まったくどうなってるわけ、ここの洋館は。どうしてくぐった先にテレポートの陣があって飛ばされなきゃならないのよ。
あーぁ、やっぱりくるんじゃなかったかな。あの二人だけじゃどうも心配になっちゃうのよね。
ともかく早くロープを探してクガクとリュイと合流しなきゃ。
ところで、ここはどこなのかしら。建物の中だってことはわかるんだけど。後ろに入り口らしき大きな扉があるから、たぶん一階よね。大きな階段とその前には左右に伸びた少し細い同じものもあるし。
うう、妙な寒気がするのは気のせいね、きっと。
あたしは杖をいつでも振るえるように構えながら、とりあえず反時計回りに部屋を回ってみることにした。
入り口から見てすぐ右上にある部屋へと足を踏みいれてみる。どれだけ掃除していないのとツッコミたくなったけど、元から住んでない建物だから仕方がない。ここは客間だったのか、豪華なソファーが朽ち果てていた。
それから合計四つの部屋にお邪魔したけど、とくに何もなかった。変に思ったのは、ここはお金持ちが住んでいたらしいのだけど、物色された跡がないってこと。住人が出ていったままのような気もしたのよ。
ということで、今度は階段をのぼって同じ配置にある部屋へと突入する。
何かしら、どうしてか楽しくなってきたわ。
この部屋には一枚の大きな絵がかけられていた。きれいな女の人のドレス姿が描かれている。
あれ、今、目が動いたような。
もう一度ずっと見てみる。初めは何ともなかった女の目が、徐々に赤みをおびていき、瞳が左右に動きはじめる。飽きたのか、また普通の絵だけになった。
な、な、なっ。何なの、あれはっ。
あたしは走って部屋の外にでた。夕日が当たって光ってたワケじゃない。今は日が暮れて真っ暗だもの。
カニみたいに歩き隣の部屋へ移動する。自分でも手が震えているのがわかるほどだ。
助けを求めるように部屋に入ったあたしは、見渡して何もないことを確認する。ズルズルと座りこんで、ほこりに気をつけながら深呼吸。早く二人に合流して秘法をとったらでなくっちゃ。
『お茶はいかが』
「ありがとうございます、もらい、って」
思いっきり頭をぶつけて騒がしくしてしまう。しょうがないじゃない、目の前に若奥様とカッコイイ執事の人がいるんだからっ。
『大丈夫ですか。驚かせてしまいましたかね』
『驚かないなんて可愛げがないわ』
くすくす、と笑いながら執事に返す若奥様。ちょっといったいどーなってんのよっ。
『ごめんなさいね。久しぶりのお客様だったからつい話しかけてまったの』
『無粋ながらお願いがありまして、あれ』
『あらあら、困ったわ。目を開けながら寝てしまったのね』
『姉上、気絶しているのでは』
う、うーん。あれ。
一瞬、記憶が飛んでしまったみたいで、ついさっきのことが思いだせない。でも、たしかに目の前にいる人たちには、会った気が。半透明の手袋が見えたけど。
『これで大丈夫ですね。実はお願いがありまして』
「ゆゆゆ、幽霊がしゃべってるっ」
『あのー、先ほどからお話しさせて頂いてるのですが』
『真面目に返してどうするの。お嬢さん』
若奥様たちはあたしに頼みたいことがあるらしい。突然やってきた連中を追いだしてほしいんだって。
そいつらのせいで、この人たちは安らかに暮らせないらしい。
『詳しいことは申し上げられませんが、この洋館にはある物を守るために存在しています』
『わたくしたちは随分前に死んでいますが、持ち主が現れるまで守り続けなければならないのです』
「でも守ってるならあたしに頼まなくても追っぱらえるんじゃ」
『こちらのことを入念に調べてるみたいで、力を封じられてしまいました』
『そこにお嬢さんが来てくれた、というわけなの。問題が解決すれば、宝石と秘法を差し上げてもいいわ』
「え、ホントですか」
『ええ。お嬢さんたちが気に入られれば、の話だけど』
ど、どうしてあたしに連れがいることがわかったの。もしかして、はじめから仕組まれていたってこと。
『納得して頂けたようですね。では』
「ちょっと待ってください、あたしはまだやるなんて」
『どちらにしろ、侵入者は生かして帰すことができません。特別な事情がない限りは』
う、笑顔でそんなおっかないこといわないでよ。カッコイイ執事さん。
どうやら選択肢は一つしかないみたい、ね。よし、こうなったら。
若奥様は扇で顔を隠しながらも、瞳はうれしそうにしている。開いていたものをたたみ、扉をさして、
『さあ、中央広間へどうぞ』
ん、何やら邪悪な雰囲気が感じとれる。杖に力をこめて出入り口へと歩いていく。
執事さんが開けてくれた先には、布オバケ、人魂の死霊系の魔物が現れていて、ふわりと背をむけながら手すりを乗りこえていく。
『ご武運を』
そういうと、彼らは姿を消した。
あたしは廊下を走り階段を駆けおりる。着いたと同時によろいのお化けも現れた。そして、杖を地面と平行に構え、魔法を唱えはじめる。
連中は布オバケと人魂、中身のない槍を持ったよろい。サガットであるあたしが得意としているのは回復と補助魔法。まだ勉強中だから、全部は使えない。
攻撃力と防御力を上げるオンスイとデーフェンスをよけながら完成させ、自身にかける。攻撃力があがったところで、近くにあるランプのつけ根を攻撃。落ちてきたランプをキャッチすると、布オバケに投げつけた。
燃えてなくなると、次は人魂に狙いをつける。倒しやすいのからがいいもんね。
人の顔、というよりは悪魔の顔をしている人魂は、回復魔法に弱い。あたしにしてみれば格好なえじきだ。
とっとと消えてもらったあとは、よろいの魔物。こいつはどうしよう。攻撃魔法に弱いんだけど、あたしはまだ使えないし、剣士のように力があるわけでもない。完全に持久戦になる。
杖の上部分を体の後ろにくるようにもち、しばらく様子をうかがう。向こうも出方を見てるみたいね。
あたしは右側に走る。するとよろいは左側に回りこみ距離を保とうとする。この間、杖を光らせたのを見られてはいないらしい。
一度止まると、今度はよろいのほうが突進してきた。タイミングをはかり右へジャンプ。でも脚力が足らず、奴の攻撃範囲を抜けきれなかった。
あたしは横払いにされた槍で一撃を受けてしまう。
そして、あたしのおなか部分からは、湯気のような煙がでてくる。煙は本人の姿を覆い隠し、敵の視界を奪った。
そう、あたしは動きながらパントムを唱えていたの。相手の視界を奪い、攻撃のミスを誘う魔法よ。
攻撃さえ当たらなければもうこっちのもの。槍に気をつけながら左足、右肩と攻撃し沈黙してもらった後、頭部を思いっきり殴りつけた。
よろいはガラガラと崩れ落ち、ひとつずつバラバラな部品と化す。
息を切らしながら落ちていく破片を見ていたあたしに、どこからか拍手が送られてくる。
振りかえってみると、若奥様と執事さんが同じ高さまで降りてきていた。
『素晴らしい。少し重荷かと思いましたが』
『お約束通りシャオルの爪を差し上げますわ。あちらの階段を上った奥の部屋にあります』
「あ、ありがとうございます」
『御機嫌よう、お嬢さん』
『後はよろしくお願い致します』
そういって、二人の姿が視界から見えなくなった。
指定された部屋にいき、奥のテーブルにおいてあった箱を開ける。
すると、緑色に光る魔物の爪のような形をしたモノがあった。あたしの指先からひじぐらいの大きさだ。
「うわ~、すごくキレイ。って、そんなこといってる場合じゃないわ」
あたしはその辺にあった布のほこりを払い、宝石をぐるぐる巻きにする。部屋をでたあと、残りの部屋に目をとめた。
そういえば、この部屋は何があるのかしら。
ゆっくりと少し開けてみると、なぜか食器のこすれる音が。相手は野性の勘がはたらくようで、こちらにすぐ気がつく。
「よお、フィリスッ。お前も飲もうぜ」
世界一の大バカ者の幼なじみ。有無をいわさず今日一番の攻撃をお見舞いした。
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