東京異界録 第3章 第28録

 霊子によって発生させた竜巻から姿を見せた楓は、服装こそ変わらなかったが、髪と瞳の色が抜け、白と化していた。まるで、顔はそのままだが急激に老化したような雰囲気でもある。
 しかし、加阿羅(カーラ)は何ひとつ動かさずに、その様子を見ていた。
 風が収まると、大きなため息をつき、
 「確かに筋は合っているな。弱い者から攻略していき強敵に備える、というのは」
 「あの加具那(カグナ)だからな。あのお方でも手を煩わせる」
 「その配下である貴様が力をつけるのは当然のこと。だが、ひとつ過ちがある」
 そう口にした加阿羅(カーラ)は右手を上げ、空から緑色の光のカーテンを出現させる。目に手を当てるほどの光量は、先ほどの竜巻と同じぐらいの時間で消える。
 しかし、直後にバサッ、という音が彼以外の耳を貫き、天からは半透明な緑色の鷹が舞い降りてきたのだ。
 しかも、加阿羅(カーラ)の場合は髪も伸びて姿も変わっており、異国風の服をまとっている。
 最大の違いは、彼の身長より大きい羽根が背中についていることだった。
 「要(かなめ)が一、木(もく)の加阿羅(カーラ)。貴様などに負けはせん」
 広げられた羽根から猛烈な霊子が放たれる。幼い子供ならば吹き飛ばされそうな程の風は、一同の動きを止めるのには十分過ぎた。
 とはいえ、こうなることを予測していた加濡洲(カヌス)と伽糸粋(カシス)は、仲間たちを一ヶ所に集めて結界を張っていたため、何ら影響はない。
 「ば、馬鹿な。たかだか四千年しか存在していないはず、なのにこの力はっ」
 「だから言ったであろう。過ちだと。私が本気になった以上、貴様に勝ち目はない」
 鷹がキィエェェェ、と鳴く。
 「ふ、ふん。確かに驚いた。だが、この小娘を殺せはしないだろ。知ってるんだよ」
 お前は年頃の女を殺すことが出来ないってね、と楓。敵の身辺調査は基本中の基本、弱点を指摘された加阿羅(カーラ)のまゆが、ほんの少し息をする。
 だが、それは相手に悟られることはなかったよう。彼は口を歪ませ、それがどうした、と返した。
 「直接手を下さなくとも方法はいくらでもあるが」
 「なっ、カラちゃんっ」
 「心配しないで、雪祥(ゆきひろ)君。売り言葉に買い言葉だから」
 「そーそー。テキトーなコト言ってるだけだからよ」
 危うく飛び出しそうになった人間の肉親をけん制する妖怪兄妹。永い間一緒にいれば、能力や言動、戦略、戦術の立てかたなど、様々な方面でどう立ち回るのか手に取るようにわかるからだ。
 むしろ今までの態度が人間に合わせていたに過ぎず、あの彼が本性だとも伝えた。
 怜悧な瞳を持ち、洗礼された姿勢からゆっくり動き出すと、
 「レディファーストだ。傲慢さを勇気と称えてやろう」
 「小僧が。なめるなぁっ」
 楓の姿をした妖怪は、大鎌を手に加阿羅(カーラ)へと向かっていく。だがそんな単純な攻撃が当たるはずもなく、軽々とよけられる。
 同時に彼の背後から空気の振動が感じられた。鷹の鳴き声で動きが一瞬止まると、主は楓と異常空間との直線上で交わる位置まで移動。弟から報告にあったことを思い出し、すぐに撃退できるように構える。
 しかし出てきたのは蝿ではなく楓が手にしているのと同じ鎌だった。武器は生き物のように動き出し、標的を定める。
 高速回転をしながら敵へ向かっていく鎌は、目の前にいる獲物を捕らえようとした瞬間、自身の最期を迎えた。加阿羅(カーラ)の放った鞭が撃沈させたのである。
 楓はさらに空気を振えさせ空間を呼び出だした。今度は蝿と共に大量の怨鬼(おんき)や怨霊まで同行している。
 校内で倒した数を引き連れているのか、上空から見れば黒く低い雲が形成されているようである。
 「ほお、やはり霊死士(れいしし)類だったか」
 「さすがに気づいていたか。お前ではやり辛いだろうさ」
 相対するからねえ、と楓。霊死士(れいしし)とは死んだ者を操る術士であり、風や水といった自然を中心とする万物士(まんぶつし)とは真逆の性質を持っている。つまり、端的に言えば理に順ずるか反するかの違いである。
 要するに戦いの最中では相性が最悪なので、天然士(てんねんし)の攻撃は霊死士(れいしし)に届きにくい、ということだ。
 逆に霊死士(れいしし)側のものは効きやすい。理由は文字通りで、死という名の破壊行動をするからだ。
 楓を乗っ取っている女妖怪は、見た目を蝿に変えた死霊を扱っていたのである。
 「もはやこの勝負見えた。お前もアタシの力におなりっ」
 今までとは比較にならない大軍に、思わず目を閉じてしまう一行。だが、加濡洲(カヌス)と伽糸粋(カシス)、クサナギに至ってはそうではなかった。
 彼らに映っている光景は、楓が呼び出した者たちの動きが止まり、微動だにしない様子。彼女に至っては何が起きたの理解できず、放心してしまっていた。
 「貴様は本当に私のことを調べたのか。杜撰(ずさん)にも程がある」
 死霊たちは何かに操られるかのように、ゆっくりと体を回転させていく。ほぼ全体が召喚主に向くと、よろよろと揺れ、近づく度に速度が増していく。
 「そ、そんな。何故こやつらがっ」
 彼らの上には、加阿羅(カーラ)の鷹が舞っており、鋭いくちばしも楓に向けられている。
 「簡単なことだ。私も霊死士(れいしし)だからだ」
 目を見開いた楓に対し、加阿羅(カーラ)は右腕を突き出す。立ち尽くしている少女とぶつかる直前に、彼は腕を天へと振り上げる。
 黒い霧と化した死霊たちは瞬く間に楓を包み込むと、緑色の鷹もその中へと襲撃していった。

 

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