カグナさんの店に集まった異界関係者たち。十二月(じゅうにげつ)の一人だという如月君と、妖怪兄妹とその祖父が、距離をとったまま動かないでいた。
そしてこのとき、私はカーラ君とカヌス君に初めてあったときのことを思い出す。とくにカーラ君は、怖い人、と感じたのだ。たしか、今みたいに殺気というか、邪念というか、人に恐怖感を抱かせるような雰囲気をしたからだ。
普段している表情とは違い、相手を挑発するような、意地の悪い顔なのである。
ちなみにカシスちゃんも似たような感じで、カヌス君とカグナさんは普段どおり。ユキは様子を見ており、私も同じだ。
「無意識に構えているが。おれたちと戦る気じゃないだろう」
「冗談じゃない。命がいくつあっても足りないだろ」
「賢明だ。さすが全国一位だね」
「茶化さないでくれ。心臓に悪い」
うわ~、からかって面白がってるよ。あの緑の人。
「こら加阿羅、遊ぶなら後にしろ。涼太君、座って食事でもしながら話そうじゃないか」
トレイを手首で表裏にしながら話を進めるカグナさん。これはサービスだよ、といいながら、ゆっくりと踏みしめるように歩いてきた彼にメニューを渡す。
「毒なんか入ってないから安心してもらいたい」
「はあ。じゃあこれを」
「オーケー。少し待っててくれ」
如月君がこちらを見たが、私たちはもう食べたから、と伝える。
奥のほうで音がしだすと、
「あーのー。オレたち、まったくついていけてないんだけど」
「そうだね~、どこから話そうか」
口調だけは元に戻ったカーラ君は、同じ血族に目を配ると、異界に関することを話し始めた。
妖怪社会は超実力主義で、強きものが生き弱きものが死ぬ、という世界だというのは教えてもらった。そして、彼らの中にも階級があり、怨鬼、怨霊、妖怪と大くくりに分かれていることも。
もちろん、各階級にも力の差があり、ここにいる妖怪たちはその上位に位置しているとか。
「加阿羅(カーラ)とジジは要っていう位置にいる。妖怪界と人間界を隔てる結界を守る地位にいるんだ」
「あたしと加濡洲(カヌス)はその要候補なのよ」
「そ、そんなにすごい人たちだったんだ」
人じゃねえよ、という次男のツッコミがあったが、とりあえず流す。
「じゃあ、涼ちんが驚いてたのは、そのことを知ってたからなんだ」
「ああ。ここで終わりかと思った」
「そんな大げさな」
「雪祥(ゆきひろ)はあの世界のことを知らないからそんなことが言えるんだ」
「さすがにオレたち位になると、血を求める必要はなくなるんだよ。自分で補給できっからな」
うーん、植物でいう光合成なのかしら。たぶん近いと思う。つまり、怨鬼(おんき)と違ってやたらめったらに襲わないってことよね。
「事情は察してもらったとして。君の話をしようか」
右手を、どうぞ、という形にするカーラ君。内容は伝えたはずなのだけど。
譲られた如月君は、一度目を閉じる。そして、
「何をすればいい」
「ふうん、話が早くて助かるな」
まるで優秀なアルバイトと会話しているみたいな雰囲気になる。
「楓ちゃんと雪祥(ゆきひろ)君の護衛が条件だ。ついでにこの子の力を高める手伝いをしてもらう」
後半は君の命を優先にして構わない、と長男。意外に思ったのか、如月君のまゆがハの字になる。
「どうして藜御(あかざみ)にこだわる」
「話す必要はない。やるのか、やらないのか、どちらだ」
「わかった。条件を飲ませてもらう」
「交渉成立だな。ちょうどいい」
コト、と頼んだメニューが届く。ほかほかの生姜焼きは、こちらの思考を奪うのに十分だった。
「思ったよりすんなり決まったな。君もこれからこの店に来るといい。伝えられる情報を提供しよう」
「ありがとうございます。頂きます」
二人のやり取りを横目に、私はカーラ君に声をかける。
「あのさ、どうして私の力を高めてくれるの」
「ん? ちゃんと理由があるからだよ」
「そうじゃなくって、その理由を聞いてるのよ」
「君が知るにはまだ早い。知りたかったら、早く力を覚醒させたほうがいい」
意地悪しているわけじゃない、とカーラ君。まったく説得力がない気がするんだけど。
私の心を読んだのか、彼はいつも通りの笑みで目を見ながら、
「そのまっすぐな瞳が、いつか君を追い詰める日が来る。それに対抗するためだよ」
「ど、どういうことよ」
「言葉通り。十二月が現れたのなら、その日も近いだろう」
「加阿羅(カーラ)」
はいはい、と、今度は不機嫌っぽい顔になりながら店をでる彼。呼んだカグナさんは、やれやれ、といった風になり、
「奴にも考えがあるんだろうがな。言う通りでもある」
「ごめんね楓。事実を知ることが全ていいってわけじゃないのは、あたしたちもわかってるから」
嫌がらせしてるわけじゃないのよ、とカシスちゃん。確かに、そういう気持ちがあるのなら、七年間も力を貸してくれたり、教えてくれたりしないはず。
今は彼らを信じて、力をつけることに集中しよう。
視線を感じた気がしたが、季節の初めとともに、気持ちを切り替えようと思ったのだった。
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