ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第6話

 ゼシカが階段を下りると、部屋は重苦しい雰囲気に包まれた。母親のアローザの表情が、何かを押し殺したようになっているのだ。
 「ゼシカが出ていってしまった。いや、そもそもアルバート家ではなくなってしまったのでは結婚など」
 後ろでつぶやくように話すラグサット。追いかける気はないらしく、もうしばらくここにいることにしたらしい。
 元々乗り気の婚儀じゃなかったのかな、とエイトは思ったが、会ったばかりの人にプライベートを聞くことはしない。それよりも、家主のほうが気になった。
 彼は彼女のもとへ行き、おずおずと声をかける。ため息をついたアローザは、
 「お見苦しいところを見せてしまいましたね」
 「いえ、その」
 もうひと息つき、
 「本当にあの子は一体誰に似たのかしら」
 どうせすぐに音を上げて戻ってくるに決まっているわ、と消え入りそうな声でつぶやく。旅人がどのような言葉をかければいいのか迷っていると、当主は顔を上げ、
 「ご挨拶もしないで、お恥ずかしい。申し訳ありませんでした」
 「いえ、お構いなく。お嬢様が元気になられたようで何よりです」
 「そうおっしゃっていただけると救われます」
 娘の事は気になさらないで下さい、と母親。手短にすませ、館をでることにした。
 坂の途中、
 「あのゼシカとかいう姉ちゃん、アッシらが目の前にいるのに気づかず出て行ったでがすね」
 「うーん、相当血が上ってたのかも」
 「謝りたいとか言ってたのに。どうも前しか見えなてないタイプのようでがすねえ」
 あんまり関わりたくないタイプでげすよ、とヤンガス。エイトも関わりたくないわけではないが、彼女は気が短いのかもしれない、と思った。
 「また会うかもしれないね。目的は同じだし」
 「そんときゃあ、短気は損気だって教えてやるでがす」
 平坦な道に足を踏みいれると、子供たちが走り回っている姿が見えた。村も訪れたときに比べると、明るくなっているように感じる。
 エイトはポルクに声をかけた。
 「ポルク、この辺りに他の町や村はないかな」
 「南にポルトリンクっていう港町があるぞ。ゼシカ姉ちゃんもそこに行くってさ」
 「お嬢様が。どうして」
 ポルクが言うには、塔から戻る前に港町に寄り、そこで怪しい奴のウワサを聞いたらしい。
 「怪しい奴、ねぇ」
 「それで、ポルトリンクはどこにあるんだい」
 「それならこないだ行った塔に入る前に分かれ道があったろ。それを右に曲がって道沿いに行けば着くぞ」
 「わかった、ありがとう」
 会話が終わると、再び走りだす少年たち。マルクは、異常なーしっ、と元気に声をだしていた。
 「ポルトリンクはこの村からだと距離があるでがすよ」
 「そうなんだ。どれぐらいなの」
 「アッシと兄貴の足なら、数刻ぐらいだと思うでがす」
 あとは魔物次第といったところか、とエイトは考える。道なりにあるとのことなので、迷うことはなさそうだ。
 リーダーは早速準備にかかり、必要なものをそろえ、次の町へ移動することにした。
 「おお、来よったか。そういえば先程、若い娘が飛び出していったが」
 「おそらくゼシカです。ポルトリンクに向かったのだと」
 「ほお。そういえば確か、港町がこの大陸にあったのう。南の大陸と定期船でつながっておるとか」
 よし、すぐに出発じゃっ、とトロデ。家臣とその弟分は、周囲を警戒ながら歩いていく。
 リーザスの塔の前を右に回り、そのまま道なりへ進む一行。今までとは違う風の香りがし、空とは違う青色が視界いっぱいに飛びこんできた。面倒な魔物との戦いを、一時的に忘れさせてくれる。
 「しかしドルマゲスめ、とんだ大悪党じゃな。いよいよもって、大至急やつを見つけ出さねばならんっ」
 少しぼんやりしていたことがばれてしまったのかと、エイトはドキリとしてしまう。ゆっくり振り返るとトロデとヤンガスが話していたようだった。
 「わしの個人的な恨みのこもった正義の鉄槌をお見舞いしてくれるわいっ」
 「おっさん、落ち着けって」
 鉄拳がこちらにこないかと冷や冷やしている家臣のことなど、まったく気にもとめないトロデであった。
 潮の香りを受けながら進んでいくと、やがてアーチ状の門が見えてきた。おそらく、目的地に着いたのだ。
 エイトとヤンガスは門をくぐり、近くにいた船乗りらしき男に声をかけ、ポルトリンクであることを確認。
 ふと、右を見てみると、船が止まっているのが見える。
 「あれが定期船でがす」
 「そうなんだ」
 いろいろなところを回ってきたと聞いていたエイトは、少しうらやましいと感じた。
 ほかの人にも話を聞いてみると、ここはアルバート家が取り仕切っている町であること、ゼシカが船乗りの中でアイドル化していることがわかった。
 また、よい情報と悪い知らせがいっぺんに入ってくる。
 道化師の格好をした男が目撃されたということと、定期船が止まっている、ということだ。
 「いやはや驚きましたよ。最初に見つけたのが船乗りだったのですが、その道化師の男が海の上を歩いてるんですから」
 「本当かい。で、そいつはどこに行ったんだ」
 「南の大陸だと思いますよ。ですが今は魔物が出るので行くのは無理ですがね」
 「ふむ、実に興味深い」
 身なりのよい男に聞くヤンガスに、学者風の男がうなずく。内容を整理すると、道化師の男が歩いて行った直後に船が魔物に襲われたらしく、からがら逃げてきたのだとか。
 「兄貴」
 「うん、南へ渡ろう」
 定期船がいつ再開されるのか確認するために、ふたりは定期船を運航している場所へむかった。
 塔の中にいると、女性の怒鳴り声が聞こえてくる。旅人たちの耳が反応すると、案の定の人物だった。
 女性は右足で大地を踏みしめ、
 「いい加減に待てないわよ。さあ今すぐ船を出して、私は急いでるんだからっ」
 「いくらゼシカお嬢様の頼みでも、そればっかりはできねえんでやす」
 海には危険な魔物がいるので、と大きな図体に似合わず相手に押され気味の筋肉質の男。ここぞとばかりに、
 「だから、そんなの私が退治するって言ってるでしょっ」
 「いやいや、ゼシカお嬢様にそんなことをさせたらアルバート家から何を言われるか」
 とんでもない、とばかりに両手を顔の前でふる男。立場もあり、海の男加減がでないのだろうか。
 話のわからない男ね、と口にしながら見渡すゼシカ。
 「あ、ちょうどよかった」
 目があった旅人たちのところに走っていくと、
 「塔であった人よね。リーザス村で待ってて言ったのに、どうして待ってくれなかったの」
 エイトとヤンガスは視線をかわす。ふたりの心情を知ってか知らずか、
 「私ちゃんと謝りたかったのに。でも、今はいいわ」
 ゼシカは彼らに頼みたいことがあるようで、一緒にきてもらうように促した。ついていくと、先程の荒くれ男の前に話しかける。
 「ねえねえ。その魔物を倒すのに、私が手を出さなきゃいいんでしょ」
 「へえ、ま、まあ」
 「だったら任せて。魔物退治はこの人たちが引き受けてくれるわ。これならオッケーよね」
 「へっ」
 「へえ、そりゃまあ。こっちも魔物を倒してくれるなら」
 こちらの意見などお構いなしに決めてしまうゼシカ。とはいえ、南に渡りたいのはふたりも同じである。
 男との話がひと区切りついたらしく、じゃあ決まりね。ね、あなたたちもそれでいいでしょ、と同意を求めてきた。
 再び目の会話をするふたり。ヤンガスは両手を広げ、やれやれ、と投げやりな感じだ。彼の意図を読みとったエイトは、
 「わかった。その件、引き受けるよ」
 「ありがとう。そうよね、リーザス像が見せてくれた光景を、私は一生忘れないわ」
 ドルマゲスの目的やサーベルトの殺害理由を世の果てまで追いかけるつもりのゼシカ。気だけでなく意思も強いようだ。
 「その為には航路の安全を確保しなくちゃ。でも定期船を足止めする魔物だから、甘く見ないほうがいいかも」
 「そうだね。相手はどういう魔物なのかな」
 エイトの問いに筋肉質の男が代わりに答える。巨大なイカのような姿をしているらしい。
 「巨大なイカ、でがすか」
 「いったん準備をしたいんだけど、いいかな」
 「そうね。私はここで待ってるから、できたら話し掛けてね」
 うなずいたリーダーは、乗降口を後にした。
 武器と防具を売っている店に行き、今の装備と財布を比較する。リーザスの塔からこの町に着くまでけっこうな魔物と戦ったこともあってか、よい防具が買えそうだ。
 今回は長期戦を予測して、うろこのよろいと皮の腰巻きを購入。前者をエイトが、後者をヤンガスが装備する。本当はヤリも欲しかったのだが、予算オーバーになってしまい繰越である。
 道具屋ものぞいたあと、井戸があったので念のために中を調べてみる。何と、しびれくらげがいるではないか。
 とはいえ、襲ってくる様子がないどころかしくしくと泣いている始末。何となく気になったので、エイトは話しかけてみた。
 井戸の水は海の魔物にとって住みづらいらしく、海にも戻れない状況らしい。詳しく聞いてみると、彼の偉大なるボスが最近おかしくなっているよう。本来は優しいニュルニュル者が怒りっぽくなってしまったのだとか。
 「ボクもボスのおやつを見てちょっぴりヨダレをたらしただけなのに、海を追放されちゃったんだよう」
 「そ、それはひどいね」
 「おっさんでもそんなことしないでげすよ、たぶん」
 魔物の中には人間に危害を加えない者もいるとは知っていたが、改めてしこのしびれくらげや滝の洞窟にいたスライムのような魔物ばかりになったのなら、世界は平和になるのにな、と思ったエイト。彼をなぐさめると、井戸からでてゼシカの元にむかう。
 「はあ。あのゼシカとかいう姉ちゃんはつくづくアッシの苦手なタイプでがすよ」
 「まあまあ、ドルマゲスを追うためだからさ」
 ヤンガスはため息をだす。引き受けちまったもんは仕方ねえでがす、とこぶしと手のひらをパチンと合わせながら、
 「ここはビシッと決めやしょうぜっ」
 「頼りにしてるよ」
 ふたりは、足に力をこめていく。
 エイトたちを心待ちにしていたのか、彼らを見るなり笑顔になるゼシカ。
 「準備は終わったのね」
 「うん」
 返事をもらったゼシカは、筋肉質の男に大急ぎで船を出すように命令する。敬礼とともに場が慌しくなり、船に命が吹きこまれる。
 そして、主役の3人は甲板に立ち潮風は身体をいっそう冷たくした。
 南の大陸にあと半分ぐらいのところだろうか。ある地点を通りすぎると異変が起こる。
 海がありもしない気泡を発したのだ。
 船乗りが見つけ声をだすと、エイトたちはその場に駆けよる。すると、頭が紫色で身体が赤い、10本の足をした異形のモノが出現した。
 赤い目を光らせて船をにらむと、気にいらねえなあ、と発した。頭を軽く振り、
 「気にいらねえ、まったく気にいらねえ。いつもいつも断りなくこのオセアーノン様の頭上を通りやがって」
 右の触腕の先を左に曲げながら、
 「なあ、おい。ニンゲンってやつはしつけがなってねえと思わねえか」
 今度は逆の触腕で鏡のように動かしながら、
 「おお、思う思う。前から思ってたっ」
 また右で、
 「そんじゃま、海に生きるものを代表してこのオレ様がニンゲン喰っちまうか」
 左で、
 「ああ喰っちまえ、喰っちまえっ」
 ひとり演技が終わり、オセアーノンは身体を船に乗せ、襲い掛かってくる。船が揺れると同時にエイトとヤンガスは武器を構え戦闘態勢に入っていた。
 だがバランスを崩したため一歩遅れた旅人たちは、オセアーノンが吐いたもえさかる火炎に包まれる。
 「うわっちゃっちゃっちゃ。このイカ野郎っ」
 ヤンガスは怒りの攻撃を加え、エイトはホイミで双方を回復させる。オセアーノンは太い触腕でなぎ払い、再度攻撃してきたヤンガスを打つ。防御が間に合わなかったヤンガスは吹っ飛んでしまい、エイトを巻き込んで手すりに叩きつけられてしまった。
 「兄貴っ」
 「だ、大丈夫。よろいが守ってくれたから」
 ヤンガスト手すりのサンドイッチになってしまったエイトだが、新調したよろいのおかげでたいしたダメージは受けていない。ヤンガスに回復を施し、テンションをためてから攻撃するように指示した。
 敵の気を引くために、単身オセアーノンに挑むエイト。ブーメランを投げダメージを負わせるもまだ倒れる気配がない。人の胴体ほどの太さの触腕が上から振りおろされたが、左に動き難を逃れる。
 しかしもうひとつの触腕が彼が逃げた方向からも振り払われ、かわしきれずなぎ倒される。とっさで盾で防御したものの、反動がすごく動作が遅れてしまった。
 そこにヤンガスの会心の一撃がなぎ払ったほうの触腕を使いものにならなくさせる。血圧が上ったオセアーノンは再びもえさかる火炎を吐き、やけどを負わす。
 薬草と呪文で回復していると、残った触腕が襲い掛かってきた。瞬時にエイトがギラを唱え、敵の動きをひるませる。
 ヤンガスの斧がうなりを上げるなか、負けじとオセアーノンは力で押し返す。
 均衡する中、思いもよらない方向から火の手が上がった。火はヤンガスとオセアーノンの触腕を一瞬だけ包むと、イカの腕にだけ火の手が移る。
 丸焼きになるのを防ぐために腕を宙に振る伸びた赤い腕。隙だらけの敵に待っていたのは人間たちの総攻撃。いや、正確には人間と獣のそれだった。
 さすがの巨体も耐え切れなかったのだろう。
 支えていた触手が船から離れ、身体ごと海へと消えていった。

 

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