瞳の先にあるもの 第2章 プロローグ

 とある人物、いや、人とは呼べぬ存在は少し先を見据えている。何故か最近おぼろげになるのだが、ある人物が離れているとくっきり見えるようだ。
 変わってここは王家の別宮殿と名高く、王族が休息する際に利用されると一般的に言われている古き建物。とはいえ、森に覆われているためか、一般人は滅多に近づかない。入ったら一生出て来れないともっぱらの噂で、風か森の声を聞かない限りとても歩けないというのだ。
 「事実は違うんだが。んま、都合がいいからかまやしないけどさ」
 長く艶やかな黒髪に、黒を基調とした服。足元もシンプルで全体的に動きやすい服装が特徴の女剣士。
 だが、プランジング・ネックに施された情熱の赤は、本人の性質を現しているかのよう。
 爽やかな風が彼女を包むと、一部分が歪む。しずく型をしたそれに、女剣士は話しかけた。
 「どうしたんだい、アルタリア」
 「やあフィリア。アマンダたちが、そちらに行くよ」
 「はい? 何でさ」
 「ヘイノに、会いに行くって」
 「あんたらに止めといてくれって頼んだのに。んも~」
 「アイリに似てる。しょうがない」
 「ああ、まあね」
 はあ、と頭を抱える女性。常に柄へ手を置いているのは、癖なのだろう。
 「細かいことは後で聞く。結界の鍵は必要かい」
 「うん。私が、細工しておく」
 「頼んだ。ちょいと離れられなくてね」
 「大丈夫?」
 「全員無事さ。問題はここから先だね」
 「それは、うん。何かが動いてる」
 「アタシも聞いたよ。こりゃ大事になりそうだ」
 「どうする」
 「今までと変わらないさ。ただ、今回ばかりはイレギュラーが多発しそうだけど」
 「うん。様子見る」
 「イザとなったら力使いな。どうしようもないバカは叩きのめすしかない」
 「う、うん」
 「仕方ないのさ。ハーウェルの件もあるだろ」
 「そうだね」
 「んま、フィランダリアはしばらく大丈夫だろうさ。ゼノスが上手くやるだろ」
 「国は、平気だと思う。心配なのは、子供達」
 「だね。でも必要以上に表に出るワケにも行かないのがもどかしい」
 パシッと右手の拳と左掌を合わせるフィリア。
 「何かあったら、伝える。鍵お願い」
 「ああ。生成するからちょいと待っとくれ」
 「うん。じゃあまた」
 歪んだ形が消えると、再びひとりになるフィリア。
 「これ以上魔法を悪用されるのも癪だ。どうしたモンかね」
 ふう、と空に吐き出した息は、空気にとけてしまった。

 

 

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