないが、前は嫌な気分になったところもあったが、今はスーッっと落ち着いて見ているような感じがする。
「不思議そうな顔をしとるっちのう」
「あ、いや、何か違う物語に見えて」
「ほっほっほっ。心が変われば、皆そうなるっちよ」
よくわからない長老の言葉。何か含みがありそうだが、何分いつも笑顔なのでよくわからない。
それから二周回り終わったところだろうか。ピクルの準備ができたと聞き部屋に行くと、俺の不安は想像以上に膨らんでしまったのであった。
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