東京異界録 第1章 第10録

 赤土と勝負しにやってきたハズが、なぜか竜間とその取り巻きと喧嘩するハメになったアタシたち。前者に関しては事前に取り付けられていたからともかく、後者は完全な邪魔者で、アタシたちのことが鼻につくらしい。
 奴はいつも隙を狙っては失敗するを繰り返し、今に至っているのだが。
 「とうとうアタマ切れちゃったかな」
 「アイツは元々イっちまってるじゃん。手段を選らばねえセコい奴だし」
 「ただの目立ちたがり屋だろ、俺のところにも奇襲しに来る」
 三者三様だが、面倒な人間だと思っているのは共通しているよう。とりあえず、取り巻きをシメたら、本人を料理するか。
 アタシは突きだしてくるナイフをかわし、肘鉄を相手のみぞおちにお見舞い。ひざを折らせた後、右側にいた奴のあごを下から攻撃。
 着地と同時に右足に力を入れ、左足に体重を移した瞬間に蹴りを繰りだす。
 よし、これで二人減らせた。
 ユキも同じようにカウンターで相手に地べたをなめさせているし、赤土も豪腕を生かして投げ飛ばすなどをしている。
 徐々に減っていった竜間の舎弟は、残り五人になったところで逃げだしてしまった。
 まあ、頭に人望がないとこうなるよな。
 ちなみにアタシたち三人はアウトローなので、徒党を組んでいるわけじゃない。ユキとアタシは姉弟だから一緒に行動していることが多いだけだ。
 赤土は服をはたいたあと、指をボキボキならす。
 「竜間、ちょうどいい。お前にも借りがあるからな。まとめてやってやる」
 「くっくっくっ」
 顔を下にしながら笑う竜間。こいつは悪知恵こそ働くが、喧嘩が強いわけじゃない。一般人よりは強いと思うが。
 それはともかく、どうも様子が変だ。いつもなら、こういう状況になると一目散に逃げるのに。それに、なんだか妙な感じがする。
 様子を伺っていると、竜間は見たこともない速さで赤土を鉄パイプで殴り倒す。普段では考えられない力だ。
 「っててて。何だ、いきな」
 跳躍した竜間が、赤土の頭を狙って獲物を振り下ろす。間一髪転がってよけたが。
 恐ろしいことに、鉄パイプが触れた地面が、まるで爆弾でも仕掛けてあったかのように破裂しちまったのだ。もはや人間の力じゃない。まさか、あいつ。
 「ねーちゃん、マズいんじゃないの。竜間の奴、とりつかれてるんじゃ」
 「たぶんな。でも、赤土がいるから力は使えねえし」
 ナイショだもんね、とユキ。彼も動きで気づいたのだろう。
 「とりあえず竜間を気絶させるか。このままじゃ赤土がやべえ」
 了解っ、と通称、雪見。アタシたちは彼のほうへと走り、弟が赤間の隣に、アタシは竜間の背後にたつ。
 「コラ竜間、用があんのはアタシのほうだろ」
 体をゆらしながら、こちらを向く奴。
 「ば、馬鹿よせ紅葉。そいつは今正常じゃ」
 「そう思うなら協力してよ、とりあえずオネンネさせなきゃ」
 わ、わかったと赤土。どうやら考えが伝わったらしい。
 アタシは構えて、相手の出方を待つ。普段と動きが違うからな。
 まるでゾンビのような動作をしていた奴が、武器を構えたとたん訓練を受けた人間のような動きに変わる。
 だが、こちらもビシバシ受けてる身。難なくかわし、通り過ぎた方角へと体を向ける。
 どうやら、攻撃する以外の動きは鈍いらしいな。しかし振り向いた奴の目は、昼間に見た狼と同じく血走っているし、あんな一撃を食らったら命がねえ。
 だからといってよけてばかりじゃ解決にもならない。とにかく、気を失わせて赤土には帰ってもらい、それから怨鬼を取りださなきゃな。
 何度か単調な攻撃を回避し、パターンを覚えこむ。カーラ君との組み合いに比べれば何てこともない。
 体力が続かなくなってきたのだろうか、竜間は息を切らし始める。
 よし、今がチャンスだ。
 アタシが体の中央を狙おうとしたとき、赤土が竜間を羽交い絞めにする。もはや合図も言葉もいらない。
 アタシは力をこめて問題児の腹を殴った。いい場所に入った感触があり、相手の手から力が抜ける。
 ふう、ようやくひと息つけるな。
 「姉貴、危ないっ」
 ユキの声がしたと思ったら、アタシの体は宙に浮いていた。首をつかまれ呼吸ができない。
 元凶の腕をたどってみると、その先には赤土が立っていた。
 『ククク、あの兄弟に手解きを受けている割には、ずいぶん甘いのだな』
 げ、どうなってやがる。
 足を上げて反撃しようにも、体に力が入らない。
 なぜかアタシのつま先が地についたとき、弟が前に立っており、相手は倒れこんでいた。
 「大丈夫」
 「げほげほ。あ、ありがとう。そうだっ」
 急いで赤土を見ると、竜間と同じような動きで立ち上がり、近くにある鉄パイプを手にする。
 「ユキ、赤土にとり憑いたみたいだ」
 「うげっ。竜間とは別モノ、それとも同じ」
 「わかんねえけど。でも、これで力を使っても問題なさそーだ」
 うなづきあい、アタシは手甲を装備し、ユキは刀を装備する。
 「アタシが怨鬼を引き離すから、おとり頼んだぜ」
 「お任せーっ」

 

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