東京異界録 第3章 第22録

 訳のわからない漫才コンビが立ち去った後、私たちは再び校内を巡回し始める。私、カーラ君、明日香ちゃん、プリムの四人で横一列になって移動するには少々狭い廊下を歩いている、が。
 「考えてみれば食堂が機能してるワケないわよねぇ」
 何か食べたいわ、とプリム。何故か持っていた彼女の棒のついた飴は、明日香ちゃんとお揃いの味。確かにこんな事になるんだったら、私もちゃんと朝に買い込んでおいたんだけど。
 「加阿羅(カーラ)ちゃん、何か出してくれない」
 「あのね。おれは四次元ポケット係じゃないし、霊力の無駄になる」
 「いいじゃない、ケチィ」
 唇を数字の三の形をしながら抗議するプリム。結構わがままである。
 自由奔放な女性はともかく、明日香ちゃんはキョロキョロと周囲をうかがってばかり。
 「が、学校って、広いんですね」
 「うーん、中学校よりは広い、かな。少なくとも卒業したところに比べたら、だけど」
 「そう、なんですね」
 まるで初めて校舎に来たみたいな態度だ。確かに、この学校に来るのは初だと思うんだけど。
 何て言うのか、今まで見たこともない好奇心のまま見ている気がする。
 「主人(マスター)、楽しんでるかしら」
 「うん。戦いはイヤだけど、探検はたのしいっ」
 と、歳相応の笑顔で答える明日香ちゃん。慣れている人にはどもったりせずに話せるようだ。
 まるで昔の私みたいね。今でも人見知りするけど。
 「カーラ君。カヌス君、大丈夫かな」
 「心配ないって。あの程度ならすぐに治せるから」
 「なら、いいんだけど」
 一緒に行動するようになって以来、彼らがあれ程の手傷を負わされたのは初めてだ。そんな相手に、どうやって立ち向かえばいいんだろ。少なくとも、人間の手におえる存在じゃないのは間違いないし。
 考え事をしていると、隣で、プッ、という音が聞こえる。上からである。
 「楓ちゃん、顔に出ているって」
 「えっ。な、何が」
 長男に、その女とどう戦えばいいのか考えているのだろう、と言われた。
 「加濡洲(カヌス)程じゃないけど、君もわかりやすから」
 「そんなに顔に出るの、カヌス君」
 「ああ。単純すぎて逆に面白い」
 酷い人がここにいるし。笑いながら言うことじゃないでしょーが。
 「心配しなくてもちゃんと考えているから。君は自分の事に集中してほしい」
 キーマンだって事を忘れないようにね、と彼。その単語、随分昔にも聞いた気がする。
 それに、この戦いが終われば、今まで疑問に思ってたことも解消するかもしれない。私の力が一体何なのか、って。
 たかが一人の人間にここまでするなんて、よっぽどの事情があるとは思うんだけど。
 ふと、カーラ君の足が止まる。他の人も歩きをやめると、彼の顔を見た。
 見た目は男子高校生である人は、校庭に視線を送る。だが、すぐに戻した。
 「このまま北校舎に行こう。まだ誰も行っていない」
 「思ったんだけど、回るのって校舎だけよね」
 「たぶんね。後は状況次第」
 ま、まあ、そうよね。怨鬼(おんき)たちがいるところだと思うし。
 とくに行きたい場所もなかったので、進言どおりの場所に移動することに。こちらにはコンピューター室や化学実験室、図書室や中央職員室などがある。移動教室や部活などがなければ、一般生徒はあまり来ない場所だ。
 ちなみに私たちの教室は東校舎で、西校舎は学部が違う生徒の教室がある。
 難なく北校舎との連絡通路を渡り終えると、雰囲気も今までとは変わらないようだった。
 怨鬼(おんき)や怨霊も相変わらずだし。
 だが、家庭科調理室の前には、またマンホールが現れていた。今度はあらかじめ見えていたのだが。
 「また厄介なものを仕掛けて」
 カーラ君が前に出ると、足元がおぼつかなくなった。視線を落とすと、足場が浮かんでいるではないか。
 「戦い辛いが、我慢してくれ」
 「加阿羅(カーラ)ちゃ~ん。まさかとは思うけど、アレって」
 「そのまさか。飲み込まれたらほぼ確実に死ぬから気をつけて」
 サラッと言うな、サラッとっ。
 そう突っ込もうと思った矢先、穴から黒い何かが現れる。まるでもぐら叩きみたいに、ニュッと出てきたのだ。
 『ウ、ア、ア。エサ、エサヲヨコセ』
 長男の手にレイリョクが集まる。すぐさま解き放たれた緑色の光弾は、相手をはじけ飛ばした。
 しかし、すぐに元に戻り、同じ事を地を這う声で口にした。
 「よっぽど腹をすかせているらしい」
 「どーすんのよ。私たちじゃあ干からびて終わりよ」
 「と言っても。潰すには相当時間がかかる」
 「に、逃げようよ。何だかあれ、気持ち悪いし、怖い」
 明日香ちゃんはプリムにしがみつき、お願いをする。彼女も少女を抱きしめて、相手を睨んでいた。
 「逃がさんぞ、拠り代」
 と、背後から若い男の声。振り返ると、三つの頭をしたデカい犬らしき生き物が。
 「そいつにはここ十年近く餌をやっていないんでな。凶暴化しているぞ」
 あいつよりもあんたのほうが凶暴なんですけど。
 言葉には出さないが、容姿もまとっている雰囲気も、犬のほうがもぐらっぽいのより格上だ。おそらく、レイリョクだか人の命だかを食料にしているのだろう。冗談ではない。
 せめて明日香ちゃんたちだけでも逃がさないと。私のせいで巻き込まれてしまっているし。
 じりじりと、私たちの背中が距離を縮めていく。
 「下手に手を出すな。危険だ」
 「じゃあどうすればいいのよ。逃げることもできないじゃないっ」
 そのときだった。犬の前足に、氷の矢が刺さったのだ。

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