秋で季節が止まっている大陸、とりあえず秋の大陸、と呼んでおく。この世界には、スノーマン以外の生物や大陸に名前がついていないらしい。植物にはあるようだが。
移動手段は瞬間移動。どうなっているのか知らないが、RPGゲームのようになっていて、神殿らしき建物の中にある台座に触れることで、行きたい場所に連れていってくれるのだ。
全身の感覚が一瞬なくなったと思ったら違う風景になっているなんて、不思議だな。
似たつくりの部屋をでると、視界に紅葉が飛びこんでくる。ちょうど見ごろを迎えている具合だろう。
「うわあ、いっぱい色があるっちね」
「さっきまで真っ白だったからなあ」
って、待て。方向も確認しないで走るなっての。
「サクヤ。早くいこうっち、いこうっち」
やっぱり子供なんだな。
散り始めてる秋の風物詩を見ながら、ため息をついた。
もらった地図を確認し、景色を楽しみながら歩いていく。しばらくすると、よい香りが鼻を刺激した。
「何だろ」
「何だっちかね。花っちか」
見渡すも、木ばかりでピクルがいった植物は目にはいらない。キンモクセイかと思ったんだけどな。
何となく広がる空を見ると、雲行きが怪しくなっていた。
しかも、ありえないスピードで黒い雲が青い部分を侵食していき、雲同士をピカッと光がつなぐ。
「気持ちよくなってきたっちね」
「違ぇって。寒くなってきたんだろーがっ」
ああもう、雪だからしゃあないけどよ。って、こんなこと話してる場合じゃないよな。
「ひと雨きそうだ。どこかに避難しよう」
そういっているうちに、遠くで雷がご挨拶していた。
駆け足で道を進んでいくが、雨宿りできそうなところはない。
ちょっと疲れたのでペースダウンすると、生き物のような小さな雲がこちらにやってくる。道案内でもしてくれるのかと思ったが、全体を光らせると、目の前に雷を落としたではないか。
「何だよこの雲はっ」
「危ないっち。こっちに逃げるっちっ」
といいつつ、横の道にそれる。木々の中を走ってきたが、雲は追ってこないようだ。
「ピクル、近くに高い木があると、雷やばくないか」
「ふつうのはそうだっちよ。さっきのは異常現象のだっちから」
異常なのはわかるけど。しっかし、何であんな変なモノができんだろ。
ピクルいわく、昔にも季節が止まったことがあったらしく、同じような現象があったとのこと。あくまで伝説だが、身を守るために学んだそうだ。
つまるところ、さっきのは原因不明ってことだ。ややこしくて面倒くさいなあ、もう。
ひと息ついたのもつかの間、今度は風が強くなってくる。単発に強く吹くのではなく、弱い台風が勢力を増していっている感じだ。
しかも、上空には、落ち葉が渦になって回っているじゃないか。
ったく、何なんだよ今度はっ。
「うわ、こっち来てるしっ」
「こっちだっちっ」
ああ、神様。俺、バチがあたることしましたかっ。
ピクルに促され、さらに奥へと逃げる俺たち。どこをどうとおったのかわからないが、スノーマンを信じて行けるところまでいく。
ようやく木の群集から抜けだしたのか、まっすぐに伸びる一本道に出迎えられた。異なるところといえば、あるのは道だけで、周囲は真っ暗な空間しかない。
呼吸を整え地図をみる。どうやら目的地からだいぶ外れてしまったようだ。
「まずいな。逆方向にきちゃったよ」
「今どこにいるっちか」
「ここ、ここ」
覗きこむピクルに指で居場所を伝える。彼は首をまわしながら、
「もっと上っちよ。小屋の近くっちね」
「え。だってさっきまでここにいてこの方角に来ただろ」
「えーっとっちね。この大陸、今はおかしなところにつながってるみたいだっちくて」
地図の存在意味なしってことか。ひでぇ。
謎現象に涙していると、キツネが現れた。何の前触れもなく、だ。
「そなたら、何をしておるのだ」
キ、キツネがっ。
「久しぶりだっち。季節がとまった原因を調べてるっちよ」
おお、そうか、と動物。そうだ、ここは異世界だ。ふう。
よく見れば愛嬌のある顔をしているキツネは、心なしか雰囲気が柔らなくなる。そして、軽く尻尾を振りながら、
「そう思って声をかけてみたのじゃ。迷っておらんか心配でな」
「ありがとうっち。ボクたち、小屋にいきたいんちが」
「案内つかまつろう。尻尾を見失わぬようにな」
そういってキツネは、ふわふわの尾をゆらし、前を歩く。ピクルは疑いをもたずついていき、距離があいてしまった。
ボンヤリしてる場合じゃないぞ。
内からでた言葉でわれに返ると、あわてて後を追った。
目的地である小屋にたどり着いた俺たち。長老スノーマンからは、ここにリーダーがいるから話してみるとよい、と伺っている。
キツネにお礼をいってはいると、おそらく二メートル以上の巨大な紅葉が、のそのそ、と動いている。
バ、バ、バケモンがいるしっ。まんじゅうでもイヤだぞ、これは。
「うわぁ、こんな生物初めて見たっちよっ」
こんにちはっち、と、うれしそうに跳ねているピクル。何て怖いもの知らずなのだろうか。それともただのアホなのか。
だが相手も言葉がわかるようで、話しかけられた者と似た動きをする。
「ピクル、オレっちだっちよ」
「もしかして、ヨークっちか」
そうっち、そうっち、と返してくる真っ赤な葉。話しかたから、スノーマンなのだろう。もしかしたら、会ったことがあるかもしれない。
「どうしたんだっちか、いったい」
「キツネにイモとクリをごちそうになったら、こんな姿になっちゃったんだっち」
何がどーなったらそーなる。
「キツネって、さっきのキツネっちかね」
一族がたくさんいたような気がするっち、とピクル。まあ動物だし、家族は多いのかもしれない。
「オレっち、原因を突きとめて解決したんだっちよ。でも、この姿じゃ部屋からでられないっち」
解決したのはすごいな。確かにヨークの姿では、ドアに先の部分がつっかかってしまいでられないし、高さもある。
「困ったっちね。どんなキツネだったっちか」
「めずらしい銀色の毛並みをしてたっちよ」
「わかったっち。もう少しガマンしててっち」
まともな会話のはずが、どうしてもズレて聞こえるのは俺だけだろうか。
ピクルとともに部屋をでると、道案内してくれたキツネを探す。しかし、どこにもいない。
「さっきのは普通のキツネなのかもな。毛が茶色っぽかったし」
「うーん、化けてるかもしれないっちよ」
あ、確かに。現実のキツネは魔法を使って化けるとかはありえないけど、この世界だしな。
とはいうものの、この大陸内にいるのは間違いないと思うので、とりあえず、方向感覚がしっかりしているピクルを先頭に、地道に歩くことになった。
今更だが、はいってきたときと風景が違っていることに気づく。連れてこられたときは広葉樹の並木道だったのに、今はそれらがまったくなく、緑に茂った森の中だったのだ。
「サクヤー、手伝ってっちー」
いつの間にかいなくなっていた声の持ち主は、家の死角の位置にいる様子。雪ダルマの影が見えたのでそちらにいくと、グルグル巻きになっているロープがあった。
「これを小屋につけてたどっていけば迷わないっちよっ」
なるへそ、そりゃいい考えだ。
小屋にある手すりまでロープをもってきて、端っこをくくりつける。これで遭難することはないだろう。
さて、問題はどっちに進むかだが。闇雲に探したところで、相手も動きまわるしな。
どうしようか考えていると、また俺の名前がまた呼ばれる。同じ場所にいくと、ロープをもっていってほしい、といわれた。
かたまりを手にして移動し、今後のことに頭を使う。地図を広げながら、キツネがいそうなところに見当をつけてみる。
「キツネたちはこの辺りに普段は住んでるっち」
「違うときもあるのか」
「季節によって移動するっちよ。今は秋だから、ええっと」
ピクルいわく、キツネは頭がよいので、ほかの動物たちと一緒に寒さをしのいだり、食料を確保したりしているという。現代ではそうじゃなかったと思うから、やはり特殊な進化をしているのかもしれない。
情勢に詳しい彼が示したのは森だった。ここは今時期でも食料がとれる貴重な場所なので、可能性が高いらしい。
ピクルを先頭に、名もなき森へ出発した。
この大陸は小動物でも遠くにいけるように配慮されているので、ところどころにワープみたいなのが備えつけられている。普段は移動先は決められているのだが、異常現象が起こってからすっちゃかめっちゃかになっているよう。つまり、どこに飛ぶかがわからないのだ。
俺たちも何度か違う場所にでてはロープを伝って戻りまた入る、を繰り返してようやく目的地であるキツネがいるだろう所にたどりついた。先ほどの小屋に比べると肌寒くなく、過ごしやすい。
「あ、さっきのいい匂いがするっち」
「本当だ。何なんだろうな」
謎の雲に襲われたので忘れていたが、歩いている最中にかいだ香りだ。どこからかもれれていたのだろうか。
あまり道になっていない道を歩き、動物に会っては銀色のキツネのことを聞くピクル。今のところ収穫はないが。
「なあピクル、ここの動物たちはずいぶん太ってるんだな」
「うーん、以前はこんなことなかったっちよ」
リス、レッサーパンダ、シカ、ハリネズミなど、警戒心がない彼らに驚きもあるが、違和感もあった。言葉どおり、丸々と太っていてコロコロしているのである。ネット検索ででてくるような体型ではないのだ。
小高い森林を探索をしていると、一匹のタヌキが話しかけてくる。
「やあ、スノーマン」
「こんにちはっち。銀色のキツネを探してるんちが、知らないっちかね」
「あ~、ごめん。銀色のは見てないなぁ」
そうだっちか、とピクル。お礼をいって歩き出そうとしたが、タヌキは、ところで、と口にする。
「あんた噂のニンゲンだよな。そんなにジロジロ見てどうしたい」
「あ、いや。この大陸の動物たちはみんな肥えてるなぁって」
タヌキは笑い、食べれるうちに食べとかないと、と話す。
そうか、本能に従って食いまくっていたのが原因だったのか。
「どうしたんだい、そんな顔しちゃって。何が気になるんだい」
「いや、いくら何でも太りすぎだと思って」
人間でも肥満は健康によくないといわれている。医学的な細かいことは知らないが、動物たちにも同じことがいえるんじゃないか。
「んー、まあ食べ物がなくなるよりマシさ。飢えるのはイヤだしね」
あんたもイヤだろう、と首をかしげながら聞くタヌキ。食べ物がなくなる、とは、いったいどういう状況なんだろうか。
フリーターとはいえ、まあ生活はしていける状況だ。腹減ったらコンビニで買ってくれりゃいいし、雨風もアパートがあるからしのげる。
風邪ひいて食えなくなったぐらいはあるけど、飢えたことはない。口にいれられるものは、冷蔵庫にたくさんある。
どのように返せばよいのか迷っていると、
「食べすぎも大変なことになるんだっちよ」
「どうしてさ」
「ボクも聞いた話なんちが」
むかぁし、昔のこと。ある欲張りなスノーマンがいて、大半の食料を独りじめしたことがあった。
食べるのが大好きな彼だったが、あまりの量をずっと食べていったためか、だんだん動けなくなっていき、しまいには寝たきり状態になってしまい、死んでしまったという。
タヌキは真っ青になりその場を逃げだしてしまった。
走り去ったタヌキを見ながら、
「ピクル、脅すことはないだろ」
「そんなつもりはないっちよ」
自然の流れなんだっちって、と雪ダルマ。よくわからなかったが、なぜか大切なことのように感じた。
歩いていると、違う場所にでるのか、色々な風景が流れていく。落葉樹の並木道に栗の木、ススキなど、秋の代表植物大集合、といった具合だ。
だが、実りの秋、というよい言葉の時期とは裏腹に、道端や木の上には、太りすぎて動けなくなっているらしい動物たちが多かった。
そんな光景を目にしながら足を動かしていると、一匹の小鳥が飛んでくる。
「こんにちは、スノーマン。季節を動かそうとしてるんですってね」
「こんにちはっち。そうなんちよ、銀色のキツネを見なかったっちか」
「ごめんなさい、見てないわ」
羽ばたきながら受け答えする小鳥。目の前の小動物は、普通の体型をしていた。
「ちょっと相談なんだけど、もう少しだけ、季節を止めてもらえないかしら」
「どうしてだっち」
「実はつい最近、子供がかえったのよ」
子供に食べ物で苦労かけたくないから、大きくなるまでの間だけ秋のままにして欲しい、と話す。
親心を察しピクルを見た。彼も俺を見る。
だが、ピクルは、
「それはできないっちよ。気持ちはわかるっちが、他の大陸の子供たちはどうするんだっち」