エイトたちが聖堂騎士団のひとり、ククールの助けを借りて修道院の牢獄から脱出した直後。修道院から火の手が上がっていることに気づく。
「橋が、修道院が燃えている。なぜ」
は、と、彼は、あることに気づく。
「バカな。さっきの禍々しい気の奴が、再び。まさか」
オディロ院長が危ないっ、と叫びながら走っていくククール。
エイトたちは顔を見あわすが、うなずきあうと、急いで後を追う。
「きっと端を燃やして足止めして、その間に院長を襲うつもりなんだわっ」
「そうだね。橋が落ちる前に向こう側へ渡ろう」
「にしてもドルマゲスの野郎、何を考えてやがんだ。次から次へ人殺しばかり」
エイトには、この質問に答えることが出来なかった。彼の住んでいた場所を奪った道化師は、いったい何を考えているのかわからなかったからだ。
「捕まえてはっきりさせればいい。これで終わりにしないと」
リーダーの珍しく強い口調は、ふたりには同意だけ伝えられたようだった。
修道院の入り口に急行すると人だかりができており、それをかきわけ建物の中へ。入り口付近はまだ真相に気づいていない一般人や修道士がいたが、宿舎に近づくにつれ、水を探している者、突然の炎に怯えている者など、様々な反応をしていた。
問題の橋へと到着すると、人を覆えるほどはあろう火の壁が、両側に形成されていた。
目の前には、火の強さにたじろぐ聖堂騎士団の姿があるが、一行は構わず再度駆け抜けていく。エイトは扉の近くまでくるといったん止まり、仲間がいるかかどうかを確認。
その視線の奥には、赤き服を身につけた青年の姿が映った。
どういうわけか遅れてやってきたククールは、左右を見渡し、院長の寝室へと目がいく。
何かを感じたらしい彼だが、足元の状態が気になったのだろう。しかし視線が再びまっすぐ院長の部屋へとむけられる。そして勢いをつけた彼の体は、その想いのままに動きだす。
最後の最後で力尽きた木の板をけりあげ、ククールは何とか渡りきることに成功。
「平気」
「あ、あんたら」
「話は後だ。鍵がかかっていて、中に入れない」
「何だって」
住人は信じられないといった風に両手で扉を開けようとする。しかし、エイトの言うとおり、まったくびくともしない。
「いったいどうなってやがる。マルチェロの野郎もこの中か、くそっ」
ガンッ、と扉をける聖堂騎士団。だが、まるで悪魔が地の底からはいでるような気を放つ輩がいる以上、早急に対処しなければならない。
「あんたら、悪いがもう一度だけオレにチカラを貸してくれ」
緊急事態ゆえにもはや実力行使しかない。そのためには、ここにいる全員で体当たりすれば何とか破れるはずだ、と、ククールは説明する。
もちろん、エイトたちに断る理由はない。ヤンガスを先頭に、左右をククールとエイトが、最後尾にはゼシカが並ぶ。
呼吸を合わせ同時に体当たりをする一行。ヤンガス、エイト、ククールの順にぶつかり、直後にヤンガスの背中をゼシカが押した。
すると、さすがの鍵も力負けしたらしく、扉は勢いよく左右に開かれるが、部屋のすぐ傍には、血まみれで倒れている聖堂騎士団員の姿があった。
同じ身分の人間が駆け寄り、上半身を起こしゆすると、相手はうっすらと目を開ける。
「おい、何があったっ。しっかりしろ」
「よか、た、応援、が。はやく、院長さ、まを」
「どうしたっ、いったい誰が」
「やつ、は、強い。マルチェロさ、まも、あぶな、い」
そう口にすると、再び目を閉じてしまう。同等の立場の者は、そのまま静かにおろすと、こちらを見据えて、
「上だ、行こう。お前らも来てくれるな」
「もちろん。急ごう」
「すまない」
動きだそうとした瞬間、うわぁぁぁっ、と、悲鳴をあげながら転がってくる人体。青い服を着た騎士は、大怪我を負いながら、院長の心配して気絶する。
すぐに走りだすと、ククールはマルチェロが何かによって壁に叩きつけられる瞬間を目撃。その後、兄貴っ、と叫びながら本人に近づく。
「やら、れた。すべて、あの、道化師の、仕業」
たえだえになりながらも侵入者の狙いを阻止すべく、手を払いのけた弟に対し、
「命令だ、聖堂騎士団員ククール。院長を連れて、逃げ」
団長の言葉もむなしく、宙に浮いていた不気味な道化師は、杖を振りあげると、兄弟たちを吹き飛ばし背中と石壁を激突させた。
「クックック。これで邪魔者はいなくなった」
何て力だ、と、エイトは息をのむ。触れもせず魔法すらとなえていないのに、大の男をふたりも攻撃したのだから。
ヤンガスとゼシカも、床に倒れている聖堂騎士団員たちと道化師を、交互に見つめているようだった。
「くっ、オディロ院長には指一本、触れさせん」
「案ずるな、マルチェロよ。大丈夫だ、私は神に全てを捧げた身。神の御心ならば、いつでも死のう」
十字架を持ち、侵入者に対して毅然な態度を貫く修道院長。背中にいやな汗が流れるエイトは、何とか体を動かそうとするが、金縛りにあったように動けないでいた。
「だが罪深き子よ。それが神の御心に反するならば、お前が何をしようと私は死なぬっ」
十字架を掲げ、神のご加護が、必ずや私とここにいる者たちを悪しき業より守るであろう、と、となえるオディロ院長。その答えに、相手は不気味に微笑み、
「ほう、随分な自信だな。ならば、試してみるか」
「く、くそ。そうは、させる、かっ」
ククールとマルチェロは体を張ろうとするが、ダメージが響いて立ち上がることができないでいる。
エイトは体に渇をいれ、ブーメランを握りしめ投げつけた。そこに、ゼシカのイオが炸裂。爆音とともに手元に戻ってきたブーメランだが。
「うわっ」
「きゃあっ」
「兄貴、ゼシカッ」
エイトとゼシカも、聖堂騎士団員と同様に見えない力で攻撃され強烈な一撃を受ける。
「さて、蝿がいなくなったところで」
「この野郎、てめえっ」
杖をもち再度オディロ院長に怪しい視線を送る敵に、ヤンガスがオノで攻撃しようとした瞬間、
「待て待て待てーいっ」
と、トロデ王がヤンガスと道化師の間に割ってはいる。
「おっさん、いつの間にっ」
視線が魔物の姿をした王に注がれる。
「久しぶりじゃな、ドルマゲスよ」
「これはっ。トロデ王ではございませんか。ずいぶん変わり果てたお姿で」
見開いた目と怪しい口元の表情で、敬礼をするドルマゲス。ようやく姿を知ったエイトたちは、今までの想いを動きで表現しようとするも身動きが取れないでいる。
「うるさいわい。姫とわしを元の姿に戻せっ、よくもわしの城を」
「お、王。おさがり、くださ、い」
ひとりだけ雰囲気の違う動きをするトロデ王に嫌気が差したのか、ドルマゲスは杖に力を集め、闇色の光をまとった大きな光弾を発生。それを杖に宿らせると、トロデ王に投げつけた。
「ト、ロデ、王っ」
手を伸ばし防ごうとするも無意味だった。しかし、慈悲深き聖職者が悪行を許さなかった。その身をていして命を守ったのである。
何事もなかったかのように、ドルマゲスは右指を上にし、自分のほうへ曲げる。主に呼ばれた杖は、貫いた肉体からゆっくりと抜けだし、手のひらの前に浮かんだ。
「な、何と」
我が身に起こったことが理解できたトロデ王は、恐怖のあまり歯をならす。
「悲しいなあ」
いつの間にか窓の付近に移動していた敵の体は、どういうわけか危険な雰囲気の霧のようなものに包まれていた。
「お前たちの神も運命も、どうやら私の味方をした下さるようだ。悲しいなあ、オディロ院長よ」
キヒャヒャ、と下世話な笑いとともに話す道化師。奴の持つ杖は、杖の先のほうで光った魔方陣とともに赤く光りだす。
「そうだこのチカラだっ。クックックッ、これでここにはもう用はない」
何を言ってるんだ、とエイトは思った。動かぬ体で、敵をにらみつけながら。
道化師は喜びを全身で現すと、後ろにあった窓ガラスが砕け散る。
「さらば、皆様。ごきげんよう」
いつか聞いたしゃくに障る笑い声とともに、満月の中に姿を消したのだった。
翌朝。
事の真相が修道院中に伝えられ、人々の心を代弁した雨の中でオディロ院長の葬儀が行われた。
葬儀に参列した人々は、嘆き悲しみ、涙を流す。
棺を見ながら、何とか無事だったマルチェロは、心痛な面持ちで金のロザリオを両手で手にし、同じように、後ろのほうで並んでいたククールは、魂の抜けた顔で天を仰ぐ。
また、ヤンガスとゼシカの目には悲痛な想いの象徴が、エイトの右手には赤い悔しさがでていた。
それぞれの無念を胸に、夜まで天の水が降り注ぐ中、旅人たちは部屋へと案内される。
そして、眠れぬ眠りについたのだった。
ベッドでうたた寝をしていたエイトは、ドアノブの音で体を起こす。
「目が覚めたみたいだな」
「ククール」
腕を組みながら入り口の壁に寄りかかる彼。顔は疲れており、先日に見た表情のままだ。
「葬儀の前にも言ったが、オディロ院長の死はあんたたちの責任じゃない」
むしろあんたらがいなかったら、マルチェロ団長まで死んじまってただろう、と続く。
「礼を言う。その聖堂騎士団長殿がお呼びだ。部屋まで来い、とさ」
「わかった。準備ができたらすぐうかがうと、お伝えしてもらえる」
返事を聞くと、外へとむき、
「ああ。確かに伝えたからな」
そういって、少々乱暴にドアを閉めた。
見渡したリーダーは、すでに起きていたヤンガスに声をかける。
「おはようでげす、兄貴」
「大丈夫」
「へえ、まあ。でも、ちょいと気が抜けちまいましたよ」
「そうだね」
目の前で人が亡くなれば、誰だって気がめいってしまうもの。エイトは無理しないように、と伝えた。
同じくぼんやりしてしまっているゼシカにも話しかけると、夕べは全然眠れなかったとの返しが。
「体調はどう」
「少しだるい。それにしてもドルマゲスの奴の狙いは何なのかしら。次々に罪も無い人を殺して」
偉人をターゲットにしているわけでもないだろう。もしそうなら、姫や王はすでにこの世にいないはず。
思いついた恐ろしい考えを、頭を振って追いだすエイト。
「エイト、どうしたの」
「何でもない。そうだ、マルチェロが僕たちを呼んでるんだって」
「そう」
ゼシカは何も言わず身なりを整え、ヤンガスも、よっと、と口にしながら、重たそうに準備に取りかかる。
支度が終わると、一行は騎士団長の部屋へとむかった。向かい側の騎士団員たちがいる寝室では、修道士が一生懸命彼らの世話をしているようだった。
入り口を守っているいかつい騎士団員に道を譲られ、部屋へとはいるエイトたち。
椅子に座るマルチェロを中心に、むかって右にトロデ王、左にククールが立っていた。
「おお、エイト。遅いではないか」
「申し訳ございません」
「ようやっと我らの疑いが晴れたぞ」
「そうでしたか。しかし、なぜ王がこちらに」
「私がこの方から話を聞いたのです」
マルチェロは、まっすぐにエイトを見つめると、疑いをかけてしまったことに対し謝罪を述べる。
「目が覚められた直後に申し訳ありませんでしたが。あの道化師のことを知りたかったものでしてね」
「そうでしたか」
地下室のときと違って丁寧な対応に、エイトは逆に緊張を覚える。おそらく、相手が放つ覇気からなのだろう。
「憎むべきはドルマゲス。あの道化師には神の御名のもと、鉄槌を下さねばりますまい」
そうしたいのは山々だが、本人は新しい院長としてマイエラを導く役目があるため離れられない、と説明。
「皆さんもドルマゲスを追って旅しているとか。どうでしょう、そこにいる我が弟、ククールを同行させては頂けませんか」
いつ移動したのか、当人は入り口付近に立っており、顔がかなり不機嫌になっている。
「騎士団長殿、規律が守れぬ者は弟とは思わぬと、あなたが言ったのでは」
「今はこの方々と話しているのだが。お前は黙っていろ」
そっぽを向く彼。
「ククール。今、修道院を離れても問題ない者は、お前しかいないのだ」
軽く見開き、腹違いの兄の顔を見る。
「他の者にはそれぞれ果たすべき役目がある。その点、お前は身軽だろう」
エイトは、新院長の言いたいことに、何となく気づく。
「つまり、役立たずだと。そう言いたい訳だ」
なるほど、わかりました、と、口にしながら、両手を左右に開き、机に近づく。
「それほどおっしゃるなら、こいつらについて出て行きます。院長のカタキはお任せを」
見下しながら心情とは違うだろう表情で話すククール。敬礼すると、赤い聖堂騎士団は、乱暴に扉を開けて出て行ってしまった。
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