海に沈んだオセアーノン。エイトとヤンガスは武器を構えながら海をのぞきこむ。相手は反撃する力が残っていないらしく、痛そうに顔をゆがめながらこちらを見ていた。
「いやあお強いんですねえ。おみそれしました」
いえホントホント、と、戦う前の同一魔物とは思えない口調で話す。受けたふたりは目をぱちくりさせ、
「コレ、言い訳っぽいんですが。今回の件ワタシのせいじゃないんですよ、アイツのせいなんです」
「アイツって」
「道化師みたいな野郎なんですがね、こないだ海の上をスイスイ歩いてまして」
人間のくせにナマイキなやつだと思ってにらんでいたら、にらみかえされまして、と続く。
「それ以来ワタシ、身も心も奴にのっとられちゃったんですねえ」
オセアーノンいわく、自分の意志で船を襲ったわけではないとのこと。たしかに前の魔物は、おやつを見られヨダレをたらしたぐらいで怒りそうな物腰には思えなかった。
エイトは話を聞きながら、旅をでたきっかけの惨状を脳裏によぎらせた。あの城を一夜にして滅ぼすぐらいの力を持っているのなら、魔物を操ることぐらい訳はないかもしれない、と。
「それじゃワタシはこの辺で退散しますね」
みなさん、よい旅路をば~、と触腕を振りながらいい残し、海へと潜っていく。
「兄貴、あのイカがこれをくれやしたぜ」
ヤンガスの手を見ると、金のブレスレットが握られている。お詫びの気持ちでよこしたのだとか。
「海の底に落ちてたものらしいけど、中々腰が低い奴でがすな」
戦利品をえたのがうれしかったのだろうか、彼は手首を回して眺めていた。
「思ったより強いじゃない」
ゼシカはエイトたちに駆け寄り、そう口にする。
「正直あんまり期待してなかったから、ちょっとビックリしたわ」
エイトは苦笑いをし、ヤンガスは少しムッとする。が、元山賊は普段と表情がほとんど変らなかった。
「自己紹介がまだだったわね。私はゼシカ、ゼシカ・アルバートよ」
彼女は、なんというのか伺う。
「アッシはヤンガスでがす」
「僕はエイト」
「エイトにヤンガスね。魔物を倒してくれて、改めてありがとっ」
これでドルマゲスを追えるわ、とやる気に満ちているゼシカ。もちろん、気持ちで旅人たちも負けてはいない。
「いろいろ準備もあるし、一度ポルトリンクに戻りましょう。船を戻すように言ってくるわ」
と、近くにあった階段をおりる。
「あ、そうだ。ふたりとも」
ふたりがゼシカを見ると、
「塔での約束、忘れてたわ。盗賊と間違えちゃったこと、ちゃんと謝らなきゃね」
ゼシカは顔を床にむけ、腕を豊胸の前でクロスする。そのまま斜め下方向へ勢いよく振りながら、すんませんしたーっ、といった。
「じゃ、言ってくるね」
すっきり顔のゼシカの足取りは、とても軽やかだ。
港町に戻る号令が響く中、エイトは数回、ゆっくりとまばたきをする。
「きっとあれが海の人間の謝りかたなんでがすよ、きっと」
「な、なるほどね」
女性にもいろいろなタイプがいるんだなぁ、と思ったエイトであった。
港町に戻ってきた一行は、南の大陸に渡るための準備にとりかかった。船は荷物と乗客を乗せるのにせわしなく動いている。
「助かるよ。こっちの都合に合わせてもらえて」
「これぐらい当然よ。魔物を倒してもらったし」
準備が終わったらまたここに来てね、とゼシカ。うなずいたエイトはトロデに報告のため、ヤンガスは不足が無いかの確認のため、別行動をすることに。
再びゼシカのもとに集まり、出発できる状態になったことを告げた。
「じゃあ、急いで出発よ。ドルマゲスを追わなくちゃ」
「そうだね」
「あ、そうだ」
歩きだそうとしたとき、ふいにゼシカが振り返る。お願いがあるのだとか。
「エイトたちもドルマゲスを追ってるんでしょ。だったら旅の目的は一緒だし」
アルバート家の令嬢は、自分をエイトたちの仲間にしてくれないか、と頼んできた。こう見えても魔法使いのタマゴだからきっと役に立つ、と。
リーダーであるエイトは、即答できなかった。
魔法使いとしての才はきっと間違いない。だが、相手はあのドルマゲスだ。ゼシカは奴の恐ろしさを知らないのだ。
ましてやこんなか弱い女の子を参戦させること自体、どうなのだろうか。ヤンガスは荒事に慣れているので、また別問題だが。
「そうよね、そんなこと簡単に決められないわよね」
「能力を疑ってるわけじゃないんだ。ただ、あまりにも危険すぎる」
「そんなの百も承知よ。私は絶対、兄さんの仇を討つわ。一度決めたら絶対にそうしないと気が済まない性格なのよね」
腰に手を当て堂々と言いきるゼシカ。これは断ったとしてもついてきそうだし、同行しなかったとしてもひとり旅をつづけそうな雰囲気だ。
エイトは笑顔で軽く息を吐きながら、
「わかった。これからよろしく」
「ありがとう。これからきっといい旅になるわ。こちらこそよろしくねっ」
さっそく出発しましょ、と先導をきる新たな仲間。古参メンバーも後に続く。
「こりゃー、わしと姫の事を忘れとるじゃろうっ」
後頭部に星を食らった家臣は、出発時間を伝えるのを忘れていたようだ。
短い海の旅ではあるが、陸路とは違う風を受け、乗客はそれぞれ思いのままに時間をすごしている。
「あ、いたいた。こんな所にいたのね」
男ふたりで何やってたの、とゼシカ。ヤンガスが、兄貴と話していただけだと答えた。受けた人間はとある単語に疑問をもったらしく、彼らがどういう関係なのか、と質問する。
すると、ヤンガスは今にも涙を流しそうなほどうれしさ極まった表情になり、タルから飛び降りた。
「よくぞ聞いてくれたでげす。不肖ヤンガス、エイトの兄貴の旅のお供をしてるのにゃあ、聞くも語るも涙の、壮大な物語があるでげすよ」
右のこぶしを震わせながら熱く語る。じゃっかん、うっ、となったのか、ゼシカは話の続きを促した。
「あの日は確か、夏の盛り。遠くでセミが鳴いていたでげすよ」
山賊であることに嫌気が差した彼は、足を洗うために住み慣れた町を捨てたのだが、怖い見た目が原因でどこにいっても人間らしい扱いをされなかったという。
「やがてカネも底を尽き空腹にも耐えかねたアッシは、結局山賊に戻ることを決めたでがす」
エイトの兄貴に出会ったのは、ちょうどそんな頃でがしたね。
ヤンガスは晴天の空を見上げながら語りだした。
とある大陸とトラペッタ地方をつなぐ大きな橋の上でのこと。
獲物を待っていたヤンガスに格好のエサがやってきた。
「止まれぃっ」
オノを振りまわし、吊り橋を揺らすヤンガス。目の前には、エイトが美しい馬、ミーティアをひき、御者席には不気味な魔物の姿のトロデが座っていた。
「やいやいお前ら。誰の許しを得てこの橋を渡ってんだ」
「許しもへったくれもあるか。この辺はまだ我がトロデーン国の領地じゃわいっ」
ヤンガスは耳を疑い、何だと、と口にする。
「おいおい、おっさん。お前、気色悪い姿をして王様気取りか。笑わせらあ」
「うぬぬ、ええい。痛いところを遠慮なしに突きよって。そういうお前こそ何者じゃっ」
「オレか。聞いて名乗るのもおこがましいが、聞いて震え上がるなよ」
得意気にオノを振りまわし、再び足場を上下に動かす。
「天下にとどろく山賊ヤンガス様の名は、この辺りにもちったあ知れわたってるだろうっ」
「な、何、ヤンガス、じゃと」
ヤンガスはしてやったり、という表情だ。
「へ、観念したら大人しく通行料を置いていきな。命だけは助けてやるぜ」
だが、エイトの顔はきょとん、としている。
「愚か者め。そんな名前聞いたこともないわいっ」
トロデは、散々かっこつけよってアホウか、と大笑い。図星だったのかそれともほかの感情が湧きあがったのか、ヤンガスは拳をつくり、
「てめぇ、人が大人しくしてりゃあ調子に乗りやがってっ」
武器を構え、
「そういうことならこのオレ様の実力を、その目に刻みつけてやるぜっ」
豪快に振りまわし右足を軸に前にいたエイトにとびかかるヤンガス。だが、振り下ろされた武器は後ろにかわした相手に微風を送っただけだった。橋に突き刺さり、そのまま動けなくなる。
オノを引っこ抜こうと動かしていたら、武器だけでなく木の板まで抜けてしまい、ヤンガスは、どふぉうっ、と口にしながら宙吊りになってしまった。
「エイト今じゃ、一気に橋を渡ってしまうぞっ」
「はっ」
できた穴をジャンプし、馬車の右車輪を浮かせながらも向こう側にたどり着いたエイトたち。彼が走ってきた場所を見ると、今にも落ちそうな状況だった。
「うぐぐぐ、ちくしょう」
ヤンガスの重さに耐えきれなくなったのか、ロープが悲鳴を上げはじめ、しまいにはつながりを断ってしまう。
彼はかろうじて残ったロープにしがみつき、エイトたちがいる崖にぶら下がっている。
「自業自得というやつじゃな。世に悪の栄えたためしなしとは、昔の人は上手いことを言ったもんじゃわい」
1人で納得したあと、
「先を急ごう、エイト。おうおうミーティアや、怖い思いをさせてすまなかったね」
旅を再開するが付き人がついてこないので、どうしたものかと見ると、エイトが何かを引っ張っている様子がトロデの目に映った。
まさかと思い台から飛び降り、家臣のもとに駆けよる。
「な、何をしとるんじゃエイトっ。あ奴めはわしらを襲った相手じゃぞ」
「たとえそうでもこのまま見殺しにはできません」
「このバカチン、気づかなかった振りで通過しても、神様もお許しくださ」
トロデが言い終わる前に、ヤンガスのとんがり帽子が境界線から顔をだし、エイトが巨大なカブを抜くような感じで思いっきり力をこめる。
両手をつきながら息を切らした山賊は、
「た、助かった。ぜ、絶対、死んだと思ったぜ」
「やれやれ何たることじゃ」
トロデはため息をつきながら、
「ヤンガスとか言ったな。エイトの慈悲をありがたく受け取るがよい。さっさとわしらの前から消えるんじゃ」
「じょ、じょーだんじゃねえぜっ」
息を切らしながら、ヤンガスがはっきり拒絶する。その態度からまだ反省していないと考えたトロデは、
「まだ怖い思いが足りんらしいな。よかろう、かくなる上はわしが相手じゃっ」
勢いよく起き上がった丸い体は、トロデを引かせるのに十分だったが、彼の身は救済者にむけられる。しかも土下座で、だ。
「エイトさん、いや、エイトの兄貴。アッシは兄貴の寛大な心に心底、感服いたしやしたでげす」
今日から兄貴と呼ばせてくだせぇっ、と瞳を輝かせながらいう山賊。エイトは頭にクエスチョンマークが浮かんでいるよう。
「こ、こりゃ待たんか。エイトはわしの家臣じゃぞ」
わしらの子分になりたいのなら頼む者が違うじゃろーが、とトロデ。
「うるせえぞ、おっさん。お前になんか頼んでねえ、アッシはエイトの兄貴の子分になるんでぇっ」
「いや、子分って」
「何じゃと、お前だって見た目は相当なおっさんじゃろうが。お前にだけはいわれたくないわいっ」
「王、見た目の問題では」
ぎゃーぎゃーと口げんかが始まってしまう。
はたにいるエイトは、あのー、としか言葉がでなかった。
「ここからが重要でげす。アッシは真人間としていろんなことを教わったでげすよ」
「そう。あー、もういいわ、続きはまた今度お願いするわ」
ちょっと風に当たってくるね、とゼシカはその場からいなくなってしまう。彼女の表情からするに、どこが壮大な物語なのか、わからなかったようだ。
ヤンガスはエイトに向きなおり、
「やっぱりアッシと兄貴の兄弟仁義は、しょせん男同士にしか理解できない話でがしたかね」
まあいいでがすよ、とヤンガス。そうだね、と返し、長い時間座っていたので屈伸をし、
「僕は情報を集めてくる」
「アッシも集めるでがすよ」
それほど大きな船ではないが、効率を考え、別行動することにした。
船員と乗客から話を聞くと、主にふたつの地名がでてきた。マイエラ修道院とパルミドという性質がまったく逆の町で、前者は世界三大巡礼のひとつといわれるほどの聖地、後者は犯罪者ばかりが集まるならず者の町のようだ。
またある船員は本物のお嬢様を間近で見れて感激しており、他の仲間からは、だいぶ前のことだがこの時勢に珍しく歳の離れた姉妹の旅人が乗船したことを聞く。
ゼシカに声をかけてみると、
「あらエイト。あ、それとも私もエイトの兄貴って呼んだほうがいいのかしら」
「まさか」
「冗談よ。そんな風に呼ぶガラじゃないもの」
笑いながら話すゼシカ。どうやらサーベルトの件から、少しは立ち直ったらしい。
「今ね、海を見ながらドルマゲスのことを考えてたのよ」
「ドルマゲスのことを」
「うん。どうして南の大陸に渡ったのかしらね」
「うーん、どうしてだろう」
「南の大陸でこれから何が待ち受けているか。考えると何だかドキドキするわ」
「僕も行ったことがないんだ。楽しみだね」
風邪ひかないようにね、と結び、トロデとミーティアを探すことにした。
ミーティアに至ってはすぐに発見し、船内の入口にいた。
近くにいる乗客が、きれいな馬だなぁ、と見とれており、気品すら感じているらしい。
さすがは姫、と思いながら、エイトは男性に聞かれないようにトーンを落としながら異常がないかをうかがう。いななきと同時に、頭をさげて頬ずりをするミーティア。どうやら、大丈夫、と伝えているのだろう。
エイトは安心すると、毛並を整え、トロデを探す。一番奥にある船長室だろう部屋をノックし入ってみると、困り果てた顔の船長と大きな釜を広げて座っているトロデがいた。トロデに至っては釜をいじっては中や外を確認し、それらを繰り返している。
「いやはや参りました」
船長が言うには、彼が勝手に部屋に居座ってしまったらしい。
「身分の高い者にはそれなりの部屋が必要じゃと言って、出て行ってくれないんですよ」
「そ、そうなんですね」
性格を考えるに何度言っても聞かないだろうな、とエイトは思った。引きつった顔で、すみません、と返事をしトロデに声をかけようとすると、
「直った直った、ようやく直ったわいっ」
両手を上げ喜びようを表現する。エイトに気づき、椅子から降りて、
「おお、エイト。いいところ来た。今ちょうどこいつが直ったところじゃ」
テーブルの上にある釜を指し、伝説の錬金釜であるという。
「といっても何のことかわかるまい。簡単に説明するぞ」
錬金釜とは、材料となるふたつの道具を入れることにより、違う道具を生みだすことができる魔法の釜のこと。なかなか手に入らないものでも自力で作れるのだとか。
「旅立つ前にイバラの呪いに侵された我が城から、どうにかこいつだけは持ち出しておいたんじゃ」
トロデいわく、あちこち壊れかけていたのを夜な夜な修理していたらしい。
「感謝するがよいぞ。この釜の操作は簡単じゃからな、馬車に積んでおくから一度使ってみるのじゃ」
「はっ。ありがとうございます」
ほぼ同時に、
「船長、間もなく南の大陸に到着します」
「わかった。マストの調整を頼む」
イエッサー、と船乗りの敬礼をし甲板へ戻る船員。潮の香りがする旅も終わりに近づいているようだ。
乗客たちが下りる準備に取りかかっていると、船の揺れがだんだんとおさまってくる。乗車したばかりのときと同じような動きをしだすと、利用者は甲板へと上がった。
「どうやら着いたようじゃな」
わしとミーティアは町の外で待っておるぞ、と口にし、早々に馬車と一緒に町の外に向かうトロデ。いつぞやのように騒ぎに巻きこまれないためだ。
ポルトリンクと違い町らしい名前はないらしく、ここは船着き場と呼ばれている。露天が立ち並び、先ほどの港町より活気を感じる、とゼシカは話した。
「いやあ、兄貴と一緒に南の大地を踏む日が来るとは感動的でがすなあ」
「あら、詳しいの」
「おうよ。アッシはこっち出身でがすからね。兄貴、頼りにしてくだせえっ」
「うん、頼むよ」
右手で胸をたたくヤンガス。自分が住んでいた大陸よりも広く知らない土地でもある。これほど心強い仲間もいない。
エイトは露天をのぞき、オセアーノン退治したときに得たゴールドとゼシカの装備を比較する。
「ゼシカ、これ持てる」
「え、いいわよ。あなたが装備したら」
「僕はよろいがあるから。途中で倒れたら大変だ」
そういってうろこの盾を渡しつけさせる。彼女の細腕でも大丈夫そうなので、そのまま購入した。
「ありがとう」
「ううん。疲れたら遠慮なく言ってね」
と笑顔で返した。
聞きこみを開始すると、近くにマイエラ修道院があるらしい。イケメンぞろいの聖堂騎士団がおり、女性の憧れの的にもなっているとか。
また、錬金に関する情報もあり、薬草を効果を強めることもできるという。
「この鉄のクギで鍵を開けられりゃいいんでがすが」
「ちょっと、何考えてるのよ」
「誤解でげすよ。ほら、箱が空かなくて困ってる兄ちゃんがいたでがしょ」
盗賊風の男が足を洗った記念にともらったのだが、うまく加工すれば素人でも鍵を開けられるかもしれない、と助言もくれたのだ。
組み合わせに頭を使いながら外にでる一行。肝心のドルマゲスの行方はこの町でつかむことはできなかった。
「むう、ドルマゲスの手がかりは見つからんか」
「はい。道沿いに進めばマイエラ修道院があるそうです。そこに行けば何かつかめるかもしれません」
「うむ。聞いて回るのが一番じゃ。では出発じゃ」
色々な意味で新鮮な雰囲気を味わいながら、エイトたちは歩き始めた。
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